テラーノベル
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第八話 ようこそ精鋭部隊
「──────と、いうワケで2週間限定で私が隊長兼指揮官を務めさせていただきます。異論のある方はどうぞ挙手を。出した手はもれなく撃ちます」
沈黙が流れる。異論は無いらしい。
鏡月から精鋭部隊の隊長代理を任された翌日。
私はいつもの幹部服、所謂普段着ではなく志貴隊長の制服を身に纏って全精鋭部隊員達の前に立っていた。
彼らとは戦力強化訓練でも色々指導した間柄なのでほとんど顔見知りなのが唯一の救いだ。
そんなこんなで隊員達への挨拶が終わり、解散した頃。
私と神坂さんは近くの政府内の自販機横で紅茶と珈琲を飲んでいた。
神坂さんは志貴隊長と同じく珈琲党らしい。この二週間のうちに二人まとめて紅茶党に引き込みたいところだ。
軽く色々雑談をしていると、神坂さんがふと申し訳無さそうに呟く。
「すみません、楓さん……。あぁ、いや、隊長。」
慌てて修正してくれたが、彼にとって隊長はただ一人だろう。
私なんかをその呼び名で呼ばせるわけにはいかない。
「今まで通りの呼び方で良いですよ。二週間だけですし。謝る必要もありません。幹部から離れられて正直嬉しいです」
すると彼は何かを察したかのようにジト目になる。
「……大変ですね」
「大変ですよぅ」
それと───
「なんで断ったんです?隊長代理」
ずっと疑問に思っていた事を聞くと、神坂さんはこちらをぎょっと驚き見たかと思えば、すぐに視線を足元に落とした。
「……自分が、あの人の代わりになるのは無理だと思ったんです。」
自分を嘲笑うかのように、私の問いに答える。
「……理由をお伺いしても?」
また私が問うと、彼は理由を述べ始めた。
「はい。なんというか、あまりにも隊長と自分の格差がありすぎて。
隊長は才色兼備、ハンサムで性格も良くって、全てが一人前で逞しいんですよね。それに比べて自分は隊長の役に立つ事なんかひとつも出来てないな、って。
今回の怪我も自分を庇ったから出来た傷もいくつかあるんです。それも傷痕が残りそうなもので。」
───驚いた。
そこまで己を下に見ていたとは流石に思っていなかった。
どうやら彼は自分の悪いところにしか目が行かず、志貴隊長が怪我を負ってからなんとなく責任感も感じているのだろう。
「……そこまで卑下することは無いと思うんですけど」
思わず口から出た言葉。
「ありますよ。本来副隊長は隊長のサポート、そして部隊の頭を身を挺して守らなければいけない立場なんです」
理屈では理解した。理解出来た。
神坂さんは部下なりに、副隊長なりに己の部隊の長を守りたかったというわけだ。それが基本であるから。
だが私の性分がそれを理解できない。
なのでこう返してみる。
「それは……まぁ、そうです、けど。
私があの人の立場なら、迷わず部下を庇いますけどね。今の神坂さんの言葉を和泉隊長に伝えたら、あの人きっと怒りますよ。『部下を守るのは上司の務めだ』──なんて。」
神坂さんは鳩が豆鉄砲を喰らったように目を見開いてこちらに顔を向ける。
我ながら性格の悪くてどうしようもない意見だと思うが、きっと志貴隊長だって同じような事を彼に言うだろう。
彼の返答を目を合わせてじっと待っていると、何かしらの糸が切れたように、急に笑いだした。
「……貴方は凄いや。びっくりしました。確かにその通りです。」
感心したように笑いながら、瞳は微かに光って揺れている。
「え?」
「正直、普段鏡月様とか朱鷺さんに逆らえなくて、雑用を押し付けられがちな楓さんがウチの部隊を緊急で持つと言われて内心不安だったんです。」
───と、とんでもないことを言い始めた、この人。
というか、失礼な気がしなくもない!!
