俺は、お前になんて声をかけたらいい?
「、、すんません。少し席を外しますね」
そう言って魁星は部屋を出た。俺とお前と二人っきり。そういえば、昔も二人っきりの時があったよな。覚えているか?
生徒会に入ってまもない頃、副会長に会いに来たお前と生徒会室で書類を漁っていた俺が二人っきりでいたあの日のことは俺今でも鮮明に思い出せるんだ。無口で、何も言わずに生徒会室の扉の前に立っているお前と俺はずっと睨み合っていた。相手を威嚇するように。
お前にまだ、光がない頃の話だから、目にハイライトがなかったのも懐かしい思い出だ。二人っきりの時は特に何もなかった。ただ、二人で無口でいただけ。その後に副会長が来て、お前は生徒会室を去ったけれど、お前の威嚇の瞳がなくなったのはそれから何ヶ月後の話だろう。人と馴染むことを知らないお前と仲良くするのに苦戦したけれど、仲良くなってからのお前って言うのは、それはもう眩しかった。
『なんでも似合うよな』
とお前に言ったことがある。太陽の下も、月光の下も、木陰も。それでも俺が一番お前に似合うなと勝手に思っていたものが、笑顔だった。ただ、何も考えないで不意に笑う表情が世界一似合うと確信していた。だから、卒業式の手前。笑わなくなったお前を見るのは辛かった。いや、笑わなくなったんじゃない。笑わせなくしたんだ。俺らが。
一緒に逃げ出そう。なんて、夢物語を実現しようとした俺らは、見事実現できたと言えるだろう。俺ともう一人の副会長は、その職業と共存していくことを選び、会計は新たな職業に就くことになった。他の三人は好きな仕事についていた。たった一人を除いて。俺らは全力を尽くしても、お前を救うことができなかった。大人の世界から解放することができなかった。
最初は口も聞かなかったけれど、だんだん、だんだんと。口を開くことになった俺らは、同学年というよりかは、師弟になっていっていた。ゲームとかでも俺の方が上手いからいつしか、”師匠”と呼ばれるようになって。俺もその呼び方が気に入っていたから”弟子”と呼ぶこともあった。それくらい砕けた関係になるのは時間もかかったけれど、その分笑顔になれたなら全てが良かった。だから、その言葉は許せないんだ。出会わなければ良かったなんて言わないでくれよ。であったから、俺はお前の笑顔が見えたんだ。
けれど、ごめん。ごめん、とどれだけ謝罪をしたって許されないことだ。俺らが言える言葉じゃない。だって俺は、俺らは!
「ごめんな。お前の期待に、期待を裏切って。あの時の俺らはお前が期待している以上に、子供で未熟で幼かった。俺らより大人の世界を生き抜いて、大人に束縛されていたお前の期待を裏切ったんだ」
泣く以外の選択肢が俺になかったかのように俺は泣き出した。頭の中にめぐる言葉が口から自然と流れ出る。
「俺は、お前にかける言葉が思いつかないんだ。ごめん、なのか。許してくれ、なのか。それとも、**幸せに生きてくれ、**なのか」
わからない。俺はなんて声をかけたらいいんだ?なんて、謝罪すればいいんだ?許してくれなんて思ってない。許さなくていい。それが一番いい。
「今の俺らなら、多分お前をこっちに連れ出せる。なぁ、今度こそ期待してくれ。俺らはお前の期待のヒーローになっていると思うんだ。期待してくれないか?今度こそ、裏切らないから。怖いと思うけど、この手を引いてくれないか?」
俺は手を差し伸べていた。俺は今、ただお前が幸せになってほしいという願望で動いている。次は、失敗しないから。次こそは、夢物語を完璧に作り上げてみせるから。
NEXT 12月14日
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