翔太である。
朝日に照らされる白のコックスーツが眩しい。
「あっ、昨日はわざわざありがとう」
いいよいいよと照れたように手を振る仕草と、こちらを見上げる大きな瞳。
黒目の中に映る自分の姿が、ひどく狼狽えているようで星歌は両頬を自分でパンパンと叩く。
そんな彼女に向かって、翔太は衝撃の一言を放った。
「ところで星歌、何しに来たんだ?」
「えっ?」
彼女の反応が意外だったのか、翔太も「えっ」と呟いて硬直している。
「えっ、だって今日は昼からだろ? 僕、昨日シフト表作って渡しただろ……渡した、よな?」
急に自分の行動に自信を失くしたか、翔太が不安気に黒目をクルクルと動かした。
「……もらった」
今度は星歌がうなだれる。
たしかに、帰りがけに手書きのシフト表のコピーを手渡されたのを覚えている。
たしかカバンの中にしまって……ああ、今もそのままカバンの中だ。
「……もらった。今日は、昼から夕方までだった」
「ご、ごめ……」
ガクリとうなだれた彼女に、逆に慌てる翔太。
「せ、せっかく来てくれたんだから、時間ズラして働いてもらおうかな。うん、そうしよ」
「わ、悪いよ。私がいけないんだし。昼から出直すよ」
「いや、いいって」
「でも」
しばらく店の前で押し問答をするふたり。
「それに僕……」
意を決したという風に翔太が口を開いた。
「それに僕、星歌といっしょに店番するの楽しみにしてたし!」
「そ、そっか。ありがとうね」
「うん! ……うん?」
見事にスルーされて、翔太が片手で自らの額を覆う。
「あの。違くて」
顔をあげた翔太に一瞬、怪訝そうな視線を向けたものの、星歌は余所の方向をチラチラと窺っている様子。
パン屋の前は学校である。
彼女の目は四階建ての校舎に注がれていた。
「星歌、どこ見て……?」
怪訝そうに声をひそめる翔太に、何でもないよと首を振る彼女だが、校門の方へ向けられた眼が不意に大きく見開かれる。
「ご、ごめん。やっぱ私、出直すよ」
行くか行くまいか決めかねるように、一瞬ジタバタと足を踏み鳴らしてから、星歌は駆けるような足取りで翔太の前から去った。
取り残された男は唖然としたようにその後ろ姿を見送るのみ。
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