テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
若井が保健室に戻ってきた。
「おーい、何してんだよ。元貴、寝てた?」
いつもと同じ調子なのに、
俺はどうしても落ち着けなかった。
さっきの涼ちゃんの言葉が、
耳の奥でずっと響いている。
「……まぁ、ちょっと」
曖昧に答えると、隣に座っていた涼ちゃんが先に口を開いた。
「若井、君って本当に鈍感だね」
「は? なんだよ、いきなり」
若井が眉をひそめる。
涼ちゃんは、にっこりと微笑んで肩をすくめた。
「元貴がどんなに頑張ってるか、
どんなに不安がってるか、気づいてないんでしょ」
「……っ」
心臓が跳ねた。
なんで涼ちゃんはそんなことを、若井の前で言うんだ。
「俺は……」若井が口を開きかけると、
涼ちゃんはわざと俺の肩に軽く手を置いた。
それはただの励ましに見えるかもしれない。
でも俺には、若井に見せつけるような
動作にしか思えなかった。
「僕は、ちゃんと見てるよ。元貴のこと」
若井の目が一瞬揺れた。
それに気づいたのか、涼ちゃんはさらに畳みかける。
「もし君が見てくれないなら、
僕がずっとそばにいる。……それじゃ駄目?」
「っ……!」
若井が息を呑むのが分かった。
俺の心臓も爆発しそうにうるさく鳴っていた。
「お、おい、涼ちゃん……何言ってんだよ……!」
動揺を隠しきれない若井の声。
でも涼ちゃんは涼しい顔で笑っている。
「ただの本音だよ。元貴は大事だから」
若井の視線が俺に突き刺さる。
問い詰めるような、必死に何かを確認しようとする目。
逃げ場なんてなくて、俺はその場で固まってしまった。
――これが、決定打だ。
若井はもう、無視できないはずだ。
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!