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海の紅月くらげさん
夏休みが終わってもまだ暑さがなかなか和らがない。
今日は始業式とホームルームだけで授業はなく、午前で終了だ。
夏休み明けから急に授業はしんどいから、よかったぁ。今日はなにしよう。みんな家庭科室にくるかな。
そんな浮かれ気味だった私が帰りに家庭科室に寄ると、衝撃的な光景が飛び込んできた。
「ふざけんなよ……っ!」
怒りと動揺が入り混じったような声。実里くんが潤の胸ぐらを掴み、今にも殴り掛かりそうだった。
「ふざけてないよ。俺は本気だから」
まさに一触即発なこの状況に目を見張った私の背後から、能天気な声が降ってくる。
「た、大変だ。九條兄弟が喧嘩している!」
「……武蔵先輩、これってまずそうな空気ですよね」
「ここは俺に任せとけ」
止めてほしいのは山々なんだけれど、武蔵先輩には難しい気がする。火に油を注ぎそうだ。
「おーい!」
「武蔵、静かにしてくれない?」
「まじでうるさい」
潤と実里が突き放すように言うと、武蔵先輩を睨みつける。
「……どうして喧嘩してるの?」
私の質問に潤は何も答えようとしない。
一方、実里くんは俯きがちに口を僅かに開けたかと思えば、すぐに閉じてしまう。いつもの彼らしくなく、かなり動揺している様子だった。
「コイツが……馬鹿なこと願おうとするから」
潤の願い。それは————実里くんを救うこと。
九條の家から、そして九條泉という人物からの解放して自分の大切な弟に家に囚われずに自由に生きてほしいという潤の願い。
それは、きっと実里くんにとっては嬉しくないことの可能性の方が高い。だからこそ潤は言わずにいたはずだ。
それなのにどうして……
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