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ぽんぽんず
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第13話【夜を溶かす抱擁、大天使の甘言】
「……これから僕のすべてを使って、甘やかしてあげるから」
その言葉は、嘘偽りのないレミエルの本心だった。
アーモンドは泣きじゃくるアイラナを、まるで壊れ物を扱うように、けれど二度と離さないという強い意志を込めて、その細く軟柔な腕の中にきつく抱きすくめた。
「っ、……レミ、エル……」
「うん、ここだよ。もうどこにも行かない」
月光が優しく降り注ぐハウメア湖の花畑。
夜風がそよぐ中、アイラナは彼の胸に顔を埋め、彼の体温と、懐かしい清らかな魔力の香りに包まれていた。
800年間、たった一人で魔界の重圧に耐え、凍てついていた彼女の心が、彼の腕の熱によってじわじわと、跡形もなく溶かされていく。
アーモンドは優しくアイラナの背中を撫で、ときおり愛おしそうに、その薄緑色の髪に何度も唇を寄せた。
「800年も、一言も連絡しなくて本当にごめんね。……君を試すような真似をして、こんなに泣かせるなんて、僕は本当に鬼畜で最低の男だ。……でもね、それくらい、君に狂って欲しかったんだ」
アーモンドはアイラナの身体を少しだけ離すと、涙に濡れた彼女の美しい頬を、長い指先で優しく包み込んだ。
睫毛の長い流し目の薄紫色の瞳が、これ以上ないほど甘く、そして執着に満ちた光を湛えてアイラナを見つめる。
「僕だけの可愛いアイラナ。……これからは、毎日君の名前を呼ぶし、毎日愛してるって囁いてあげる。君が『もう耳が腐っちゃう』って怒るくらい、一生分の甘い言葉を、毎晩君に注ぎ込んであげるから」
「お前は……っ、そういう恥ずかしい台詞を、よくも平然と……」
アイラナは赤面し、涙の残るレッドダイヤモンドの瞳を潤ませて睨みつけたが、その声にはもう先ほどのような鋭さはなかった。
ただ、愛しさに負けたウブな少女の声だった。
「平然となんて言ってないよ? 僕だって、君が愛おしすぎて心臓が破裂しそうなんだから」
アーモンドはクスリと愛おしそうに微笑むと、アイラナのふっくらとした唇に、今度は触れるだけではない、熱く、深い口づけを落とした。
一度目や二度目の意地悪なキスとは違う。
彼女の800年分の孤独を全て埋めるような、慈愛と、激しい独占欲が綯い交ぜになった甘美な抱擁。
「ん、……っ、あ……」
何度も、何度も、夜風が優しく花畑を揺らすたびに、二人は唇を重ねた。
耳元で囁かれる
「可愛いね」
「大好きだよ」
というレミエルの掠れた甘い声が、アイラナの脳を心地よく麻痺させていく。
(ああ……悔しいのに、こんなにも、幸せだ……)
アイラナは彼の首に細い腕を絡ませ、自ら深く、その極上の甘やかしの中に溺れていった。
ゼウスの神罰も、人間界の人口も、魔皇帝としての重圧も、今の二人の前には何の意味も持たない。
ただお互いの存在だけを貪り合うように、ハウメア湖の夜は、どこまでも甘く、深く、二人のためだけに更けていくのだった。