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何度かカチカチと忙しなくライターに触れるが、なかなか吸い出さない。
しょうがないな、と肩をすくめながら声をかける。
「火つかないの?」
「うん」
坪井は立ったままポケットからライターを取り出し腕を伸ばした。それを無言で受け取った芹那は、すぐに風をよけるようライターに手をかざし深く息を吸い込みながら火をつけた。
彼女の口から吐き出された煙が青い空を曇らせるように漂う。
それを眺めながら、ぼんやりとした様子で芹那は口を開いた。
「真衣香ちゃんに坪井くん以外の男教えてあげなきゃって思って」
「は?」
突然何を言い出すのかと坪井が怪訝そうに眉を寄せると、芹那はそれを横目に楽しそうに笑い「だってさぁ」と。タバコの灰をリズミカルにトントンと灰皿に落としながら言った。
「優里が言うには初めての彼氏なんでしょ、坪井くんが。もっと他にも知って選ばせてあげなきゃって思って。大事な従姉妹の親友だし」
「え、何それマジでやめて」
笑ってなければ会話を続けられなくなる程度には、腹が立っている。今するべきこと、その順序を考えず真衣香にしようとしたことを問い詰めてしまいそうだから。
堪えるようにして必死に笑って、言葉を探す。
「水族館とかベタすぎるデートコースに自分の男が他の女と行って。挙げ句それが遠方なら立花じゃなくてもついて行こうとかさ、見張っててやろう、なんて気にならないだろうね」
坪井がやけに冷静に話すからだろうか。芹那は表情を変えることなく乾いた笑い声を響かせた。
「あはは、智里から聞いたのは私の浮気癖と、真衣香ちゃん襲っちゃえ~、な情報だったわけだね」と、悪びれる様子もなく言った。
「まぁ智里は、何かそういうこと企んでそうな感じだったよって程度だったけど。調べたら案の定だっただけで」
「そりゃ、坪井くんの彼女、襲わせるね~なんて。さすがの私も素直に言いふらさないよ」