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『偽りの無能、真の覚醒〜転生皇女はすべてを奪い返す〜』
あの断罪の謁見から、数ヶ月が経った。
ガルディニア帝国の属国となったバロア王国では、前国王が退位し、新たな政権が誕生した。
そして、私を裏切り罠にハメた元婚約者のカイル、そして偽聖女のエレンの二人は、王族の籍を完全に剥奪され、
帝国が管理する最北の『極寒の魔鉱山』へと罪人として送られた。
そこは、年中猛吹雪が吹き荒れ、素手で触れたものすべてが凍りつく地獄のような場所だ。
魔力も体力も衰え果てた二人は、今や毎日、
ボロ布を纏いながら冷たい這いつくばるようにして鉱石を掘り続けているという。
もう二度と、彼らが陽の光を浴びて贅沢な暮らしをすることは叶わない。
私を奈落へ突き落とした者たちは、文字通り、完璧に破滅したのだ。
「ローゼマリー様、お外がとても気持ちの良い天気ですよ。
今日はお庭で、アルベルト様とお茶会をなさるのでしょう?」
リンが弾んだ声で、私の髪を丁寧に梳かしながら鏡越しに微笑みかけてくれた。
「ええ、そうね。お兄様が、隣国から最高級の茶葉を取り寄せてくれたと言っていたから、とても楽しみだわ」
鏡に映る私は、前世のシャルロットの頃の、怯えて絶望していた面影など微塵もない。
気高く、美しく、そして誰よりも強い、帝国の誇る第一皇女ローゼマリーとしての姿がそこにあった。
宮殿の美しい庭園へと足を運ぶと、白いガゼボ(東屋)には、
すでに愛おしいお兄様――アルベルトが待っていた。
私を見つけるなり、アルベルトはお仕事中の冷酷な表情を完全に消し去り、蕩けるような甘い笑顔を浮かべて立ち上がった。
「よく来たね、ローゼマリー。
今日のドレスも、君の美しい黒髪によく映えていて本当に素晴らしいよ」「ありがとうございます、お兄様」
アルベルトは私の手を優しく取り、エスコートしてくれた。
リンが淹れてくれた温かい紅茶を飲みながら、私たちは他愛のない話で笑い合う。
前世の私には、こんな風に私を無条件で愛し、
肯定してくれる家族はいなかった。
ただ生きているだけで、世界中の宝物を注ぎ込まれるような、
圧倒的な居心地の良さ。
死の淵から這い上がり、この世界に転生して、私は本当の幸せを手に入れたのだ。
「ローゼマリー。君が望むなら、僕はこれから先、どんな世界の敵からも君を守り抜く。
君の行く手を阻むものが現れたなら、この僕がそのすべてを消し去ってあげよう」
アルベルトの切れ長の瞳に宿る、底なしの愛と過保護なまでの誓い。
「ふふ、頼りにしていますわ、お兄様。
でも……もう私、一人でもあの国を滅ぼせるくらいには強くなってしまいましたけれど?」
私が悪戯っぽく微笑むと、アルベルトは実に愉快そうに声を上げて笑った。「はは、確かにそうだね。今の君は、僕すらも凌駕する最強の薔薇だ」
温かい木漏れ日の中、リンに見守られながら、お兄様と過ごす至福の時間。無能と蔑まれた悪役令嬢の逆襲劇は、これ以上ないほどの最高のハッピーエンドで幕を閉じた。
――はずだった。
◇
同じ時刻。
ガルディニア帝国から遥か北方、大陸の最果てに位置する、永久凍土に閉ざされた漆黒の古城。
人族の立ち入りを拒むその禁忌の玉座の間で、
一人の男が静かに闇の中に佇んでいた。
男の髪は、夜よりも深い漆黒。
そして、その切れ長の双眸は、まるで血を流したかのように不気味に、
紅く、妖しく輝いている。
男の目の前に浮かび上がるのは、禍々しい漆黒の魔力を帯びた巨大な魔導水晶。
そこには、今まさに帝国の美しい庭園で、
アルベルトと幸せそうに微笑み合っているローゼマリー
――シャルロットの姿が、鮮明に映し出されていた。
「……ようやく見つけたぞ、シャルロット。いや、今はローゼマリー皇女と呼ぶべきか」
男の低く、地響きのような声が、凍りついた玉座の間に不気味に響き渡る。彼の周囲から溢れ出た影の魔力は、
実体を持った蛇のように床を蠢き、部屋の頑丈な石柱や壁をメリメリと押し潰しながら、
世界の理そのものを狂わせるほどの圧倒的なプレッシャーを放っていた。
この世界に存在するどんな魔獣や人間も、この濃密な絶望の魔力の前には息をすることすら許されないだろう。
男は画面の中のローゼマリーの美しい笑顔を、愛おしそうに、そして底知れない狂気と執着を孕んだ瞳で見つめながら、残酷にその薄い唇を歪めた。
「バロア王国の羽虫どもを片付け、今度は偽りの家族の元で、
ずいぶんと生ぬるい幸せに浸っているではないか。
だが、そんなまやかしの光が、お前を救う盾になるとでも思っているのか? お前が本当に還るべき場所は、そんな温室ではない。
私のいる、この暗黒の奈落の底だ」
男の黒い手袋に包まれた指先が、水晶に映る彼女の美しい頬を愛おしそうに、そして逃がさないと誓うようにそっと撫でる。
その瞬間、魔導水晶からバチバチと黒い火花が散り、
庭園の映像が不気味に歪んだ。
「お前がどこへ生まれ変わろうと、その魂に刻まれた私の刻印は消えはしない。
お前が手に入れたその最強の魔力すらも、すべては私と出会うための通過点に過ぎないのだ」
男はゆっくりと玉座から立ち上がった。
彼の背後で、数千、数万もの魔族の影が、
主人の命を今か今かと待ちわびるように一斉に蠢き出す。
「待っていろ、私の愛しいシャルロット。
すぐにその偽りの幸福ごと、お前のすべてを私の元へと引きずり戻してやる。お前は、最初から私のものなのだから……」
男の紅い瞳が、暗闇の中でいっそう禍々しく燃え上がる。
世界を滅ぼしかねない新たな絶望の影が、覚醒した最強皇女の元へと確実に、
そして急速に忍び寄ろうとしていた。
彼女の本当の戦いと、
世界の命運を賭けた新たな物語は、ここから始まる――。(第1部・完)
ねむ
74
#転生
コシ
103
耀聖(ようせい)
1,401
287
コメント
7件
えっ!? 第一部ってことはまだあるの!?!? 最高だぁ!(勝手に思い込んでて草)
おおー、第1部完!一気読みしちゃったよ…!カイルとエレンの末路がめちゃくちゃスッキリするし、アルベルトお兄様の過保護っぷりも最高だったわ。でも最後のあの漆黒の美形の登場…「ラスボス感」ありありじゃん!しかも「お前は最初から私のもの」って、なにその執着…。これは待ってましたの予感しかしないわ🔥 続きが気になりすぎる!