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第12話【魔皇帝の涙と、元大天使の不覚】
「……僕の思った通り、最高の執着を育ててくれたね、アイラナちゃん」
耳元で囁かれる、いつも通りの意地悪で楽しげな声。
いつもなら、アイラナは悔しげに言い返したり、顔を真っ赤にしてそっぽを向いたりしていたはずだった。
だが、この時のアイラナは違った。
「――っ、……う、……」
アーモンドの胸元を小突いていたアイラナの拳から、ふっと力が抜ける。
俯いた彼女の長い睫毛が激しく震え、次の瞬間、大粒の涙がポロポロと、真珠のように零れ落ちて月光に濡れる花びらを叩いた。
「え……?」
想定外の反応に、アーモンドの薄紫色の瞳が見開かれる。
アイラナの胸の中は、もう限界だった。
神罰のせいで会えなかったという納得。
それでも手紙一つ寄越さなかった男への憤り。
そして何より、この800年間、
「もう二度とあの笑顔に会えないのではないか」
という絶望に震え、たった一人で魔界の重圧を背負い続けてきた、底知れない孤独。
それらの感情が一気に綯い交ぜになり、決壊したダムのように涙となって溢れ出してしまったのだ。
「お前は……お前はいつもそうだ、レミエル……っ。私の心を弄んで、楽しいか……?」
声を震わせ、涙に濡れたレッドダイヤモンドの瞳でアーモンドを睨みつける。
だが、その強い眼差しの奥にあるのは、これ以上ないほどに脆く、傷つき、それでも彼を愛し続けてきたピュアな少女の心そのものだった。
「生きているのか、死んでいるのかすら分からない男を……ただ信じて待つのが、どれほど恐ろしかったか……お前に、分かるか……っ」
ポロポロと、次から次へと溢れて止まらない涙。
魔皇帝としての威厳もプライドもすべて投げ打ち、ただ「一途な恋心」の全てをぶつけて泣きじゃくるアイラナの姿は、息を呑むほどに儚く、そして美しかった。
その瞬間、アーモンドの脳裏から
「ドSに愉しむ」
という余裕が完全に消え去った。
(……ああ、やってしまった。不覚だ)
胸の奥を、強烈な愛おしさと、自責に似た鋭い痛みが貫く。
彼女の寂しさを煮詰めさせて楽しもうなどという自分の歪んだ独占欲が、これほどまでに彼女の心を傷つけていたのだと、その涙が証明していた。
「……ごめん」
昼間の冷徹な皇帝でも、夜の鬼畜な悪戯っ子でもない。
800年前、戦場でアイラナに恋に落ちた当時の
「大天使レミエル」
としての、低く、切ない本音の声だった。
アーモンドは優しく、けれど壊れ物を扱うように慎重に、アイラナの頬に手を添えた。
長い親指の腹で、ぽろぽろと零れ落ちる涙をそっと、丁寧に拭い去っていく。
「悪趣味な意地悪がすぎて、君を泣かせるなんて……本当に、僕は最低の男だね」
アーモンドは極上の流し目を今度はひどく優しく細めると、アイラナの額に、慈しむような愛を込めてそっと自分の額をコツンと合わせた。
片耳のレッドダイヤモンドのピアスが、アイラナの涙の跡を優しく照らす。
「もうどこにも行かないし、君を一人にしない。800年分、君が泣いた分も、寂しかった分も……これから僕のすべてを使って、甘やかしてあげるから。だから……ねえ、アイラナ。僕の目を見て?」
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ぽんぽんず
名前から「ちゃん」を外し、一人の男として真っ直ぐに愛を乞うレミエル。
誰にも見せない魔皇帝の涙と、誰も動かせなかった最強の大天使の独占欲が、800年の時を超えて、ついに完璧に溶け合った瞬間だった。