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FORSAKENのフィールドから生還した神殿の私室。
重い扉が開くと同時に、濃密な血臭が部屋の空気を一変させた。
そこに立っていたのは、返り血で真っ赤に染まったウェアウルフだった。
生存者たちを屠ってきた直後のウルフは、白い服も黒いマントも、そして黒い毛並みのあちこちも、ドロドロとした赤黒い血で濡れていた。
右目の黒い眼帯を揺らし、左の赤い目をギラつかせながら、大雑把に首を振って血の飛沫を散らしている。
それを見た黒ハチワレ猫頭の紳士、Mowlは、愛用のモノクルをサッと押し上げると、心底呆れたように深い溜息を吐いた。
「……ハァ。ウルフ殿……またそのようにお体を血で汚して。」
「狩りの後の身だしなみも臣下の嗜みでございますよ。」
「実に汚いです、速やかに洗い流してきてください」
Mowlが胸の黄色いリボンを整えながら嗜めると、ウルフは横柄に鼻を鳴らし、足音も荒々しくMowlの前へと歩み寄った。
「チッ……面倒くせえ。風呂に行くのもダルいんだよ」
「ダルいではありません。その姿で神殿を歩かれては、スペクター様にもご不快を——」
「じゃあ……お前が舐めて綺麗にしろよ」
「……はい?」
ウルフはニヤリと凶悪に唇を歪めると、ドスンとMowlの目の前に座り込み、返り血で汚れた胸元をガバッと寛げて見せた。
「お前が俺の身だしなみに文句言うんなら、お前が責任持って綺麗にするのが筋だろ。ほら、舐めろよ」
「なっ……!? なんという暴論……っ! 血液を直接舌で舐め取るなど、そのような……破廉恥かつ不衛生な行為……っ!」
「嫌なら、この血塗れの体のままお前を抱き潰すが? お前の綺麗な毛並みも、全部血みどろにしてやるよ」
「ーーー〜〜ッ」
ウルフの脅迫に、Mowlの猫耳が後ろへぴったりと倒れた。
自らの毛並みも服も、血だらけにされるわけにはいかない。
Mowlはプライドと羞恥心の間で苦渋の決断を下した。
「……っ、後で絶対に……お風呂へ行っていただきますからね……っ」
Mowlは諦めたように前脚の爪をひっこめると、意を決してウルフの胸元へと顔を近づけた。
恐る恐る伸ばされた、小さなピンク色の舌。
ペロリ……ッ。
「…っ」
Mowlの身体がビクッと跳ねた。
鉄の味と、ウルフ自身の獣臭い体温が、舌先からダイレクトに脳へ伝わる。
「おいおい、腰引けてんぞ。もっとしっかり舐め取れよ」
「言われずとも……っ! 舐め取ります……っ!」
羞恥心で耳の内側を真っ赤に染め上げながら、Mowlは健気に舌を動かし始めた。
ウルフの胸元にこびりついた血を、ちいさな舌で「ペロ……ペロペロ……」と丹念に舐め上げていく。
黒い毛並みに絡みついた血を解きほぐすように、何度も、何度も。
濡れた舌がウルフの皮膚に擦れ合うたび、ウルフから発せられる熱気と独特のフェロモンがMowlの鼻腔をくすぐり、知らず知らずのうちにMowlの呼吸が荒くなっていく。
ジュプ……ペロリ……ッ。
「んっ……ふ……っ、ウルフ殿の血ではないとはいえ……味が……強烈で……にゃっ……」
「へっ……顔が真っ赤だぜ、猫殿。俺の胸元を舐め回して、そんなに興奮してんのか?」
「興奮など……しておりません……っ! 身だしなみを整えて差し上げているだけで……っ!」
Mowlは必死に言い返しつつ、ウルフの胸元から、次は太い首筋へと舌を滑らせていった。
そして——ウルフの右肩から腕にかけての毛並みを舐め上げた瞬間、Mowlの舌先がぴたりと止まった。
血の味に混ざり、ほんの少しだけ「生肉が裂けた匂い」が混ざっていたのだ。
「……ウルフ殿。動かないでください」
「あ? なんだよ、急に真面目な顔して」
Mowlは指先でウルフの濡れた黒い毛並みをそっと掻き分けた。
そこには、生存者の抵抗によって負わされたと思われる、ざっくりと深い切り傷が隠されていた。
血が固まりかけてはいるが、処置をしなければ化膿しかねない手傷である。
「……まったく。自分の傷にも気づかないほど大雑把なのですか、貴方は」
Mowlは呆れたように息を吐くと、サッと立ち上がり、医療箱を持ち出してきた。
「おい、そんなもん要らねえよ。狼の傷なんざ、放っておけば治る」
「黙りなさい。臣下が傷を放置して万全を欠くなど、言語道断でございます」
Mowlの手つきは、先ほどまでの恥じらいが嘘のように手際が良かった。
素早い動作で消毒液を綿棒に含ませ、ウルフの傷口を丁寧に清拭する。
ウルフが「チッ……」と痛みに眉をひそめても、Mowlの指先は決してブレなかった。
薬膏を塗り込み、清潔な白い包帯を手際よく巻き付けていく。 Mowlの小さく柔らかい肉球が、ウルフの硬い皮膚の上を滑り、綺麗に結び目を作って完璧な処置を終えた。
「……よし。これで完了でございます。傷口が塞がるまでは、無理な運動はお控えくださいね」
Mowlは胸の黄色いリボンをサッと正し、完璧なマナーで深々と一礼した。
ウルフは巻かれた包帯を指先で不器用に触り、左の赤目を気まずそうに逸らした。
「……チッ。余計なことしやがって。こんな傷、ほっとけばすぐ治るっつったろ」
悪態をつくウルフ。
だが、その声にはいつもの刺々しさは一切なく、狼耳の尖端がほんのりと赤くなっていた。
そして、フサフサとした黒い尻尾が、ウルフの言葉とは裏腹に、パタパタパタ……と嬉しそうに振られていた。
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城プル
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ゆ(旧「ゆゆゆゆ」)
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