TellerNovel

テラーノベル

アプリでサクサク楽しめる

テラーノベル(Teller Novel)

タイトル、作家名、タグで検索

ストーリーを書く

シェアするシェアする
報告する

目的の錬金術師ギルドに到着したのは、少し急ぎ足で向かって14時過ぎ。

普段通り入口から中に入ると、テレーゼさんのいつも通りの大声が響いて――


……。


――こなかった。


「あれ? 今日はテレーゼさん、お休みなのかな?」


「受付には別の方がいますね」


……ふむ。

お休みじゃなくても、倉庫整理をしていたことが以前あったっけ……?


まぁ、帰るときにまた寄ってみようかな。

何しろ今は、お腹がペコペコだ。まずは自分たちのお腹を|労《いた》わってあげないとね。




◇ ◇ ◇ ◇ ◇




食堂に行くと、時間も時間ということで人はあまりいなかった。

遅い昼食をとってる人や、早めの夕方の休憩をしている人がいるくらいか。


店員さんはいつものおばちゃんだったので、いつも通り胸の話をスルーしながら注文を終える。

エミリアさんがププピップステーキのセットを頼んでいたので、それならばと私も同じものを注文した。


……食べきれなかったら、エミリアさんにお願いすることにしよう。

きっとこれくらい、余裕のはず。


「ここまでくれば、あとは待って、食べるだけですね!」


目の前のエミリアさんは、見るからにそわそわとしている。

たまにお腹の音が聞こえてくるのは、聞かなかったことにしてあげよう。


「そうですね。儀式も大変そうでしたし、お腹も減りますよね。

ところで儀式って、やっぱり疲れるんですか?」


そもそもあんなにも大勢の中で何かをする……というだけで、私は疲れてしまいそうだ。

加えて、魔力もそれなりに消耗してしまうという話も聞いていたし。


「そうですね、魔力をこう……緩やかに出し続けるので、やっぱり疲れちゃいますね。

でも今回は『アイナさんの役に立ちますように~』って念じながらやっていたので、なかなか楽しかったですよ」


「それはどうも……。

ということは『浄化の結界石』の中に、エミリアさんの魔力も宿っているんですね」


「そうかもしれませんね。ここまでやったんですから、わたしも早く最終形態を見てみたいです!」


最終形態というのは、神器のことかな?

神器作成に必要な『浄化の結界石』は今日揃えることが出来たから、これはもうクリアだ。


残りの素材は『オリハルコン』と『光竜の魂』。

この2つがクリアできれば、ようやく神器に手が届くんだけど――


「……残り2つの素材は、どこにあるんでしょうねぇ……」


もしかして王様の言うことを無条件に聞いていれば、オリハルコンはもらえちゃうかもしれない?

……いやいや、さすがにそのトレードオフはどうなんだろう。やっぱり、色々と怖いものがあるし。


仮にオリハルコンをもらえたとしても、最後の難物がもう1つあるからね。

早い段階から、自分の運命を完全に他者に委ねるというのは、基本的には止めておいた方が良いだろう。


「うーん……。両方とも、近場で手に入れば良いんですけど……」


エミリアさんはそう言うが、それもきっと難しいだろう。

しかしそうすると王都から離れる必要があるわけで、そうなるとエミリアさんとはお別れということになってしまう。


……ある意味、私を王都に留めている理由のひとつはエミリアさんたったりして。



「お待ちどうさま! たくさん食べるんだよ~♪」


話の途中で、おばちゃんが2人分の食事を持ってきてくれた。


「ありがとうございます!

何にせよ、まずはしっかり食べるところからですね!」


「そうですね。……それにしてもエミリアさん、お肉が山のようになっていますよ?」


「今日は味より量です! いえ、しっかり美味しいので、味も量も、です!」


「それは最高ですね。では頂きましょう」


「はーい!」


食事の挨拶とお祈りを済ませてから、私たちは遅めの昼食をとることにした。




◇ ◇ ◇ ◇ ◇




「――満足、満足です!」


食堂から出て、ご満悦のエミリアさんが言う。

確かにこういう場での食事としては、ププピップは群を抜いて美味しい。

さらにエミリアさんの場合は、食べた量も……凄かったからね。


「それは良かったです。

あ、そうだ。帰りに受付カウンターに寄っても良いですか?

テレーゼさんがいれば、少しお話をしていきたいなって」


「分かりました!

やっぱりここに来たら、テレーゼさんのあの挨拶が恋しいですよね」


……いや、あの挨拶は別に。


ちなみにグランベル公爵のお屋敷に行ったあと、錬金術師ギルドには2回来ていたんだけど――

何だかんだでテレーゼさんには、シェリルさんのことをまだ話せないでいた。


でも今日は『浄化の結界石』を作るという一大イベントもこなしたし、シェリルさんのことを話してみることにしようかな。

ひとまずは無事でいること、会えないけど王都の近くにいること……それだけなら伝えられそうだ。



そんなことを考えながら受付カウンターに向かうと、テレーゼさんの姿は見えなかった。

……あれ? やっぱり今日は、お休みなのかな?