「そういう事だったんですね。確かに、隊長クラスの器を持っている人だ。
隊員から評判は聞いていましたが、本当に良い人ですね。おかげで目が覚めました。感謝します。」
そう言って飲み終えた缶コーヒーを丁度手元にあったゴミ箱へ入れて、再度こちらにきっちり向き直し、帽子を片手で外して身体の横へ持って行く。
そしてしたのは角度が完璧なお辞儀。
失礼なのかそうじゃないのかが分からなくなってきた。
私がわたわた困惑していると、神坂さんは顔を上げた。
「これから二週間、どうかウチの部隊をよろしくお願いします。」
しっかり、私の瞳を捉えて。
「───というのが昨日の話です」
翌朝。私はちょっとした菓子を手に医療棟へ足を運び、志貴隊長と面会していた。
「そうか……結構気に病んでいたんだな、あいつ。」
彼はそこら中満遍なく包帯や絆創膏まみれで、左目には眼帯。折れている左腕よりも比較的マシな右腕には点滴。見るにも痛々しい姿であった。
そりゃあ気にも病むだろう。でも、これだけ多くの傷を負いながらも生きて帰ってきたのだ。精鋭部隊なだけある。
「内心どうかは分かりませんが、少しは気が軽くなっていると良いですけどね。」
「……喋って良かったのか?自分に」
……そう聞かれるとどうだろう。自分では分からないがひとまずこう返す。
「今まで聞いたことは私とアナタだけのヒミツで。」
すると一瞬だけフッと笑った志貴隊長は、普段纏めている髪を下ろしているのも相まってなんとも言えないあどけなさを感じた。
「相分かった。───感謝する。」
そうしてふわりと微笑むその姿は、男の私でも射抜かれたような感覚に陥る美しさであった。
──さて、そろそろ戻らないと色々まずいのでここでお暇させてもらう事にする。
「それでは、私はこれで。朝早くにすみません。軍部って朝早いんですね……。私がいつも眠る時間に起きなければいけないとは思わなくって」
普段は朝の3時から3時半、酷ければ4時まで書類仕事をしてから眠って朝の6時に起きるのだが、まさか4時に起床ラッパが鳴るとは思っていなかった。
昨日は特にこれといった書類仕事は無かったのだが、部屋でぼけーっと色々考えていたらあっという間に4時になっていたのだ。
そう、つまり眠れていない。
一日くらいは特に業務に支障を来す事は無いので、今日一日だけちょっと頑張れば良いだけの話。
「貴方のその生活もどうかと思うが……まぁ、今日は早めに業務を切り上げて早めに眠ると良い。ゆっくりしてくれ」
少し引かれたような気もするが致し方ない。
軍部は大体夜の9時に完全消灯なので、それ以前に眠れば人間の必要睡眠時間くらい余裕で取れるということを言いたいのだろう。
「あはは、ありがとうございます……。お大事に。」
その言葉を残して、私は病室を後にした。
昨日のうちに神坂さんから軍部室に来てくれと言われていたので、そのままの足で軍部室へ向かうと、中には親衛部隊の隊長、キース・スピリセグと副隊長のローウェン・ラヴルノア、そして親衛部隊の中の護衛部隊長、政府内牢獄の管理部隊長、監獄島の管理部隊長、特務部隊長。
そして精鋭部隊の副隊長の神坂猶斗、危険ランク捕獲部隊長、殺戮部隊長、特殊部隊長、偵察部隊長が集まっていた。
字面が漢字ばかりで見にくいのは私も思っている。
要約すると、軍部の“すっごくえらいひと”と“それなりにえらいひと”が一同に会しているということだ。
今は代理で精鋭部隊の隊長を努めている幹部の私の場違い感が物凄いが、気にしたら負けだと思って毅然とした態度で居ようと思う。
そんな軍部室の中はどこか幹部室のような空気で嫌気が差してくる。
もっとも、あの親衛部隊の二人組が原因だと思うが。
「こちらです。」
どこに座ろうかと迷っていると神坂さんが自分の席の隣を指した。
『ありがとうございます』
と、目線で伝えると無事伝わったようで彼は目を伏せた。
