私にとって恋とは世界で最も醜くて中途半端で恐ろしくて中毒性があって人を愚かにする、
絶対に落ちたくないもの
大っ嫌いで思い出す度震えるこの感覚
嫌なはずなのに
嫌いなはずなのに
何故か今私は
心が晴れたような感覚に襲われている。
もう嫌だ死にたい。中学1年生の秋。私はずっとこんなことを考えていた。学校に行けば友達関係に学級崩壊、先輩との上下関係、先生との関わり、勉強に悩まされ。家に帰れば暴言暴力の嵐。家出をすれば警察に連れて行かれ何も聞かずに家へ強制送還されいつもの2.3倍は酷い暴力。
私に居場所なんてない。どこへ行っても無駄。
そんな毎日に希望も期待も消え挙句の果てに味覚嗅覚触覚も消えた。
私はもう残りの人生落ちていくだけだ。未成年の13歳にして味わった社会の厳しさ卑屈さ自分の未熟さ。大好きだった家の匂いもお母さんがよく作ってくれたシチューの味もずっと触っていたいと思った親友の川の流れみたいにサラサラで真っ直ぐな髪の柔らかさも分からなくなってしまった。
そんな時1人の男の子が心底心配そうに声をかけてきてくれた。ただ一言。「どうかした?」と。校内で何回か見たことがあるだけの男の子。先輩からも人気があるらしい彼は間近で見ると綺麗な顔立ちをしていて甘い匂いがしたのを今でも覚えてる。
学校では隠してるつもりだった。
なのに何故か君には分かってしまったみたいだ。
彼に話しかけられた場所が誰も来ない教室だったのもあるかもしれないが彼に話しかけられた途端よく分からないけど感情が込み上げて来て雪崩みたいに自分の中で積み上げてきたものがボロボロこぼれていくのが嫌味な程に伝わってきた。
話しかけた子が急に泣いたからだろう。彼も、とっても焦って私を抱きしめた。私は何年かぶりに感じた人の温もりがこんなにも暖かかったことに気がついて安心して泣きじゃくってしまった。私が泣いてる間彼は大丈夫だよ。って優しく声をかけてくれた。
私が泣くのに疲れて落ち着いたら彼はもう大丈夫?って聞いて私が頷いたらそっか、なら一安心だね。とものすごく綺麗な顔立ちでものすごく綺麗な笑顔を見せた。
ああ、そうだ今分かった。その顔が似てるんだ関口くんと。
その後男の子は何も聞かずにその場を離れた。それが無性に嬉しくてあの笑顔が忘れられなくてその次の日から彼を目で追うようになっていた。
名前も部活も何も知らない人気者の男の子。
いつだったか、ふとあの教室に行ったらまたあの子に会えるんじゃないかって思った。そしたら居たのだ。期待なんてしてなかった(何年も期待なんてしてなかったから期待の仕方を忘れたって言った方があってるのかもしれない)からびっくりした。そしたら彼は優しく笑って、また辛いことでもあった?って聞いてくれた。
それで私は
「ううん、今は大丈夫」と何とか答えた。
「そっかならよかったよ。あの時は俺もびっくりした」ふふふって笑った彼を見たら恥ずかしさが込み上げて来て
「あの時はほんと、迷惑かけてごめん」
とそっぽを向いて答えた。そこで私はずっと聞きたかったことを勇気を出して聞いてみた。
「ねぇ、君…名前なんていうの?」
ちょっと声が掠れた。恥ずかしかったけど何も言えずにいたら彼は
「あぁそういえば言ってなかったっけ、坂櫻遥斗(さかざくらはると)です!!」と元気いっぱいに答えた。
「君は?」
「え?あ、えと、清水春菜(しみずはるな)…です」
「え!君も春!?うわーなんか運命的!いいよね春って俺好きなんだ〜」
思いがけない返事にびっくりしつつ共感したところがあって少し声のトーンをあげて返した。
「分かる!花いっぱい咲くから好きなんだよね」
「うんうん!花綺麗だもんね!あっそうだ!春菜ちゃんにいいものあげるよ」
何を思いついたのか彼は私に着いてきてと手招きして1歩半くらい先に進んだ。
私は春菜ちゃんと呼ばれたことに混乱してはいたけど何とか正気を保って彼の後ろについて歩いた。
しばらく歩いて彼が止まったところは裏庭だった。
その後彼は少しだけ駆けてからしゃがんだ。私もなんだろうと思ってその隣まで歩いていって彼の隣にしゃがんだ。彼の目線の先にはコスモスとサクラソウがあった。コスモスは秋の花だからあるのは分かるけれどサクラソウは春の花。別名「春を呼ぶ花」とまで言われているくらいに秋とは遠い花だ。なんでここにサクラソウがあるのか不思議に思いながら。彼が話し始めるのを待った。
「サクラソウがあるの不思議?」
心の中を読まれたような質問をされて驚いた。
「うん。だってサクラソウは春の花でしょ?」
「そうだよ。でもなんか大切に育ててたらまだ咲いてるんだよね。」
「え?君が育ててるの?」
「うん、すごいでしょ」
「めっちゃすごい」
「てゆーか君呼びやめて欲しいんだけど」
「あ、ごめんじゃあ遥斗くんにする。」
「はーい」
「俺さ、花めっちゃ好きなのね?男なのに変って思うかもだけど…」
それを聞いた瞬間私は咄嗟にとゆうか無意識に言葉を発していた。
「全然!?すーっごいいいと思う!!」
遥斗くんはびっくりしたように少しだけ目を開いて私の好きな笑顔で笑った。
「そう?ありがと」
「じゃああれだね、私たち春大好き同盟だね」
私がそういった時ぷはっと言って遥斗くんが笑った。
「何それ笑同盟ってあははは」
「はーーツボった」
ひとしきり笑ったあと遥斗くんは八重歯を見せてニカッと笑って
「そうだね」と言った。そんなに面白いのか分からなかったけど遥斗くんが楽しそうだったから何も言わないことにした。
「遥斗くん、よくここ来るの?」
「結構来るよ。暇な時はだいたいここにいる。」
「そっか〜」
一通り喋った後遥斗くんが言った。
「暇だったり辛かったりしたらまたおいでよ、いつでも話し相手になるからさ」
その時自分の胸がドクンと鳴った気がした。
「うん、分かったありがとう。」
私は嬉しくなってまたここに来ようと思った。
その時私は自分の恋心に気がついた。