5年前~辰也14歳~
父親は暴力的で、母親は次々と出ていくから、長男の俺がずっと弟達を守るように育ててきた。
可愛くて素直な弟たちは、俺の宝物だった。
そんな弟たちにも、父は殴って言うことを聞かせようとした。
家に来れるのは、父の息のかかった部下達だけ。俺たちの叫びは誰にも届かないし助けてもらえない。
中学校に入ると、周りの家庭と俺達の家は全然違うんだと理解し、俺は荒れた。
見た目は派手になり、瞳は荒んでいった。
父には愛されないってことぐらい、ちゃんとわかっていた。でもほんの1度だけ、1回だけでいいから、俺を見て欲しかった。母さんに戻ってきてほしかった。
そんな願いは叶うはずもないのに。
俺がガラの悪い奴らとつるむようになると、弟たちも真似をしたのか攻撃的な発言や派手な格好をすることが増えた。
ただ、ひとつ年下の亮平だけは俺たちの真似はせずに、いつも悲しそうにしていた。真面目で気が利くので、亮平は父親からも気に入られていた。
前に亮平の背中に火傷を負わせたくせに。本当、自分勝手な父親だ。
そんな亮平が、2日間姿を消した。
亮平は優しいから、俺たちを置いて家出なんかするわけがない。それに、まだ中学1年の幼い子供だ。誰かに誘拐されてしまったのではないかと、俺たち兄弟は必死で亮平を探し回った。
でも次の日、亮平はひょこっと姿を現した。俺たちの心配を他所に、関西に住んでいた血の繋がった弟だと言って、茶髪の男の子を連れてきた。
💚「この子が俺たちの弟、康二くんだよ」
🧡「よろしくおねがいします」
💛「はじめまして。よろしくな」
💙「名前はなんていうの?」
🧡「康二やで」
❤️「よろしくな、康二」
🩷「おれは大介!おまえの兄ちゃんだぞ」
🧡「大兄って呼んでもええか?」
🩷「もちろん!かわいーなこいつ~」
あどけない可愛らしい姿の弟に、普段は強気の弟たちも優しく迎え入れた。
💜「…どこから連れてきたの?」
💚「父さんに、居場所を聞いて会いに行ったんだ」
父さんは俺には目も合わせてくれないのに。亮平だけ特別扱いされているのがなんだか悔しくて、気づけば俺は亮平に嫌味を浴びせていた。
💜「お前はいいよな」
💚「え?」
💜「父さんに愛されててさ。俺とは違うんだ?」
💚「そんなことない!僕は…!」
💜「もういい」
せっかく無事に帰ってきてくれた弟への優しさも、新しい家族への歓迎の言葉もかけられず、俺は部屋にひとり閉じこもった。
独りで居たら涙が出てきた。弟たちに聞こえないように、その日は声を殺して泣いた。
俺は我慢が得意なんだ。
今まで自分ににそう思い込ませていたのに、それが全部無駄になってしまったような気がしてもっと虚しくなった。
父親が部屋に入ってきたのも気づかずに、俺はひとりで泣き続けていた。
次回は本編に戻ります。
辰哉くん思い出話の後編は、こんど出すのでお楽しみに。後編はセンシティブかも。
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