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結婚相手を間違えました

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結婚相手を間違えました

7 - 第7話 近付くふたりのその裏で②

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2025年02月19日

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「ソファーで寝落ちしちゃったから『ベッドに行けば?』って言ったの」

母の言葉を聞きながら、

(確かにお父さん、毎日私より先に家を出て、私より遅く帰宅しているもんね)

と思った結葉ゆいはだ。


(疲れていて当然だよね)

そう思うと同時に、

(今日はやっぱりバスで行って正解だったな)

とも思った。


父親に迷惑をかけなくて良かったという気持ちももちろんあるけれど、もし結葉ゆいはを溺愛している父と一緒だったなら、御庄みしょう先生からもなかったかも知れない。

あったとしても、自分もついうっかり「お願いします」なんて話にもならなかった気がしたから。


「――で、どうだったの?」


御庄みしょう先生のことを思い出して思わずトクンッと心臓が跳ねて、(あの先生、すっごくかっこよかったなぁ)と思っていたら、母親から急に水を向けられて。

結葉ゆいはは余計にドキッとしてしまった。


「どっ、どうって……」


そこで一瞬口ごもってから「す、すごく……感じのいい先生だった、よ?」と母親の方を見ないでつぶやく。


何だかいま美鳥みどりに顔を見られたら、変な勘ぐりを入れられそうで怖かったからなのだけれど、どうしてそんなことを思ってしまったのかは、結葉ゆいは自身にもよく分かっていなくて。



「すっごくだったのね」


なのにさすが母親というべきか。


美鳥みどりの確信めいた言葉に、結葉ゆいははカップを持つ手がピクッと跳ねた。


「な、なんでそんなこと……っ」


ソワソワと視線を彷徨わせながら言ったら、「あの病院の院長先生がハンサムっていうのは満場一致でよく聞く話だもん」と美鳥みどりが笑う。


その言葉に結葉ゆいはは観念したように「……芸能人かと思うくらいハンサムな先生だった」と溜め息を落とす。


正直、幼なじみのそう以外に、結葉ゆいはがあんなに胸をときめかせたのは初めてかも知れない。


「もし先生とうまくいったら、そうくんのこと、諦められそう?」


母親に労わるような声音を投げかけられて、今度こそ結葉ゆいはは驚いてしまった。


そうに片思いをしている話を、結葉ゆいはは両親のどちらにも言った覚えなんてなかったからだ。


「えっ」


驚きの声を発すると同時に美鳥みどりの方を見たら、「気付いてないと思ってた?」と淡く微笑まれて。


その言葉に真っ赤になってうつむいたら、「何年貴女のお母さんをやってると思ってるの?」って頭をふんわり撫でられた。


「だからね、そうくんに彼女が出来たって聞いた時、お母さんゆいちゃんのこと心配だったの。だけど――」


そこで結葉ゆいはの方にくるりと身体ごと向き直ると、美鳥みどりがにっこり微笑む。


「さっき福ちゃんと一緒に帰って来たゆいちゃんの表情を見てね、お母さん『あれ?』って思ったのよ?」



美鳥みどりの言葉に結葉ゆいははただただ困惑して瞳を見開くばかり。


無意識に包み込むように手のひら全体でカップを握ってしまっていて、熱さにハッとして手を緩めて。


「お母さん……」

母を見つめてそう声を発してみたものの、そこから何と続けたらいいのか分からなくて口ごもった結葉ゆいはに、美鳥みどりが続けた。


「実はね、貴女がハムスターを飼いたいって言い始めた頃にね」


言って、おもむろに美鳥みどりが立ち上がる。


リビングにあるチェストからA4サイズくらいの封書を手に戻ってくると、結葉ゆいはに差し出してきた。


「……?」


――これ、何?


そんな気持ちを込めて結葉ゆいは美鳥みどりを見つめたら、無言で開けてみるようにうながされた。


その視線に、結葉ゆいはが不思議に思いながら封書を開けてみると、中には一葉の紙片と白い二つ折りの台紙が入っていて。


恐る恐るそれらを取り出して視線を落とした結葉ゆいはは息を呑んだ。


「お母さんっ、これ……」


中には先程福助を連れて会ってきたばかりの相手、御庄みしょう偉央いおの釣書と、彼のスーツ姿の写真が入っていた。


「ゆいちゃん、ずっとそうくんばかり見てたでしょう? お母さん、ゆいちゃんには幸せになって欲しくて。でも……だからって無理矢理違う人に会ってみない?っていうのも違う気がして……。お父さんと2人、を進めるべきか否か、ずっと迷っていたの」



茂雄しげおの勤め先の上司が、今時珍しく見合いの世話人をするのが好きな人で、御庄家みしょうけの一人っ子である偉央いおの見合い相手を探していたらしい。


今現在30歳の偉央いおと、22歳の結葉ゆいはの間には歳の差が八つ。

見目が麗しい上、とても優秀な人材だという話は上司から散々聞かされていたけれど、茂雄しげおにとって偉央いおは娘の相手としては歳が離れすぎていて「うちの娘とかどうでしょう?」みたいな気持ちにはならなかったそうだ。


「誰かいい女性ひとが見つかったら真っ先に部長にお声を掛けますよ」


そう言って笑った茂雄しげおだった。



そもそも一人娘の結葉ゆいはが、隣に住む幼なじみにずっと片思いしていたのは茂雄しげおも知っていたし、娘の一途な思いを考えると、別の男を勧めてみる気にはなれなかったのだ。


だけど。

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