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「あ、次どりみーやん」
黄色が椅子を揺らし、頭の後ろで手を組みながら言う。
名を呼ばれた緑色は額から物凄い量の汗が流れ出ており、前に座る赤色に助けを求める事すら出来ない。
赤色本人はいつもと同様助けようと思うも、今回は緑色本人しか知らない情報なので助けようがなく罪悪感からか笑みが攣っていた。
青色は全て分かっていながら「早く〜」と急かしている。
「ア」
と声をあげて、空間からPCを出す彼。
キーボードを鳴らして生み出したのは1匹の人形。
『ども』
「すげ〜なにこれ!」
興味津々な青色を無視して『もういい?』と緑色に聞く、まるでミニ◯ラのような人形。
主人がコクリと頷くと、空咳を1つ。
『これは、とある国の王子様の話。』
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月明かり照らす王宮の廊下。
夜、皆が寝静まる頃、胴体に合わない大きな尻尾を揺らしながらペタペタと裸足で歩く影が1つ。
ランプがカチャカチャと音を鳴らし、頭に乗せた魔女のような緑色の帽子は歩くたびにふわふわと揺れた。
前から1人の執事が歩いてくるのが見える。
「おやおや”トレボル様”」
上等な革靴が大理石の床を鳴らす。
きちんと身分を弁えているのか、腰を落とし、緑色の彼よりも下から声をかける執事。
「ご就寝時間は当に過ぎていますが…裸足で、どこに向かっているのですか?」
反射した月明かりにエメラルドのような綺麗な瞳が、暗闇に映し出される。
ゆっくりと頷く彼。
「…左様ですか」
落としていた腰を持ち上げ、彼の手に持っていたランタンランプをそっと取る。
「失礼ながら、お供致しますね」
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生まれながらに恐竜と霊の血を引き継いだ彼は、その貴重さに両親や使用人に甘やかされた。
けれど、話そうとするとどうしても言葉に詰まってしまい、舞踏会や披露宴などの社会行事に参加する事ができず、父親からは『王宮内ではこれを使って話すと良い』とスケッチブックを渡された。
実の両親から初めて渡されたものがスケッチブックであり、”お前はもう話さなくていい”と見放されたような気がしたのだ。
その後、彼は誰にも心を開くことなく、王宮内にある大図書館にて殆どの時間を費やしてしまう。
”誰にも邪魔されない場所”。
スケッチブックを取り出す動作を見て、顔を曇らせるヒト、可哀想な顔をするヒト…また、中には会話自体を拒むヒトなどもいた。
会話をしないほうが、彼には心の安らぎとなっていたのだ。
ガチャ__
「ご就寝はここでなさいますか?」
勿論、寝室には使用人が数名、彼を見守るような形で待機している。
彼は首をゆっくりと縦に動かした。
「承知いたしました」
目の前の執事は、唯一、彼のことを理解しているものと言っても良い程対応が上手い。
実際、彼のスケッチブックを見た際”これはいかがなものか”と講義したのも彼だ。
しかし、幾ら理解していると言っても彼に浴びせられる言葉は上からで。
「では失礼致します」
ペコリとお辞儀をし、そのまま図書館を出ていく彼。
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とある日の午後、昼食を終えた彼は図書館へと向かっていた。
今朝伝えられた使用人の話では、今日の午後、他国の王子が来訪するとのこと。
普段から着慣れ、伸びた服が好きなので表にはあまり出ないようにと釘を刺された彼だが、図書館への足は止められない。
仕方なく図書館前につながる裏道を使おうと、雑木林を抜け、なんとか誰にも出会わずに到着するも、予想以上に足が汚れてしまった彼。
このままでは入れないとあたりを見渡すと、洗濯物が干してあるのが目に入る。
1枚のタオルを取り、近くにあった桶付きの水道でじゃぶじゃぶと足を洗い、拭う。
白く綺麗だったタオルは少し汚れ、色がくすんでしまっていた。
桶に水をため、慣れない手つきで洗っていると_
「そこにいるのは誰?」
後ろから声が聞こえる。
聞いたことのない声…聞いていた他国の王子だろうか、なんて。
「ねぇ」
足音がこちらに近づいて来るのが聞こえる。
シーツで見えないようになっているのか、相手から自分の姿は認識されていないようだ。
どこか、どこかに隠れられる場所は…
サクッ__
「…あれ?」
珍しい髪色をした王子はシーツ裏にいた影に声を掛けるも、捲ってみればその姿はない。
見間違いか、なんて独り言を零しながら元の場所に戻っていく。
王子の姿が見えなくなって数分。
近くの雑木林から小さな影が1つ、ひょっこりと現れる。
「…マタ汚レタ、」
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会議室に静寂が訪れる。
「…え?終わり?w」
『終わりです』
青色の言葉に人形は即答する。
赤色がひとつひとつ整理をつけるように、机を人差し指をトントンと置きながら呟く。
「ってことは、その王子様ってのがらっだぁで…何らかの経緯で知り合いになってって感じの解釈で合ってる?」
『大方合ってるけど、補足をかけると、話した場面の中にその”何らかの経緯”が含まれてる』
「え、最後の部分じゃないの?」
紫色が答え、人形は頷く。
『王子は完全に戻ることなく、隠れたと想定した影が戻ってくるのを待っていた。そこに予想通り、戻ってきた彼に声を掛け〜という流れ』
「話の途中に出てきた”トレボル”ってのは?」
煙草に火をつけながら言う黄色。
『正式名称』
「「「え」」」
全員の声が重なる。
人形はまだまだ彼の暴露をしていく。
『彼には”ハーデ”という兄がおり、エルフの血を引き継いだ彼は森を護る為、王位継承権を捨て森に住まうことを選びました』
人形は淡々と話す。
「兄が王位継承権を捨てたなら、王になるのは…」
4人の視線が緑色に集まる。
『”龍零帝国、最後の国王…トレボル・グリム”がこのお方です』
「コッチミンナ!」
もともと外出をしないせいか白い肌が真っ赤に染まる。
「王様〜w」
青色が弄ると、黄色、紫色と皆が便乗する。
「モウ!早く次のヒトいって!」
爆笑する青色が気を取り直してという風に、すんと表情が変わる。
けれど耐えきれなかったのかまた軽く笑いながら言う。
「じゃ、じゃあ次の処刑人〜w」
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