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畝澄ヒナ
40
#ロボット
畝澄ヒナ
33
イワシロ&マリモ
9,706
階段を降りて
開けたダイニングへ行くと、
アッシュは先に一人で朝食を食べていた。
相変わらず離乳食のようなやわこいものを
そのうえ、喉の傷を痛めぬよう
少しずつ少しずつ食べていて、
つい憐れんでしまう。
私は常日頃からこういう彼の、
後遺症から来る不自由さを目にするたびに
罪悪感で酷く苦しんでいた。
この時も例外ではなく、
私は、再び回復薬を手に入れる為の金を
必死に稼ごうと強く決意した。
その後まもなくして、
階段から少年と男が降りて来た。
二人とも私と旅をしている仲間だ。
眩しさで目を細めているを見ると
起きたばかりなのだろう。
「おはよ~…」
少年は拳で自分の目をこすりつつ、
間の抜けた声で挨拶した。
「おはよう」
私もすかさず挨拶を交わし、
そしてすぐに食事を始めた。
2人は顔を水で洗うために
キッチンへと覚束ない足取りで
歩いていく。
一方で私は食事をしつつ、
金を大量に稼げる方法を考えていた。
やはり効率的なのは売色だが、
これは私以外に稼げる方法ではないので
量産性がないし、精神的にも
キツイものがあるので
出来ればしたくないのだ。
しかし、現代は昔より
アウトローな賞金稼ぎをしづらいので、
売色以外だと定職に就くくらいしかろくな
稼ぎ口がないのである。
もっとも、私に見落としが多く、
他にも良い稼ぎ口があるのかもしれないが…
そうこう考えていると、
洗顔して整った顔の二人が戻って来た。
少年の方は食事を見て、うまそーとか
ひとり言を言いつつ席に座った。
少年は名前をルカと言った。
アッシュが勇者だった頃に
サーカスから買い取った少年で、
戦闘中でも軽口を叩くほど
おしゃべりな人間だ。
対してもう一人の、
彼はエイハブ・ドラグーンと名乗っていた
彼は異国から来たらしく、この名前は
ここの言語に合わせて訳したものらしいが
そんな事はどうでもいい。
彼はたまに嫌味を言うくらいで基本的には
寡黙で真面目だ。
あと、元賞金稼ぎとは思えないほど
所作に育ちの良さが見えるのが気になる。
彼らも席に着くと食事を始めた。
「あの。」
私は、さきほど悩んでいたことを
打ち明けようと口を開いた。
「なんだよ」
ルカは食べ物に目を向けながら
無愛想に言った。
「私やっぱり、もっと回復薬が要ると思うの。
アッシュを完全に回復させるまで。」
私は、スプーンを置き、
真剣な顔で話し始める。
「旅費はどうするんだ?
私達には関係のない話だし、
巻き込まれたくないのだが。」
エイハブも珍しく会話に混ざってきた。
「そう!そこが問題なのよ」
「それはグレイスが
また枕営業すればいんじゃねーの?」
ルカがそう言ってきた
…….多分、この時ルカ以外の全員が
彼の発言に動揺したと思う。
配膳している従業員の動きが
固まっているのすら見えたし、
アッシュはドタドタと階段を駆け上がり
自分の部屋に入ったのか、
ドアを閉める音が聞こえた。
私もしばらく思考が止まっていたが、
ふと我に返った時は恥ずかしさと
怒りがこみ上げてきた
「何てことを公共の面前で言うの!?」
私はつい、
怒りに任せてルカを怒鳴ってしまった。
しかしルカは、
「なんだよ
そんな怒ることないだろ」
そう言ってまるで私がヒステリックを
しているかのような、私が悪いかのような
呆れた顔をしたので、
私の怒りはもっと強まった。
「お、おい。よせよ」
エイハブもこのまずい空気を
感じ取ったのか焦りの混じった声で
私をなだめようとした。
「あ、そうだ、
奴隷とか買ったらどうなんだ?
安いものだったら
民宿一泊程度の値段だろ?
そいつに売色でもさせれば…」
「そうよ!」
「え?」
「奴隷に身代わりをさせれば良いんだわ!
私達は適当な害獣駆除でもしつつ!」
今思えば、エイハブの提案は冗談交じりの
ものだったのかもしれない。
元勇者のパーティーが奴隷を買ううえに
その奴隷に売色をさせるなんて
汚名を被ること間違いないからだ。
しかしこの時の私は、
精神的な疲労と衝動的な怒りで
どうかしてしまっていた。
これ以上の名案はないと純粋に喜んだ
しかし、ルカはそうでは無かったようで
「おいウソだろ!?
俺だってサーカスに入る前は
奴隷として売られてたんだ。
奴隷が奴隷の冷遇を見過ごせるかよ!」
ちょっと待ったというような
様子で会話に割り込んできた。
「じゃあアンタが私の
代わりをしなさいよ。」
私も負けずと言い返した。
自分の気持ちも知らない癖に
きれいごとを言う姿が癪に触った。
そんな、火花でも散りそうな
言い争いに夢中になっていると、
誰かが私の肩をトントンと指で叩いた。
私は少し動揺して後ろを振り返ると、
アッシュが会話用のノートを持って
そこにいた。
「どうしたのアッシュ、何か言いたげね。」
私はトゲのある言い方でそう告げると、
彼はノートを開いて私に見せた。
そこには
「そんなに苦労してない。
回復薬はいらないよ。」
…と急いで書いたのか、取り乱した
文体で書かれていた。
「アッシュ…あなたって
そんなに優しいから
私は申し訳なくなるのよ」
そう言うと、彼はどうしたものかと
いうような顔で、ノートを閉じた。
コメント
1件
読み終わりました。第2話、すごく生々しい空気感でしたね。グレイスの罪悪感と焦り、ルカの軽率な一言で一気にヒリつく雰囲気になったところが印象的です。アッシュがノートで「いらないよ」と止めに入るシーン、優しさが逆に痛くて切なかったです。続きが気になります!