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「シランの花ですね」
レンブラントは持っていた花をロミルダの墓石の前に置いた。
「祖父がこの花を君のお祖母様にと、僕に持たせたんだ」
彼女は、白や薄ピンクの花の名前をシランと言った。レンブラントは花には詳しくないので良く分からないまま受け取り持って来ただけだ。
「ダーヴィット様が……」
またあの顔だ。彼女は穏やかに笑みを浮かべ、シランの花束を見つめていた。
「あなたを忘れない、変わらぬ愛」
突然発せられた言葉にレンブラントは首を傾げる。
「シランの花言葉です」
(なるほど、この花にそんな意味があったとは思わなかった……)
レンブラントはしゃがみ込み、自分で持って来た花束を凝視する。あの日のロミルダに寄り添うダーヴィットの姿を思い出した。
「ただ、好きな人と一緒にいたいだけなのに……難しいですね」
彼女を仰ぎ見ると、切なそうに話しているのに彼女の顔はやっぱり微笑んでいた。もやもやとする。
『見識の狭さはお前の欠点だ』
不意に祖父の言葉が頭を過り、唇をキツく結ぶ。
「君のお祖母様は、どんな方だったんだい」
決めつけるのではなく、彼女を知るべきだ。それに、彼女という人間を理解したい、彼女にもっと近付きたいと思っている自分がいる。不思議だった、こんな気持ちは生まれて初めてだ。
「お祖母様は、淑女の鑑と呼ぶに相応しく気高く、厳しくも本当に優しい人でした」
先程教会に寄付を寄せ、慈善活動をしていたと言っていた事を思い出した。彼女の口振りやそれらを踏まえても、きっと立派な人間だったのだろうと直ぐに想像が出来た。
「私は誰かの為に笑うのよ。笑顔は人を幸せにしてくれる、だから辛い時も悲しい時も笑っていたいの、それが口癖でした……。でも、私はお祖母様みたいになれそうもありません」
フワリと風が彼女の長い髪を揺らした瞬間、くしゃりと歪んだ彼女の笑みが見えた。口角を無理矢理上げて目を細めている。
「っ……⁉︎ レンブラント様⁉︎」
無意識だった。気が付けば手が勝手に彼女の腕を掴み勢いよく自身へと引き寄せていた。華奢の彼女の身体はいとも簡単に、レンブラントの腕の中に落ちてきた。地べたに尻をつけ座り込む自分は情けない姿で、まるで子供みたいだ。だが気にする事なく彼女をそのまま抱き締めた。
「君のお祖母様は確かに立派な方だったかも知れない。でも君は君だ。彼女の様になる必要などないよ」
「レンブラント様……」
不謹慎かも知れないが、目を丸くしながら見上げてくる彼女は、やはり愛らしいと思った。
暫く抱き合ったままでいたが、近くで鳥の羽音が聞こえた事で我に返り現実に引き戻される。改めて今の状況を見て、顔が熱くなるのを感じた。
「す、すまないっ、ドレスを汚してしまった」
誤魔化す様にしてレンブラントはティアナを抱き起こし、ドレスの汚れを軽く叩き落とす。
「気になさらないで下さい。これくらい大した汚れではありませんから」
そう言ってクスリと笑った彼女に、レンブラントもつられて笑った。そして思う。
「その笑顔の方が、僕は好きだな」