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長い眠りの底から、涼ちゃんはゆっくりと浮かび上がるようにして、意識を取り戻した。
まぶたの隙間から、やわらかな光が差し込む。
枕元には、お母さんとお父さんが心配そうにのぞき込んでいた。
「あ……」
声を出そうとしたけれど、
喉が乾き切っているせいか、かすかな息しか漏れなかった。
それでも、お母さんはすぐに微笑んで、
「無理しなくていいよ。ゆっくりでいいから」と、そっと手を握ってくれる。
お父さんも、落ち着いた声で「大丈夫、ゆっくり休みなさい」と言う。
両親がこんなふうに傍にいてくれるのは、なんだか少しだけ嬉しい。
ずっと遠かった家族のあたたかさが、胸にじんわり広がるようだった。
しばらくして、両親がスタッフと話をするために病室をあとにすると、
こんどは𓏸𓏸が、そっと薬と水を用意してベッドの傍らに立った。
「涼ちゃん、お薬、飲めそう?」
𓏸𓏸がゆっくり身体を起こしてくれて、
スプーンでそっと薬を口に流し込む。
涼ちゃんはまだ意識がぼんやりしていたけれど、
やっとのことで薬を飲み下すことができた。
「えらいね……ゆっくりでいいよ」
𓏸𓏸がやさしく頭をなでてくれる。
その日から、涼ちゃんは少しずつ、
𓏸𓏸の声だけには反応を返すようになっていった。
「今日は外、いい天気だったよ」
と言えば、うっすらと視線で返してくれる。
「パン、また焼いて待ってるからね」
そんな声に、小さくうなずこうとする。
まだ全てがぼんやりしているし、
思うようには体も言葉も出てこないけれど――
焦らずに、ゆっくり回復していこう。
𓏸𓏸と家族に囲まれた、静かなぬくもりの中で、
涼ちゃんはすこしだけ、心が軽くなる気がした。