テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
放課後。
昇降口で靴を履き替えていたら、背中をぐいっと強く引かれた。
「っ!? 若井!?」
振り返る間もなく、腕を掴まれて
人気のない中庭の裏まで連れていかれる。
夏の湿った風が肌にまとわりつくのに、
俺の背中は冷たい汗でびっしょりだった。
若井は俺の腕を放すと、真正面から睨みつけてきた。
いつもは明るい茶色の瞳が、
今は鋭くて、まるで捕まえた獲物を逃さないみたいに。
「……お前、涼ちゃんと何話してたんだよ」
低い声に心臓が跳ねる。
「な、何って……別に、大したことは」
「誤魔化すな!」
珍しく声を荒げられて、びくっと肩が揺れた。
若井の顔が近づいてくる。
「さっきの、あれ……どういう意味だよ。
『僕がずっとそばにいる』って……」
その言葉を繰り返す声には、嫉妬と焦りが滲んでいた。
俺は視線を逸らすことができなかった。
「……別に……励ましてくれただけで」
「そう見えなかった」
若井は苦しそうに眉を寄せた。
「元貴、お前……涼ちゃんのこと好きなのか?」
「っ……!」
息が止まった。
その問いを真正面から浴びせられるなんて、
考えもしなかった。
「答えろよ……俺にはっきり言え」
若井の声は震えていた。
強気なのに、不安で
押し潰されそうな必死さが混じっていて。
「……若井、なんでそんなこと聞くんだよ」
「なんでって……っ」
若井は言葉を詰まらせ、ぎりっと歯を食いしばる。
そして、俺の肩を両手で掴んで、
逃がさないように近づいてきた。
「俺……無理なんだよ。
元貴が誰かに取られるなんて……考えられねぇ」
鼓動が破裂しそうになった。
耳の奥で血の音が響く。
その瞬間、若井の言葉が本当の
気持ちなんだって、嫌でも伝わってきた。
「……若井……」
俺はもう、涼ちゃんとのやり取りを
ごまかすどころじゃなくなっていた。
目の前の若井の熱に、全部飲み込まれそうで。