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翌日、魔王の座に戻ると豪語したリリム、及び連れ去った魔族の残党を討伐すべく、王都には国王自らが前衛を務める、『現国内最強パーティ』が集められた。
「あっ、父さん!!」
そこには、ヒノトの父、ラス・グレイマンもパーティの一員として招集を受けていた。
「ヒノト。今回の話は聞いている。魔族相手に健闘したようだな」
「と、父さん……聞いてくれ……! リリムは悪い奴じゃない……と思うんだ……」
ラスは苦い顔でヒノトを睨んだ。
「絶対の根拠が無いのなら、子供が口を挟むな」
そして、急ぎ足でラスは行ってしまった。
「もう少し、子供の話を聞いてやってもいいんじゃないのか? ラスよ……」
キルロンド王国、国王、ラグナ・キルロンドも、二人のやり取りに言葉を足した。
「ラグナ、国王であるお前がしっかり決断しないでどうするんだ。確かに、リリム・サトゥヌシアは、三王国の全国王から認められ、特殊魔法で悪意がないことも証明され、人権を有した女の子なのかも知れない。しかし、それが魔王の残した『悪意すら忘却させる魔法』に掛かっていたとして、それが破られたとしたら……。勇者の無き今、魔族も減っているとは言え、大勢の人間が犠牲となる」
そこに、兵士の一人が二人の前に駆け寄る。
「国王様、失礼します! ただいま、残りのお二人も到着されました……!」
「ハッハッハ、そうか。ラスとはちょくちょく密会させてもらっていたが、二人と会うのは何年振りかな」
「魔族戦争以来だな。鈍っていないといいが」
そして、一人の女と初老の男が現れた。
「もうワシは引退したと思っていたのじゃがな。いつまで年寄りをコキ使わせるつもりじゃ、ラグナ」
「ふふ、国政から離れて冒険者やってたのに、いきなり国王を任されて不安なのよ、ラグナも」
現国内最強パーティ、後衛、シールダー。
全冒険者の中で最長年齢のシルヴァ・ディスティア。
そして、中衛、クレリック。
神の信徒とされる聖職者、その妖艶な美貌から、聖職者に相応しくないとの声も上がるが、実力で全ての声を平伏させるミネルヴァ・アトランジェ。
「す、すげぇ……まさか現国内最強パーティがお目に掛かれるなんて……!」
兵士たちも、四人の姿に騒然としていた。
「なあ、ヒノト。シルヴァさんはシールダー、ミネルヴァさんはクレリック……お前の父さんだけ無名……と言ってはなんだが、名をあまり知られていない……。職業はどこに当たるんだ? 中衛か?」
リゲルの問いにヒノトは顔をしかめる。
「うーん、それが知らねぇんだよなぁ。魔物と戦う時は魔法と拳でぶん殴ってたから前衛職だと思ってたんだけど、後から前衛はラグナおじちゃんって聞いたし……魔法の威力も凄かったから、中衛なのかな……? まあ、家でもあんま自分のことは話さない人だからな」
そう言うと、ヒノトは起きたばかりでまだフラフラとしているグラムを手招きする。
「俺たちはコッソリ着いて行く。やっぱ、リリムをこのまま討伐なんてさせたくねぇ」
「それは俺も賛成だ。着いて行こう」
「お前たち……正気か……!? 兵士たちでも敵わないかも知れないと、こうして現国内最強パーティにまで召集が掛かったんだぞ……!? 意味分かってるのか……!!」
「ああ、ちゃんと分かってる。死ぬかも知れない」
ヒノトの真っ直ぐな瞳に、リゲルは汗を垂らした。
「すまん……俺はもう……付き合えない……。事実、地下牢でも俺は、魔族を前に身動きすら取れなかった。着いて行っても、足手纏いがオチだ……」
「そうか、なら……」
ヒノトは背を向けながらリゲルに告げる。
「先に行く」
そうして、ヒノトとグラムは行ってしまった。
「俺は…………」
ヒノトの背を、ただ見送るだけのリゲルの背後から、大きな馬の足跡がバタバタと鳴り響く。
