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ヒノトは、グラムを背後に見遣る。
「俺のことはいいから、自分と、リゲルのことを防御できる魔法、張れるか?」
グラムはコクリと頷くと、手を合わせた。
“岩防御魔法 岩陰”
詠唱後、グラムとリゲルを囲うように、丸い岩の壁が張り巡らされた。
ボン!!
その瞬間を合図に、ヒノトはいつもの如く爆音を鳴らして、魔族の元へと高速移動をする。
「あら、いい動きじゃない! その年にして、魔物との戦闘経験はあるみたいね。でも……知性のない魔物と違って私たち魔族には…… “知性” があるの……」
キィン!!
ヒノトの短剣は、見えない防御壁によって阻まれた。
「これは……結界魔法か……!!」
「ふふ……貴方はどんな魔法が使えるの? 魔法がなくっちゃ、この魔法で作られた結界は壊せない……」
余裕な構えでニタリと笑みを浮かべ、ヒノトは危機感を感じてすぐに後ろへと下がった。
「ヒノト……?」
心配そうに、リゲルはヒノトの背中に声を掛ける。
ヒノトは、剣を手に、今度は震えていた。
「正直……ナメてた……。父さんから剣術は習ってたし、魔物との戦闘も豊富だった……。だから、素早い戦闘とか実戦とか、すげぇ楽しみにしてた……」
しかし、ここに来て現実はヒノトに襲い掛かる。
「魔法じゃなきゃ壊せない結界って……俺じゃ何をしてもアイツに勝てねぇじゃん……」
グラムは、表情を変えずにジッとヒノトを見ていた。
いくらグラムがメンバーに恵まれなかったとは言え、リゲルの言う通り、ヒノトの猪突猛進さに着いて行く為にはまず、ヒノト自身が前衛として仕事をできるか、見定めなければならない。
中衛に未だ出会えていない二人の状況で、ヒノトの立ち回りだけが、グラムの全てだった。
しかし、そんな中で、ガタガタと剣を振るわせながら、ヒノトは不器用にも笑ってみせた。
「勇者なら……どんな時でも笑うんだ……!!」
旅立ちの朝、母から言われた言葉。
村の暮らしでは、街の子供たちのような近代的な遊びが限られていた。
その為、ヒノトの家には絵本が多く揃えられていた。
そこには、数多くもの現実を題材にした、勇者の冒険活劇が記されており、ドラゴンとの戦い、精霊との出会い、洞窟の遭難、魔族軍との戦争……そして、魔王との戦い。
勇者はどこでだって、笑った顔で描かれていた。
そこまで全てが真実なのかどうかは、その場にいた人間でなければ証明はできない。
しかし、幼い頃からたくさんの勇者の笑顔を見てきたヒノトにとって、真実はどちらでもよかった。
何故なら、
「笑って戦ってる奴の方が、かっこいい……!」
その言葉に、グラムは珍しく、小さく微笑んだ。
「ヒノト! なら頼れ! ”仲間” を!!」
グラムの珍しい大声に、ヒノトはハッとする。
その言葉に、ニヤッと笑みを浮かべる。
「 “指示をくれ” ……。そうか、勘違いしてた。そうだ、俺たちがやりたいのはブレイバーゲーム……! 連携の指示をくれってことだな……!」
「岩の子が私に魔法攻撃をぶつけても無駄よ。学生の魔法なんかで、私の結界が破れるわけないじゃない。どちらにせよ、貴方たちには何もできないのよ〜」
ククク、と、魔族の女は味見をするかのようにジッとヒノトたちの様子を伺っていた。
「ンなもん、やってみなきゃ分かんねぇ! グラム! 俺の剣に合わせて魔法攻撃を頼む!!」
ヒノトの声に合わせ、グラムは一度、魔法壁を解く。
そして、今度は右腕を伸ばし、左手で支える。
「命中力には自信ない……が、この距離なら大丈夫だ」
ボン!!
再び、ヒノトは爆音を響かせて女に飛び掛かった。
リゲルはその時、初めてヒノトの動きをちゃんと見た。
(魔法は発動できなくても魔力自体はある……。その魔力を足に溜めて暴発させて加速していたのか……!)