「じゃーこれより、軍部総会始めマーす。司会は志貴サンの代わりにボクが。」
私が席に着くと、一番上座に座っているキースが仕切り始める。
ウチの幹部会議より緩すぎて驚く。おまえは本当に、本当にそれでやっていけているのか、なんて再び思った。
というか仕切るならお前ではなく志貴隊長の代理である私が妥当なのでは、と思ったが軍部の事はさほど知らないのでもう任せる。
するとどこからか微かに会話しているのが聞こえた。
『なぁ、なんで幹部が居るんだ?』
親衛部隊、政府内監獄管理部隊長がこちらを一瞥して、隣に座っている同部隊の護衛部部隊長が喋っている。
文句があるなら直接言いに来てくれれば張り倒してやるのに。
『知らねぇ。志貴さんの制服着てるけど……』
『あの和泉志貴もついに殉職か……?』
『まぁそういうこともありえるよな……』
なんだ、こいつ。失礼なやつらだ。
同じ軍部の人間なのに知らないなどというのか。
確か名前は「看舎監」と「赫護衛士」だったか。面は覚えた。
「和泉隊長はこれから約二週間、医療棟にて療養中です。その間、代わりに幹部の私が代理に抜擢されました。」
私がこう言うと、ローウェンが被せるように喋り始める。
「あぁ、そうそう。言い忘れてた。
こういう訳で暫くこの人が精鋭部隊纏めるから。よろしくぅ。看舎くんに赫護くん。」
“代理人には無礼を取るな”と言わんばかりに圧を掛けているのがその態度で分かる。
「ッース」
「あーい」
───というのに、この二人の返事はなんとも適当であった。
私も前々話くらいで適当な返事をしたらとあるラベンダーにぶん殴られた思い出があるが、これは流石にナイだろう。親衛部隊の教育は一体どうなっているのだ。
「そちらの部隊の人達は返事くらいまともに出来ないんですか?随分と笑わせてくれる。教育マニュアルを読み直してください。無くしたならまた配りますが。」
その場の空気が凍てつく。
ローウェンがにこやかに私を視るその眼は、まるで獲物を捉えた蛇のようだった。どうやら地雷を踏み抜いてしまったらしい。
そしてまたキースは私の事をバチバチに睨んでいる。
───やらかした。自分の短気なところが出てしまった。
「───」
隣で聞いていた神坂さんが唖然とこちらを見ている。
ちょっと一旦消えたい。
「……失礼。続けてください」
今の私は幹部じゃなくて精鋭部隊の隊長代理。その立場を弁えて発言しなければならない。
「アナタのコト本当に気に食わないや。まぁ良い、今日の会議内容は例のSランクにツいて。」
キースがまた再び司会を進行する。
例のSランク、とは、志貴隊長を半殺しにした者の事だろう。
ついでに気に食わないと言われたが今更その程度の罵りで私の心は動かせない。
「処刑か実験台にするか。多数決で決めるヨ」
処刑は言葉通り処刑だが、民衆の前で無惨に殺す手法の事。江戸時代で言う斬首刑に近い。尤も、それより受刑者は苦しむが。
そして実験台。これはとある“新薬”を色々試す被験者になってもらう刑。処刑と同じ苦痛を伴うが、すぐに死ぬ事は無いというなんとも残酷なものだ。
これらを多数決で決めるというのはちょっとおかしい気もする。
「まずは処刑」
特殊部隊長を除いた私を含める精鋭部隊の5名が手を挙げる。
「実験台」
残りの精鋭部隊の特殊部隊長と親衛部隊全員の7名が手を挙げる。
あっさり決まった。
「オッケー。じゃ実験台コースね。
それじゃ次の議題に移りマーす」
───それから大したこともない話を2時間ほどして、その日の総会は解散となった。
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コメント
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ふおおおおおおおお!!! なんか改めて考えると、楓って幹部クラスだから普通に強かったんやな