「貴様、学寮の生徒か。王城内で何をしている」
そこに現れたのは、王子、レオ・キルロンドが率いる、恐らく彼のパーティだろう四名の生徒だった。
「レオ……様……!? どうして……?」
「愚問だな。やっと私にもパーティが揃ったのだ。魔族数体……ふふ、いい特訓相手だとは思わないか?」
「怖く……ないのですか……?」
俯くリゲルに、レオは馬から飛び降りる。
「貴様、私の後ろに乗れ」
「え……、えぇ!? ど、どうして……? 僕は、パーティの一人でもありません……」
「貴様のその態度、とても不愉快だからだ。魔族の下で死ぬも良し……強くなりたいのなら、足掻くも良し……だ」
そう言うと、レオは再び馬に飛び乗る。
「早く決断しろ。モタモタしていたら、現国内最強パーティが直ぐにでも片付けてしまう」
リゲルは、現国内最強パーティが居るならと、そのままレオの後ろに飛び乗った。
――
魔族たちの魔力が感知されたとされる目的地の直前、現国内最強パーティの四人は少し立ち止まっていた。
「ミネルヴァ、正確な魔族の数と位置を」
「分かってるわよ。うーん、魔族が四体……いえ、リリムちゃんを入れなければ三体かしら。全員バラバラに位置してるから、私たちから攻められることを警戒してるかも……」
「 “四体” だ。少し荒い戦闘になるだろう。ここで少しだけ……五分でいい。決戦前の休憩としよう」
その言葉に、シルヴァは、待ってましたと言わんばかりに早々に岩石に腰を下ろした。
「あら? ラス、どこか行くの?」
「……教育だ」
そして、ボン!! と、大きな音を立てると、少し離れた場所を歩くヒノトたちの元へ現れた。
「父さん……!」
「子供のチャチな隠密が通用すると思うな。闘志や殺気が隠しきれていない。そういうものには、魔族も敏感だ」
「ここまで放っておいて、今更止めに来たのかよ……」
「正直に言おう。今回の魔族討伐任務は、ある意味、魔族への脅しの意味が強い。魔族三体など、我々に掛かれば一瞬で終わる。お前がいてもいなくても何も変わらない。だが、もし着いて来ると言うのなら、俺はお前を、魔族一体くらいには勝たせたいと思っている」
「それって……!」
その瞬間、ラスは大きな斧をその手に宿した。
「俺に魔法を使わせてみろ。それすら出来ないのなら、今お前たちは魔族と戦う力はない。諦めろ」
ヒノトは、明るく希望に満ちた顔から一転、グラムの横まで下がり、強い警戒を示す。
「ヒノト……どうしてそんな怯えているんだ……? 『魔法を使わせれば認める』なんて
、かなり譲歩して貰ったんじゃないか……?」
「俺もそう思いたい……。だけど、こんな優しい父さんは過去に有り得なかった……嫌な予感がする……」
「しかし……」
「ああ、やらなくても見逃してもらえない。だから……今度こそ “連携” を駆使してやるしかない……!」
ボン!!
そう言うと、ヒノトは一気に眼前に迫る。
キィン!!
「くっ……!!」
しかし、ヒノトの高速の一撃は、簡単に防がれる。
「誰が戦い方を教えたと思っている……!」
ゴォ……!!
その瞬間、斧がヒノトに向けられた隙に、グラムは岩魔法をラスへと放つ。
ゴォン!!
それを、ラスは左手のみで玉砕。
「ガキの浅知恵だ。こんな単純な連携など……」
フッ……!
「三段構えだ……!!」
ヒノトは岩魔法を玉砕されることを読み、更にもう一撃を、ラスへと近場からの高速剣撃により、斧すら間に合わない位置から剣を振るい上げる。
ガキィン!!
「は……?」
しかし、ラスの左手には少し大きな剣が構えられ、ヒノトの剣撃は簡単に防がれてしまった。
「誰が、武器は一つだと言った?」
「二つの武器……父さんの職業は、前衛、ウォーリアーだったのか……!」
「流石は現国内最強パーティ……強気なダブルアタッカー編成と言うわけか……」
前衛、職業ウォーリアー。
複数の武器を扱い、敵を牽制する者。