コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
「チッ……他愛もないもねぇ」
公園の噴水前。土下座する三バカを、オレは呆れ気味に見下ろした。
まあ、若い内は悪ブリたいと思う気持ちも分からなくはないが、それならもう少し鍛えて来いや。
オレはため息を吐きながら、額を地面に着ける金髪の前にしゃがみ込む。そして、おそらく自分で抜いたと思われる下手くそな脱色髪を掴んで顔を上げさせた。
「も、もう……カンベン、ひてくらさい……」
腫らした頬に鼻血を垂れ流した顔を涙で汚し、前歯の欠けた口で言葉を絞り出す鼻ピー男。
「二度とそのマズいツラ見せんじゃねぇぞ、コラ。次にオレの視界に入ったら、総入れ歯になる覚悟しとけや」
「ひゃ、ひゃい……」
掴んでた金髪を放して立ち上がるオレ。
さて、千歳を放り込んだ病院に戻るか。そろそろ、診察も終わる頃だろ……
「おい、北村。ルートのケジメは終わりか?」
不意に背後から聞こえて来た女の声に、オレは眉をしかめて振り返る。
「なんだ、来てたのか? ちんちくりん」
「ちんちくりんゆーなっ!」
そう、振り返った先。恵太の隣に立っていたのは、元鬼怒姫のナンバー2――いや、鬼怒姫で先代の頭を張っていた小倉由姫だった。
ウチらも人の事は言えんが、もう引退してるはずなのにシッカリと特攻服を纏い、仁王立ちで立つちんちくりん。
「でっ? 何しに来たんだ?」
「決まってんだろ。千歳さんのケジメ取りに来たんだよ」
そう言って、ちんちくりんが一歩踏み出すと、三バカを取り囲んでいた|R-4《ウチ》のメンバーの間から、揃いの特攻服を纏った女達が姿を現した。
「えっ……?」
鬼怒姫達の突然の乱入に戸惑い、怯えた表情を浮かべる三バカトリオ。
って、昔のメンバー、勢揃いかよ?
おそらく恵太から話を聞いたのだろうけど……なんだかんだ言って、千歳はメンバーから慕われてたし、カリスマ高いからな。
「とゆーワケで、こっからはアタシらの番だ。北村は早く千歳さんを迎えに行けや」
不敵な笑みを三バカに向けながら、指をポキポキと鳴らすちんちくりん。
てゆうか――
「いや、オマエらが来たんなら、オマエらが千歳に付いていてやれよ。こうゆう場合、女同士のがいいだろ?」
怪我の状況によっては、身の回りの世話が必要になるかもしれんし。
と、そんな思いからの提案であったのだが……
「はぁ? オマエ、なに言ってんの?」
R-4と鬼怒姫の全員からジト目を向けられるオレ……
え? オレ、何か変なこと言ったか?
「いいから、テメェは早く千歳さんの所に行きやがれ、この朴念仁ヤローッ! じゃねぇーと、テメェのキン○マ蹴り潰すぞっ!!」
「わ、わーたよ……」
ちんちくりんに追われる様に、公園を後にするオレ。
そう言えばアノちんちくりん、現役の頃は「金蹴り姫」とか呼ばれていたなぁ……
※※ ※※ ※※
「ぐぬぬぬぅ……ムカつくっ! あの朴念仁は、いつになったら千歳さんの気持ちに気付くんだぁ?」
「まあ、そう言うなって」
もどかしさを|顕《あらわ》に顔を顰める由姫の低い頭を苦笑いで撫でる恵太。
「さて、兄ちゃん達よぉ。このやり場のない怒りをブツけさせて貰おうか」
一様にもどかしさを前面に出した鬼怒姫のメンバー達は、正座で座る男達へジリジリと歩み寄って行く。
「ち、ちょ……や、約束がちが……」
「そ、それに、な、なんで鬼怒姫まで……?」
由姫は涙目で戸惑う金髪の男を見下ろし、不敵な笑みを浮かべた。
「ああん? あんな朴念仁とした約束なんて知らんわ。小さい頃、母ちゃんに言われたろ? よそはよそ、ウチはウチだ」
「それから、何で鬼怒姫が|出張《でば》って来るかって言えば――オマエらがフクロにして|輪姦《まわ》そうとしてた長与のネェさんはな、鬼怒姫で四代目の頭を張ってたお方だぞ」
由姫に続く恵太の言葉に、男達は顔を凍りつかせた。
そんなに男達の反応に、笑み浮かべて死体蹴りを続ける恵太。
「しっかし、オマエらも運が悪りぃーな、オイ。ルート歴代最強のケンカ屋と鬼怒姫歴代最高のカリスマ。この二人へ同時にケンカを売るとはな」
恵太の言葉で自分達の犯した失敗の大きさに、ようやく気付く男達。
しかし、時すでに遅し……まさに後悔先に立たずとはこの事である。
「じゃあ、覚悟はいいか? 兄ちゃん達――千歳さんの命の次に大事な指をへし折ってくれたんだ。股間に生えてる粗末なモンの二、三本、へし折られる覚悟はしとけよ」
「いや……二本も三本も生えてねぇーから」
恵太は苦笑いでそんなツッコミを入れつつ、金蹴り姫とその仲間達に囲まれて怯えきった表情の男達からそっと目を逸らした。
|後《のち》に、この三人組が新宿の二丁目に就職したというのは、また別のお話で……