「ふふ、一点突破で単調……こんな剣、防げない方が無理ってものね」
しかし、どんなに早くても、前進しか出来ないヒノトの攻撃に合わせ、着実な結界を張っていた。
(そうだ……ヒノトがどんなに工夫を凝らし、加速しても、魔法が使えないんじゃ……)
リゲルが不安そうに様子を伺う中、ヒノトは笑った。
「魔物との実戦は場数を踏んだ、そう言っただろ……!」
ヒノトはそう叫ぶと、グラムに目配せをし、魔族の女を通り過ぎる。
「背後から攻撃? そんなの、簡単に防げるわよ!」
キィン!!
背後に回ったヒノトの剣は、またも簡単に止められる。
しかし、
“岩魔法 砲岩”
ゴォ……!!
グラムから狙い撃ちされた、手から放たれた岩石の岩魔法は、真っ直ぐ女の背中を捉える。
ゾク……
その瞬間、全員は背筋の凍る衝動に駆られる。
バコッ!!
グラムの放った岩魔法は、女の背中に当たり、砕ける。
しかし、砂煙の中、女は全く怯んでいなかった。
「前にしか結界が張れないとでも思ったの……? これだから学生くんは……。私は、魔法に長けた魔族なのよ?」
万事休す……全員がそう思った、その時だった。
“水放銃魔法 水針”
岩魔法の砂煙が残る中、ヒュン! と、鋭い水魔法が放たれ、魔族の女の結界を破壊した。
魔法を放ったのは、鉄格子の中の王子、リオン・キルロンドだった。
「魔力に長けた…… “王族の魔力” なら、どうだ……!」
リオンの手には、銃が持たれていた。
「リオン様……ガンナーだったのか……! しかも、王族の圧倒的な魔力で結界を破った……!」
貴族の魔力は平民たちよりも強いとされる。
王族の魔力は……更にその上、人類最高を誇る。
「結界の破壊、おめでとう〜!」
しかし、魔族の女は、結界を破られても尚、余裕の笑みを溢していた。
「じゃあ、そろそろ始末と行こうかしら……」
「させるかよ……! リオンも後方支援してくれ! 三人で同時に攻めれば必ず隙は生まれる……!」
「あ、ああ……!」
ボン!!
再び、三人は魔族の女に向けて突撃する。
“闇魔法 彼岸”
「ガッ……!!」
突如、突撃したヒノトは、重力の魔法に押し潰され、地面に思いきり叩きつけられる。
「コイツ……こんな魔法まで……!」
しかし、魔族の女も目を見開いていた。
「ハァ……ハァ……」
「まさか……なんで……!」
魔法の発動主は……リリムだった。
「アハハハハハ! やっぱ人間に呆れてたのね! 可哀想にリリム様……。自らの手で始末したいのですか?」
「私は……最後に慈悲を与える。連れて行きなさい。この者たちはまだ子供……今は捨て置いてあげる」
「なんとお優しい……。畏まりました。それでは、リリム様……いえ、偉大なる我らが魔王様のご帰還を祝して、この者たちの命までは取らないでおきましょう……」
「させるかよ……!」
ヒノトは、地面に這い蹲りながらも声を荒げる。
「でも……一度邪魔だから、眠っててね……?」
“闇魔法 眠艶”
次の瞬間、ニヤリと笑う女の顔を最後に、ヒノト、リゲル、グラムの三人は気絶させられていた。
――
どれくらい時間が経過したのか分からない中で、三人は場内の医療班のベッドで目を覚ました。
「リリム……!!」
ヒノトは勢い良く起き上がる。
「ぐっ……!」
しかし、地面に叩き付けられた時に痛めた助骨が、ヒノトにヒリヒリした痛みで襲った。
「リリムどころか……リオン様も連れて行かれた……」
先に目を覚ましていたリゲルは、既にやつれた顔でヒノトに言葉を返した。
「お前が起きる前に、兵士たちに何が起きたのか沢山聞かれたよ。リリムは……討伐対象になるだろう……」
「俺は……」
「まだ助けるなんて言うのかよ!! あんなことをされたんだぞ!!」
そう声を荒げながらも、リゲルの脳は喪失感に苛まれていた。
「ああ、助けに行く。まだちゃんと、話してない」
そして、またしても、ヒノトは笑った。