「すいません。今日はテレーゼさん、お休みですか?」


「いらっしゃいませ。はい、今日は早退いたしました」


「え? 早退?」


「……あの、失礼ですが、Sランク錬金術師のアイナ様ですよね?

お見えになったら話があると、ダグラスさんから言伝を頼まれていまして」


「そうなんですか? えっと――」


ちらっとエミリアさんの方を見ると、『どうぞどうぞ』といった感じで相槌をくれた。


「――分かりました。それではお願いできますか?」


「はい、少々お待ちください」


受付の女の子は、静かに奥へと消えていった。


何となくテレーゼさんを思い浮かべてみると、彼女はいつも、こういうときはもう少し慌てる感じだったかな?

いつの間にか、普通の対応をされるのが物足りなくなってしまっていたりして……。




◇ ◇ ◇ ◇ ◇




いつもの応接室に一人で待っていると、しばらくしてからダグラスさんがやって来た。


「こんにちは、ダグラスさん」


「ああ、こんにちは。突然、すまないな」


「いえいえ。それで、今日はどうしたんですか?

さすがにS+ランク昇格の通達……とかではないですよね」


「アイナさん、実はそのまさかなんだ……」


「えっ!?」


「……すまん、嘘だ」


「えぇーっ」


正直ドキッとはしたが、そんな上手い話はなかなか無いだろう。

でもグランベル公爵に増幅石を作ってあげたし、もしかしたら……という思いも無くは無かった、というのが本当のところだ。

人間というのは、何とも欲深きものである。


「えーっと、な……。

実は今回呼んだのは、錬金術師ギルドの仕事とはあまり関係なくてな……」


「そうなんですか? というと、個人的なこと……?」


「個人的なこと……うーん。まぁ、テレーゼのことなんだが」


「テレーゼさんの?

そういえば今日は早退したって聞きましたけど、体調が悪かったんですか?」


「うん……最近どうも、具合が悪いようでな。

聞けば、ここ1週間くらいはまともに眠れていないらしい」


「えぇ……? この前会ったときは……そういえば確かに、声の大きさが少し小さかったような?」


「あれでも十分大きかったけどな……。アイナさんも、ずいぶんと慣れたものだ……」


「あはは……。

でも眠れないってことでしたら、食事会のときに睡眠薬をあげましたけど、使ってないのかな?」


「あ、いや。それのおかげで、ここのところはどうにか眠れていたらしいんだ。

そこは、うん、ありがとう」


「でも1週間も使い続けたら、さすがにもう切れちゃいますよね。ポーション瓶で1本分だけでしたし」


「そうなんだよ……。

それに『せっかくアイナさんにもらったのに、無くなっちゃった……』って、凄い落ち込みようでなぁ……」


「薬は使うものなので、私としては使ってくれた方が嬉しいですけどね。

えっと、それじゃ睡眠薬をまた作れば良いですか?」


「うん、お願いできるかな。他から買ってきても良いんだが、やっぱり精神的にも参っているみたいでな。

アイナさんに作ってもらったやつが一番効くだろうし、あとは素直に受け取ってくれるだろうし……」


「分かりました。それじゃ、どうぞ」


バチッ


……と作ってそのまま、目の前のテーブルに置く。


「おお、持っていたのか。すまないな、いくらになる?」


「え? これ、依頼だったんですか?」


「ん? もちろんSランクの錬金術師に頼むんだ。親しき仲にも礼儀あり、だろう?」


「うーん、使うのはテレーゼさんですからね……。

いつもお世話になっているってことで、今回は差し上げますよ」


「いやいや、それはさすがに……」


「もしくは金貨10枚です」


「ぶはっ!? そ、それは横暴だぞ……。

……分かった、今回はありがたく折れておくよ。でも、これは借りにしておくからな」


「それなら私が困っているとき、どこからでも助けに飛んできてくださいね!」


「何っ!? そ、それも横暴だぞ……?」


「あはは、冗談ですよ。うちの家訓のようなものに『貸してやるならくれてやれ』っていうのがあるんです。

だから、今回のことはそのまま忘れちゃってください」


「……すまん」


「あ、そうだ。使ったあとにまた落ち込まれても困るので、もう1本差し上げますね」


「……重ね重ね、すまんな」


申し訳なく言うダグラスさんだが、ことわざでこういうのがあるからね。



そでふりあうなかも、ふりふり……


そでふるなかも、えんの……


こまったときの、そでふりふり……



……あれ?

えーっと……、うーんっと……。……何だったっけ???



※『袖振り合うも多生の縁』でした。

異世界冒険録~神器のアルケミスト~

作品ページ作品ページ
次の話を読む

この作品はいかがでしたか?

33

コメント

0

👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!

チャット小説はテラーノベルアプリをインストール
テラーノベルのスクリーンショット
テラーノベル

電車の中でも寝る前のベッドの中でもサクサク快適に。
もっと読みたい!がどんどんみつかる。
「読んで」「書いて」毎日が楽しくなる小説アプリをダウンロードしよう。

Apple StoreGoogle Play Store
本棚

ホーム

本棚

検索

ストーリーを書く
本棚

通知

本棚

本棚