19歳でそのお屋敷から出た私は、小さな会社の事務職を見つけて真面目に働き続けた。
社長は気さくで温和な人だったけれど、セクハラまがいのこともしょっちゅうやらかす人で奥さんとは毎日ケンカになっていた。
私は社長の奥さんから特別ボーナスをもらって、社長の専属秘書まで勤めていたのに。
専属秘書になって社長の行動を逐一記録し、奥さんに報告することが仕事内容だった。
だけどそれを知ってしまった社長が激怒して、私はクビになってしまった。
あら、あの会社にいたのは何歳までだったかしら?
私は記憶がぐちゃぐちゃで、大事なことを思い出せない。
抜け落ちた記憶を見つけたくて必死にさまよい、賑やかな大通りを抜けて裏道を抜けていく。
「思い出の公園、まだ残ってるかな」
思い出の公園といえば聞こえはいいが、その公園は雑草だらけで遊具も錆びだらけだった。
子供の少ない地域だったせいかもしれないが伽藍洞といってもさしつかえないほど、空虚感のある場所だったことだけはよく覚えている。
彼はそんな場所で一人、今もベンチに座って本を読んでいた。
公園はまだあった。そこに彼もいる。
私は彼にかけよって名前を呼んだ。
「ホオズキ!」
そう、彼の名前はホオズキ。
彼は15年前、私に言った。
「時期が来たら迎えに来るよ」
私は青年姿のホオズキに抱きつきたくて腕を伸ばした。
だけど無理みたい。
だって、私はクビだもの。
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