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・【05 辛い食べ物】
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昨日の夜、真澄から『明日は辛いモノ! 辛い食べ物ぉ!』という連絡が入った。
最初は食べ物が何なんだよ、叫びを忠実に文章化するなよ、小さい”ぉ”に込めてくるんじゃないよ、と思っていたのだが、どうやら辛い食べ物を作ってきてほしいという意味らしい。
まあこの後に返信したんだけども、何も返ってこなかったので、多分そういうことだと考えるしかない。
でも真澄は辛い食べ物が苦手のはず。
ということは誰かのために作るというヤツか?
それならそういう要件も全て文章に込めてほしいんだけども。
マジで”ぉ”で終わらせるんじゃぁないんだよ、叫び専用の音声ソフトで打ち込みましたじゃぁないんだよ。
次の日の朝、早く起きて、家にある具材で辛い食べ物を作ってから学校へ行った。
多分真澄が食べるわけじゃなさそうなので、とびっきり辛くしといた。
教室に着くなり、真澄が笑顔で話しかけてきた。
「私の心の叫び、届いたか?」
「叫びしか届かなかったけども、まあ誰かに食べさせるために作ってこいということだろ?」
「そんな作ってこい、だなんて、偉そうな言い方をしたつもりはない」
「まあ厳密には辛い食べ物の存在を示唆しただけだったけどもね」
真澄はガハハハと豪快な愛想笑いを浮かべているが、多分示唆という日本語を理解していないと悟った。
それはまあそれといいとして、俺は、
「で、その辛い食べ物がほしい人って誰なんだ?」
「シノアイ知ってる? シノアイ」
「いや全然知らない。急にシノアイと言われても一切分からない」
「まあアタシも知らなかったんだけどさ!」
そう言ってめっちゃ声に出して笑った真澄。
いや、いやいや、いやいやなんだよ、これは。
完結じゃぁないんだよ。
「真澄、もうちょっと初見の人でも分かるように説明して」
「シノアイという有名なベシがいるんだけども、そのシノアイが悩んでいて。まあさがしもの探偵案件だな!」
「シノアイという、有名な、ベシ……弟子? ベシなの? いやまあ弟子でも分かんないけども」
「ネット上では有名なベシらしいぞ、それがうちの高校にいて、まあシノアイ自身がアタシのとこにやって来て」
もう文章が訳分らない。
真澄の地頭の悪さを公開中じゃぁないんだよ。
知ってる語彙量も少なそうだし、絶対ベシという日本語じゃないんだろうな。
ベシって何だよ、〇〇すべしが口癖のヤツがついに「べし」「べし」言い出した回かよ。
まあ真澄と会話しても答えは出なさそうなので、とりあえずスマホの検索でシノアイと調べてみた。
すると、そこにはインフルエンサーのようになっている絵師のSNSアカウントを見つけた。
あぁ、絵師か、ベシじゃなくて、絵師じゃないか。
「真澄、絵師な。ベシじゃなくて。絵を描く人っていう意味。絵の師匠、と書いて、絵師」
「だと思ったわ!」
そう言いながら、手を叩いた真澄。
何だよ、だと思ったわって。絶対思っていなかっただろ。SFばりに急に出現した新しい未来だろ。
「とにかく絵師のシノアイさんがこの高校にいて、何か悩んでいるから、さがしもの探偵になんとかしてほしいということか?」
「そうなんだよ! それを言われたんだよ! やってやろうじゃん!」
「やってやろうじゃん、とまでは思わないけども、どうせもう依頼を受けたんでしょ。じゃあやるよ、もうやるからその人はどこにいるの?」
「シノアイは人混みが苦手らしいから、昼休みに弁当食べながら、カメレオンで話そうって!」
うちの学校には畑があって、そこには緑色のベンチがある。
野菜の保護色になっているベンチなので、カメレオンと呼ばれている場所だ。
僕はその呼び名が何か安直で好ましくは思っていないんだけども、まあみんなそれを共通言語として使っているので、僕も扱うしかない。
「じゃあそのカメレオンに居れば、シノアイさんがやって来るというわけだね。で、この”辛い食べ物”はその人のために、というわけか」
「当たり前だろ! それともアタシが辛い食べ物に挑戦する番組だと思ったかっ?」
「番組では絶対無いし、挑戦するとは全然思わなかったよ。何か人がいるんだなと思ったよ」
「シノアイな! 人って、そんな、フィリピン人みたいに言うなよ! いやまあフィリピン人もいいけどもさ!」
「何の配慮なんだよ、世界情勢に気に掛けていますじゃぁないんだよ、SDGsをこじらせているよ、普通の会話でそれは」
というわけで今のところ、もうそれ以上喋ることは無さそうなので、僕はもう机に突っ伏して寝ようと思ったら、ずっと真澄が話しかけてきた。
猫が速過ぎるという話を授業が始まるまで延々された。
何だよ、猫は裸足だから速いという理論展開。
そりゃ何か履いていたら慣れていないから遅くなるだろうよ。