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「……ったく、あの熱血大阪探偵、本当に全部話しやがったな」
江古田にある自室のベッドの上で、黒羽快斗はスマホの画面を睨みつけながら、ぼふんと枕に顔を埋めた。
画面には、平次から送られてきた『新一のやつ、お前の伝言聞いて顔真っ赤にしてたぞ。近いうちに会いに行くってよ』というメッセージ。
「勝手に人の日常覗いといて、今度は真っ赤になってるって……どんだけ純情なんだよ、あの推理オタク」
快斗はのそりと起き上がると、鏡の前に立った。
顔はまだ少し赤い。だが、その瞳にはこれまでにない、熱い炎が灯っていた。
「『あいつが怪盗じゃなかったら、一生の相棒になれた気がするのに』……か」
快斗は不敵に、年相応の少年のようにニカッと笑った。
「上等じゃねぇか。だったら見せてやるよ。怪盗としてのオレが、どれだけお前の『相棒』にふさわしいかってな!」
***
そして迎えた、犯行予告日の深夜。
舞台は米花シティホテルの最上階テラス。キッドは目当ての宝石『月の瞳』を鮮やかに盗み出し、警備の目を完璧に巻いて屋上へと降り立った。
「ふぅ……相変わらず、中森警部たちの包囲網はぬるいですね」
月光を背に浴びながら、キッドがいつものキザなセリフを口にした、その時だった。
「――包囲網がぬるいんじゃねぇよ。お前が来るのを、俺がそこで待たせてたんだ」
影からゆっくりと姿を現したのは、スーツのブレザーを風になびかせた工藤新一だった。その隣には、木刀を肩に担いだ服部平次も不敵な笑みを浮かべて立っている。
「おや、名探偵。今日もわざわざ私に会いに?」
キッドはポーカーフェイスの仮面を被り、シルクハットの庇に手をかけた。心臓がうるさいくらいに跳ねているのを、必死で隠しながら。
新一は逃げ道を塞ぐように一歩前へ出ると、ポケットから手を抜き、キッドをまっすぐに見据えた。
「ああ、会いにつれてきたぜ。……お前の事情は、全部調べさせてもらったからな。黒羽快斗」
キッドの眉がピクリと跳ねる。
「お前が追ってる『パンドラ』って宝石のことも、お前の親父さんを殺したあの巨大な『組織』の存在も、全部だ」
新一の声は低く、しかし驚くほど力強かった。
キッドは一瞬、完璧なポーカーフェイスを崩し、言葉を失った。
「……ハッ、やっぱり恐ろしい探偵さんだ。そこまで知ってて、オレをどうする気ですか? 泥棒の事情なんて、法の前には関係ないでしょう?」
キッドは自嘲気味に笑い、ハンググライダーの翼を広げようとした。
だが、新一はその言葉を遮るように、さらに距離を詰めた。
「関係大ありなんだよ!……お前が怪盗じゃなかったら、一生の相棒になれた気がするのにって、俺は何度も平次に言ってた。けど、それは俺の勘違いだった。お前が怪盗だろうが、普通の高校生だろうが、そんなことはどうでもいい。たった一人でその化け物みたいな組織と戦ってるお前を、放っておけるわけねぇだろ!」
新一はキッドに向かって、右手を力強く差し出した。
「その組織の謎、お前の親父さんの事件、全部俺が解き明かしてやる。だから一人で背負い込むな。――俺をお前の『相棒』にしろ、快斗!」
夜風が激しく吹き抜ける屋上で、キッドは完全に立ち尽くしていた。
「……ふっ、あはははは!」
沈黙の後、キッドは突然、お腹を抱えて笑い出した。それは怪盗キッドのキザな笑い声ではなく、黒羽快斗としての、心からの笑い声だった。
「本当に……とんでもねぇ探偵だよ、お前は」
快斗はシルクハットを脱ぎ、乱れた黒髪をかき上げながら、新一の差し出された右手を見つめた。
「いいぜ、新一。オレの背中、お前に半分預けてやる。その代わり、謎解きが終わるまでは、絶対にオレを捕まえるなよ?」
