テラーノベル
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第九話 出陣命令
「本っっっっっっっ当に!!」
「かえでさん」
「申し訳!!!」
「あのぅ」
「御座いませんでした!!!!!!」
「だからもういいですって……」
「私の事を一発、いや二発くらいぶん殴ってくれて構いません!!!どうやら私も貴方の隊長の代わりにはなれなかったようです!!!!幹部出ちゃいました!!!!マジですみません!!!!!!!」
────総会が終わり、軍部室を出てこの前の自販機横にて。
私は神坂さんにとにかく謝罪しまくっていた。
精鋭部隊の顔として出席したにも関わらず私が短気なせいで恥をかかせ、挙句親衛部隊との関係を悪化させて、そして何より、志貴隊長のような大人の振る舞いが出来なかったのがとにかく申し訳なかった。
私が90度に体を折り曲げて頭を下げると、神坂さんは私に顔を上げるよう促す。
「あぁぁああぁ顔上げてください、ほんと、自分ダイジョブですから、ほら……」
私は促されるまま顔を上げるが、それでも後悔と反省は消えないのでとにかく罪悪感でいっぱいだった。
「いや本当に申し訳無い……和泉さん絶対ああやって言い返さないのにこの私の口は滑りが大変よろしく……」
志貴隊長なら確実に無視か目で牽制するはずなのに、私は言葉を飲みこむというのが不得手らしい。
「いやアレには自分もちょっと頭に来ましたよ。なので言い返してもらって結構楽しかったです。見ました?向こうの部隊の偉いおふたり。あの人達も短気なんですって。楓さんが殴り掛からなかっただけマシですって」
部下に励まされる自分にうんざりする。
いやでも、神坂さんが言うように殴り掛からなかっただけマシだ。
「……珈琲奢らせてください。メーワクリョーです。ほら選んで」
が、気を遣わせているのも分かっているし悪いのでとりあえず奢る。言葉の通り迷惑料だ。
「えっ」
神坂さんは戸惑った様子で自販機と私を交互に見る。
遠慮しないでほしい。
「選んで」
「……CR○FT B○SSのブラックで」
半ばゴリ押しで選ばせると、私はポケットから小銭を出して自販機に入れる。
「この前も飲んでましたよね」
「はい。好きなんですよね、これ」
なんて喋りながらボタンを押し、ガコンと音を立てて珈琲が出てくる。
それを取って神坂さんに渡す。
「どうぞ」
「ありがとうございます」
神坂さんがそれを受け取ると、早速プルタブを開けて一気飲みしはじめる。
缶越しでも熱く感じる珈琲を一気飲み、猫舌の自分では到底不可能なので素直に尊敬したい。
「……実は朝から何も口にしてなくって。ちょっと助かりました」
液体の音がしなくなった缶をゆすりながら、彼は衝撃的なことを言い始める。
「えっ」
「いつもより遅く寝たらあっという間に集合時間20分前だったんですよね。遅れたら確実にブチ殺されるので胃の中に何も入れられずで。」
私みたく色々悩んでいたのだろうか。なんというか、全ての言葉に同意できる。誇張無しに遅れたら殺されるのが政府だ。
「マジすか……」
「へへ」
………笑いどころがあったろうか。
まさかとは思うが、私が似たような話を柏木くんに愚痴った時の彼の感情と同じものを今味わっているとは言うまい。
………………なんだか柏木くんにも申し訳なくなってきた。
そうこうしていると、耳に着用していたインカムに連絡が入る。
軍部では常に誰もがインカムを付けているが、連絡が入ってきたのは初めてだ。
“こちら司令部。精鋭部隊、隊長、副隊長。精鋭部隊、危険ランク捕獲部総員に告ぐ。東京都███区付近にて危険ランクとみられるものが暴走。一般人を一名殺める他負傷者あり。呼ばれた者らは直ちに出動を。繰り返す───”
「最近こういうのばっかで困りますね。出陣です。」
この前のようにゴミ箱に空の珈琲缶を捨て、神坂さんはこちらに目を向ける。
着いてこいという意味だろう。
「了解しました。」
────東京都███区にて。
もはや異形と化した、元は人間であったはずのモノが、肉の塊となった人間をひとり齧っていた。
身体には魔力の層とみられる濃霧が巻きついており、まぁなんとも無惨な光景だ。
《ア゙ ア゜ ア゙?》
それは声とも呼べぬ声を発しながら首をカタカタ回している。
───捉えた。
次の獲物が決まったように、
フルコースのメインが来たように。
瞳をぎらぎら輝かせて、
こちらを指差す。
「それでは隊長。指揮をお願いします」
神坂猶斗が腰に掛けてあった剣を抜く。
「───了解。」
私はそれに倣うようにインカムに手を当てて現場の全員に通達する。
“こちら隊長。捕獲部は前線に。対象の弱点はおそらく頸。捕獲不可能と判断。この場で討伐してください”
───それでは───ご武運を。
マイクを切ると、右手に魔力を貯める。
『聖槍投擲』
自分の横に魔法陣を数枚並べ、一気に5本ほど魔力槍を異形に向かって放つ。
放った槍は異形の片腕に二本、眼球に一本、首に近しい所に二本刺さった。
的が大きいのと、危険ランクとはいえ元は一般人の為機動力はさほど無いのが幸運だ。
《────゙゙゙゙゙゙゙゙!!!!████゙゙゙゙!!!!!》
異形が暴れ回る。
周囲の車や建物の一部はもはや瓦礫と化した。
そして隊員も数名巻き込まれるが、他の隊員は動じない。志貴隊長の指導だろう。
「───!!」
様子を伺っていた神坂さんが地面を蹴って異形に斬りかかる。
私はその神坂さんに攻撃しようとする異形を魔力で編んだ縄で咄嗟に押さえつけた。
────チェックメイト。
頸を斬られたソレは、悲鳴を上げながら血とも言えない何かを噴き出して灰となり消える。
元は人間。なのに、灰になる。
消滅を確認すると、またインカムで現場にいる全員へ通達する。
“対象、消滅確認。任務完了。これより救護班の到着を待つ。手隙の者は一般人、または負傷した隊員の手当を。”
それだけ喋り終えると、久々の実戦で疲れたのかしばらく危険ランクが居た一点を見つめて立ち尽くしていた。
罪の無い人を加害するのは勿論いけない事。
だが人を殺して加害性のあるモノを殺すのは?
