世界に魔力が溢れる様になって以来、あらゆる生き物は死の恐怖に脅え続けて来た。
野生動物は魔獣に、飼育種はモンスター、アートマンの資格を持つ者と依り代だった生物は悪魔に……
以前の観察でコユキ始め、仲間達がそう結論付けた法則だが、この分類は実の所、正確とは言えない。
何故なら、魔獣やモンスターにならずに、石化による死を迎える個体が圧倒的に多かったからだ。
事実、日本に居た時もこの極北の地に移って来てからも、決して少なくない配下、いや仲間達を石化によって失い続けていたのである、時には生後間もない無垢な雛鳥達であっても例外ではなかった……
経験則から彼らは理解の深度こそまちまちで有ったが知っていたのである。
『魔獣化、若しくはモンスター化した生き物は石化する事は無い』
この事を。
故に『魔力草』の解析結果を見て自ら口にしたヘロンは喜びに陶酔してしまったのであった。
嬉しそうに仲間達のオーラを見回していた彼の耳に不審な声が響く。
グガァッ! ギャッ! ガアーガアーッ! ゲゲゲッ! クカァッ!
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突然叫ぶ様な声が響き渡った池の上の湿地は、僅(わず)かな時間を経て静寂に包まれたのである。
ヘロンの目の前には、つい今しがたまで美しいオーラの光に包まれながら、嬉しそうに『魔力草』の若芽を啄(つい)ばんでいた仲間達が、倒れ込み、体のそこかしこを石と変えながらピクピクと痙攣する姿が映っていたのだ。
何羽かは見ている内に痙攣をも止めて、全身を無機質な石へと変質させて行く。
『こ、こんな…… ば、馬鹿な…………』
その時、思いがけない声が響いた、ペジオの物である。
『な、何だよコレ! 一体何をっ! ま、まさか実験段階の『魔力草』を食べた、の、か? な、何て馬鹿な真似を…… ヘロン! 君には何度も言っておいたじゃないか! この池に生きる者は誰にも食べさせてはいけない、そう言ってきただろう!』
ヘロンは慌てて答えたがその声は狼狽(ろうばい)を隠そうともしていなかった。
『はいっ! 生きてる者は駄目だと聞いていました、でも、草、植物しか食べてはいません! 何でこんな事にぃ!』
ペジオはいつもの大人しさからは信じられない程の大声で答えた。
『馬鹿っ! 動物だって植物だってプランクトンやウィルスだって生きてる者じゃないかぁっ! ああ、もうっ! そ、そんな事よりまだ生きてる鳥達の方が優先だっ! どいてっ! ほらっ! 邪魔だよっヘロンッ!』
『え、ええっ! はいぃ…… あ、あああ、あああああぁー!』
慌てて巨大な体を脇に避けた後、大きな声で嘆くヘロンを一瞥(いちべつ)もせずにペジオは大声で言う。
『嘆くなっ! まだこの子達は戦っている最中じゃないかっ! 嘆くのは彼らの戦いが終わってからだっ! 確(しっか)りしろっヘロンッ!』
『ウアーアァン!』
『くっ、くぅーっ!』
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