「当たり前だ。お前を捕まえるのは、その組織を片付けた後、一番最後の最高のご褒美だ」
花梨
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千導 渉
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二人の高校生がニヤリと不敵に笑い合った、その時だった。
「おいおい、感動の相棒結成のところ悪いけどな――えらい物騒な観客がお集まりやぞ、新一、キッド!」
テラスの端で平次が鋭い視線を闇に向けた。
直後、バババババッ!と激しい銃声が夜の静寂を切り裂いた。
闇の中から現れたのは、全身黒ずくめの戦闘服に身を包んだ組織の刺客たち。
「散れ、平次! 快斗!」
新一の鋭い号令とともに、三人が同時に動き出した。
「ハッ、言われんでもわかっとるわ!」
平次が弾丸の嵐を紙一重でかわしながら突進する。鋭い踏み込みから放たれた木刀の一撃が、先頭の刺客の顎を正確に捉えてねじ伏せた。
「あいつが怪盗じゃなかったら、一生の相棒になれた気がするのに……って、本当にその通りかもな!」
新一は走りながら、ベルトのダイヤルを回してサッカーボールを射出した。
「何がだ、新一!」
快斗がトランプ銃を構え、迫る刺客の視界をカードの乱舞で奪う。
「息が合いすぎて、説明する手間が省けるってことだよ!」
新一が限界まで威力を高めたシューズでボールを激しく蹴り抜いた。ボールは、快斗が目潰しした刺客の胸元へ完璧な弾道で直撃し、男の巨体を一発で吹き飛ばした。
「なるほど、そいつは合理的だ!」
快斗は白いマントを美しく翻し、残る二人の刺客の視界を完全に遮る。
「新一、右から三歩!」
「分かってる!」
新一は快斗の指示を疑うことなく、目をつむったまま右へ跳んだ。直後、新一がさっきまでいた場所を銃弾が貫く。着地と同時に、新一は腕時計型麻酔銃を構え、刺客の首筋へ針を撃ち込んだ。
「これで最後やぁぁ!」
背後から回り込んだ平次の木刀が、最後の刺客の銃を叩き折り、みぞおちへ強烈な突きを叩き込む。
完璧な連携の前に、組織の刺客たちは一人残らず床に転がっていた。
「ふぅ……。おい新一、怪盗だろうが何だろうが、お前らのコンビ、最初から完成しとるがな」
平次が木刀を肩に担ぎ、呆れたように、しかし嬉しそうに笑う。
新一と快斗は、まだ荒い息を整えながら視線を交わした。
快斗はシルクハットを頭に乗せ、いつもの不敵な笑みを浮かべる。
「どうする、名探偵。オレの『日常』、覗きにくる覚悟はできたか?」
新一はポケットに手を突っ込み、快斗に一歩近づいて不敵に笑い返した。
「当たり前だ。あいつが怪盗じゃなかったら……なんて未練はもうねぇよ。怪盗のお前ごと、その人生、オレが引き受けてやる」
「……っ、ほんと言葉のチョイスが重ぇんだよ、お前は!」
快斗は赤くなった顔を隠すようにハンググライダーの翼を広げ、月夜の空へと飛び立った。
「じゃあな新一、平次! 次はオレのホームグラウンドで待ってるぜ!」
「待ちやがれ快斗! 明日、江古田高校の教室に突撃してやるからな!」
夜空へ向かって叫ぶ新一の顔には、もう一ミリの迷いもなかった。
コメント
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**リオンです。** 第5話、一気に読み終えました!やっぱり来ましたね、快斗と新一の“相棒”展開。新一が全部調べたうえで「怪盗のままでもいい、相棒になれ」って手を差し出すシーン、胸が熱くなりました。組織の刺客との連携バトルも爽快で、あの二人の呼吸が合いすぎてる感じがたまらないです。平次の「完成しとるがな」に完全同意。次は江古田に突入する新一、楽しみすぎます!