というか、元々加害性のなかった一般人が何故あそこまで暴走して異形になるのか。
そもそもランクというのは内部魔力の多さ、濃さによって決まるもの。それが急に爆発して危険ランクに跳ね上がる事もあるし、生まれつきのこともある。
でも皆等しく普通の人間から生まれた普通の人間だ。
ただ身体が魔力に適応出来なかったただの人間。
人間でもああいう異形まで達すると殺すしか無くなる。規則で決まっているから。
人間が人間だったものを殺す。
危険ランクから、異形から、なんとかして人間に戻す方法はないのだろうか。
「楓さん」
霧に迷い込んだような自分の思考回路を、一つの声が断ち切る。
「あ、はい、どうなされましたか。」
「いや特に、用事はないんですけど。地面を真顔で一点見つめとか、らしくないなって。」
そんなに心配される顔をしていたのだろうか。
外ではなるべく怖い顔をしないように心掛けていたのに。
「あぁ、いえ……徹夜したので疲れてるのかもですね。あはは。心配かけさせてすみません」
なにか心にどしっと来たのを取り繕うように笑って咄嗟に誤魔化す。
この癖がもう身体に染み付いている。
「───」
同じような展開、同じような会話をした時の柏木くんと今の神坂さんの表情がまたリンクする。
この二人、案外似ているのか。
「……向こうの救護班手伝いに行きましょうか、神坂さん。この場で一番偉い人が突っ立ってちゃダメですものね。」
少しのあいだ気まずい沈黙が流れたので、なんとか次の作業を探して瓦礫の方へ踵を返す。
「あ……はい。」
そう返事をした彼の顔が、何故か見れなかった。
「まだこっちに人が居るぞ!」
「瓦礫をどかせ!!」
何やら怒号が飛び交っている方へ行くと、通行人も参加して人命救助を行っていた。
さっきまで突っ立っていた自分が馬鹿みたいだ。
今更ながら手伝いに行こうと思う。
「失礼、この瓦礫を退かすので少し離れててください!」
下にいる人を踏まないように、何百kgもの瓦礫を持ち上げて反対側へ倒すと、一人の女性と犬が出てきた。
それを救護班員が慎重に瓦礫が少ない所へ運ぶ。
血にまみれてはいるがどちらもまだ息はある。
「誰か担架を。まだ間に合います」
班員に指示をする。
「隊長、担架が足りません!」
すると後から走って来た班員が焦ったように息を切らしてそう告げられる。
「ならばこの場で止血してください。布切れでも何でもよろしい。とにかく出血を止めれば後はなんとかなるから」
「はい!」
どうやら状況は結構まずいらしい。そこらを見て回って自分がなんとかするしかない。
あれから3時間ほど経ったろうか。
あの危険ランクの暴走に巻き込まれた人が約22名。そのうち死亡は二人ほど。
一人は通報時点で死亡が確定していた人、もう一人は逃げ遅れて攻撃をモロに受けたらしい。
明日の早朝、その二名の実家に頭を下げに行く。
志貴隊長はいつも死亡者が出るとそうしているらしい。
久々の実戦+寝不足+何時間もずっと救命活動をしていたせいか頭が痛い。
救命活動は私の得意分野じゃない───などほざきたいところだが今は仕方ない。幹部という立場じゃないから。
とは言ってもこの治癒魔法の下手さ加減はどうにかならないものかと常に思っている。出来ても昔ながらの魔法不使用の応急手当のみ。
前に一人で治癒魔法の練習をしていたら片腕が飛んだのを丁度通りかかった救護班の人に治してもらった思い出があるのだ。
あの時の班員さんには非常に申し訳なかったと思ってる。
反省は、多分、していると思う。多分。
ひとまず今日で巻き込まれた人はほとんど助けた。
念のため、救護班の人達が明日もまた捜索してくれるらしい。
そして私は明日、熱湯をブッ掛けられに行く程の覚悟をしなければならない。
今日も眠れなさそうだ。
#ミステリー
月神零華@生きてます
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#ファンタジー
月神零華@生きてます
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コメント
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第九話、読み終えました。楓さんの「隊長の代わりにはなれなかった」っていう自己否定の強さ、すごく胸に刺さりました。自販機で神坂さんに珈琲を奢る場面、あの気まずさと気遣いのバランスが絶妙で「あるある……」って思わず共感。出陣後の戦闘描写もテンポ良くて、楓さんが一瞬見せた「人間が人間だったものを♡♡♡」という哲学的な問いかけが、この物語の根幹を感じさせますね。最後の「今日も眠れなさそう」で締める余韻、好きです。柏木くんと神坂さんのリンクも気になる伏線ですね。