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古びた団地の部屋の中。家具はほとんどなく、段ボール箱を積み上げた中に服やインスタント食品が乱雑に突っ込んである。
畳に座り、沙羅とミコはキッチンダイニングへ移動し、ふすまを閉める。
沙羅「お母さんはあの人たちと大事な話あるから、あたしと遊ぼう」
ミコ「うん! ねえ、ピンクのあれやって! 出て来る時の、ええと、何だっけ」
沙羅「決めポーズだな。いいよ」
ふすまの向こうで話畳の上に正座して話す、ミコの母親、近藤、山中。
近藤「失礼ですが、現在生活費はどのように」
ミコの母親「夫が残してくれた貯金を取り崩してきましたが、もうあまり残っては」
山中「お仕事にはついていらっしゃらないのですか?」
ミコの母親「専業主婦だった期間が長かったので、雇ってくれる所はなかなか見つからないんです。私は昔から体が弱いので、パートの仕事があっても、なかなか勤まらなくて、すぐに解雇されてしまう。その繰り返しで」
近藤「娘さんは来年小学校入学ですよね? このままの状況では何かと差支えがあるのではないかと、私どもも心配しておりまして」
山中「どうしても就労が難しいという事なら、行政にもいろいろ支援の仕組みはございますよ」
ミコの母親「生活保護ですか? それだけは絶対嫌です! そんな惨めな境遇になるぐらいなら、いっそ死んだ方がマシです!」
近藤「落ち着いて下さい。無理強いしに来たのではありません。第一、お母さんがそうなったら、ミコちゃんはどうなるんです?」
山中「お子さんを育てられないのであれば、例えば一時的に養育里親に預けるという方法もあります」
ミコの母親「私からミコを取り上げるために来たんですか?!」
山中「決してそんな意味ではありません。あくまで、例えばの話で」
ミコの母親「帰って下さい!」
その声に驚いたミコがふすまを開けて部屋に飛び込む。
ミコ「ママ、どうしたの?」
母親はミコを抱きしめ、狂ったように叫ぶ。
ミコの母親「この子は誰にも渡しません! 帰って下さい! 帰って!」
山中「分かりました。今日のところは失礼します。ですが、娘さんの今後の事はあらためて話し合いましょう。決して悪いようにはいたしませんから」
近藤「市役所でも出来る限りの事はいたしますから、独りで抱え込まないで下さいね」
団地を出て、近くの駐車場へ向かう沙羅、近藤、山中の三人。強い風が沙羅の長い髪を巻き上げる。
近藤「私、明日にでもまた訪ねてみましょうか?」
沙羅「いや、時間かけてじっくりやった方がいいと思う。役所の人間は警戒されるんだよ。あたしも子どもの頃、ああいう母親の姿何度も見た」
山中「そうですか。確かに焦らない方がいいかもしれまんね。それに明日あたり台風が来るようですから」