最早、錯乱気味になってしまったヘロンの事は取り敢えず放って置く事にしたペジオは、取り急いで苦しんでいる鳥達の間を素早く移動しながら容態の確認を続けて行く。
ややあって、ペジオは周囲を見回しながら早口で言った。
『うん、考えている暇は無い、イチかバチか、ヘロンッ! まだ生きている鳥達にヒルを食べさせるんだっ! 『魔力草』の周囲に幾らでもいる赤いヒルだよっ! 出来ればピンクっぽい薄い色のヒルを選んで食べさせるっ、いいや、食べる事が出来ない子たちには体中に貼り付けるんだっ! 判ったぁ?』
ヘロンは必死で答えた。
『は、はいぃっ! これか、いいやこっちのヒルの方が薄いか? 食べよ、食べてくれぃ友よ! ああ、もう、どうしたら良いかっ!』
『貼れよっ! 石化した場所とかで良いから、急いでくれっ!』
『っ! はいっ!』
………………………………
その会話の後は、ペジオもヘロンも言葉を交わす事無く、只々黙々と、但し出来得る限り速やかに、苦しみつつも未だ身罷(みまか)っていない鳥達に薄めの色をしたヒルを貼り続けたのであった。
貼られたヒルは見る間にその体の色を真紅に染めて行き、これ以上赤くはなれない、そんなタイミングで自発的にポトリと地面に落ちて、モゾモゾと蠢(うごめ)いて周囲の草むらへ姿を隠してしまったのである。
ヘロンとペジオは無言のままで、苦しむ鳥達の間を移動し続け、落ちた先から次々と新たなヒルを貼り付け続けて居たが、やがて動き回っていた足を止めた。
ペジオの前にはぐったりとして弱々しい呼吸を続けるダイサギが、ヘロンの足元にはプルプル振るえているアマサギが居た。
周囲で苦しんでいる鳥達の姿は、既に無かった。
残った二羽以外のヘロンの仲間たちは石となってしまっていたからである。
ペジオもヘロンも残ったダイサギとアマサギにヒルを貼り続けた。
作業の手を止めないままでペジオが言った。
『『魔力草』は一度に沢山取り過ぎると魔力障害、石化を起こしてしまうんだ…… 一人一人魔力の最大値が違う現状では使い物にならないんだよ…… 充分な安全マージンが数値なんかで判るまでの繋ぎとして、ヘルヘイムの湿地帯で生息するヒルをここに移植しておいたんだ、魔界のヒルは魔力を吸い取るからいざという時の保険にね…… だけど…… とんでもない事に成ってしまった……』
そう言ったきり再び黙り込んでしまったペジオに対してヘロンは返す言葉を見つける事が出来ないでいた。
自分の勝手な思い込みでペジオとの約束を破ってしまっただけでなく、大切な仲間、遠く離れた日本から自分を信じてついて来てくれた友の命を奪う結果になってしまったのだ、言葉が出無いのも当然だろう。
黙々とヒルを貼り続けていたヘロンの耳に弱々しい声が聞こえた、目の前のアマサギからであった。
『大分楽になりました…… ヘロン様ありがとう……』
『っ! ペジオ様っ! 目を、目を覚ましましたぁっ!』
ペジオはゆっくりと立ち上がってヘロンに近付いてきた。
ヘロンの表情が曇る。
『ダイサギ、は…… 駄目でしたか……』
ペジオは首を振って答えた。
『いやあの子は落ち着いた、今はすやすや寝息を立て始めたよ』
『ありがとうございます、ありがとうございます』
『……なあ、ヘロン、一体なんで『魔力草』を食べようと思ったんだ? こんな事になってしまったじゃないか…… せめて、私に聞いてからとは思わなかったのか?』
ヘロンはぽろぽろと涙を流しながら小さな声で答える事しか出来なかった。
『……私のせいです ……私がアナタとの約束を破ったせいで、み、皆が ……私が愚かなばかりに』
『ヘロン……』
ペジオは悲しい様な、しかしどこか口惜しそうな表情を浮かべながら、大きな体を縮めて震え続ける、ヘロンから目を逸らして言う。
『……鳥達の埋葬は私が村人達に頼んでやっておこう、ヘロン、君はこの二羽が飛べる様になったら塒(ねぐら)に帰るんだ! 彼らの回復に全力を尽くさなければいけない、判るだろう? そして私が良いと言うまではこの池に近付く事は許さない…… これはここ『ペジオの池』の主、私、ペジオ・ユウキの厳命、言い付けだ…… この意味は判るよな? ヘロン』
『っっっ!!!! は、はいぃ……』
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