テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
「おから始まる八文字の男子……ほから始まる七文字の女子……」
月曜日の昼休み。カレカノの演技でクラス中を完全に黙らせ、誰も近づかなくなった一番後ろの特等席で、二人は並んでノートの端にペンを走らせていた。周囲のクラスメイトたちは、遠巻きにこちらを覗きながら
「うわ、あいつら本当に付き合ったんだな!」
「放課後の告白、ガチだったんだ!」
と、ニヤニヤしながら本気で二人を茶化し、大いに盛り上がっている。今朝の二人の完璧すぎるバカップル演技のせいで、噂は完全に決定的なものとして信じ込まれていた。そんな中、星蘭と蹴翔は、お互いの顔を見られないまま、ノートの上だけで必死に『反省会』を繰り広げていた。
『さっきの蹴翔のセリフ、クオリティ高すぎて心臓止まるかと思った。やりすぎ!』
『お前こそあの涙目は反則だろ。クラスの奴ら、ガチで盛り上がってんぞ』
文字だけで激しく殴り合う。だが、二人が本当に気になっていたのは、あの日、放課後の教室で乱入したクラスメイトの男子(田中)が、廊下へ走り去る直前に叫んでいた言葉だった。
((『大橋と穂志羅がガチで付き合うとか、誰にも言わないから!』って、あいつ確かに言ってたよね……?))
二人はノートの手を止め、チラリと田中の方を見た。田中は教室の真ん中で、数人の男子に囲まれて何やら興奮気味にスマホの画面を見せ合っている。
「マジかよ! じゃあ、あっちの2人も本当に付き合ったんだな!?」
「ああ、間違いない。学年LINEでも今めちゃくちゃ大騒ぎになってるし!」
田中の声が、ガヤガヤとした教室の喧騒に紛れて微かに聞こえてくる。星蘭は
(ほら、やっぱり言い触らしてる。私たちのバカップル演技、しっかりクラス中に届いてて本気で茶化されてたんだわ)
とジト目で蹴翔を見た。しかし、田中の囲みの中心から、二人の心臓を裏側から鷲掴みにするような『別の名前』が飛び出してきたのは、その直後のことだった。
「いやー、まさか隣のクラスの小野木健太郎(お・の・ぎ・け・ん・た・ろ・う=8文字)と、うちのクラスの堀内千尋(ほ・り・う・ち・ち・ひ・ろ=7文字)が付き合うなんてなー!」
「「……え?」」
星蘭と蹴翔の声が、完璧にハモった。あまりの衝撃に、二人は「プロの演技派」のスイッチを入れることすら忘れ、バッと立ち上がって田中を凝視した。
「え? 小野木、健太郎……?」
蹴翔が頭の中で小野木健太郎のフルネームを引っ張り出し、猛スピードで文字数を数え始める。お・の・ぎ・け・ん・た・ろ・う……。全部で、八文字。名字の最初の一文字は「お」。
「堀内……千尋……?」
星羅もまた、息を呑んで文字数を数えていた。ほ・り・う・ち・ち・ひ・ろ……。全部で、七文字。名字の最初の一文字は「ほ」。二人の脳内コンピュータが、完全にフリーズした。クラスが今日、朝からお祭り騒ぎで大盛り上がりしていた理由。それは、放課後の教室で田中が目撃した「大橋蹴翔(8文字)」と「穂志羅星蘭(7文字)」のガチ告白の噂と、土日の間に一気に広まった「小野木健太郎(8文字)」と「堀内千尋(7文字)」が付き合ったという噂、その【2組のカップル誕生】が同時に発生し、学年中で本気で茶化されていたからだった。「おから始まる八文字の男子」と、「ほから始まる七文字の女子」。あの日、二人がお互いに「演技の盾」に隠しながら伝えた本音の条件が、全く関係のない別のもう一組のカップルとも、恐ろしいほど完璧に一致していたのだ。星蘭は、カッと顔が熱くなるのを感じながら、隣の蹴翔を恐る恐る振り返った。
(……待って。じゃあ、蹴翔があの日言ってた『ほから始まる七文字の、ガチで好きな女子』って……私のことじゃなくて、堀内千尋ちゃんのことだったの……!?)
蹴翔の顔も、夕日なんて目じゃないくらい、限界まで真っ赤に染まっている。右手は、ちぎれそうなくらい激しく右の耳たぶを触り続けていた。
(……おい。星蘭があの日泣きながら言った『おから始まる八文字の、本当に好きな人』って……俺じゃなくて、小野木健太郎のことなのか……!?)
二人は今朝の行動を激しく後悔した。条件が完全に一致したせいで、お互いに
「あいつが言ってたのって、もしかして別人のことだったの!?」
という強烈な疑惑と、胸が引きちぎれそうなほどの嫉妬が頭をよぎり、そのモヤモヤを隠すために、
「噂になったなら、演技をすればいい!」
と意気揚々と教室に乗り込み、クラス中が本気で茶化してくる中で、ヤケクソ気味に完璧すぎる『カレカノの演技』を披露してしまったのだ。
「……大嘘。私、大嘘つきだわ」
星蘭は両手で顔を覆い、今度は演技ではなく、ガチの嫉妬と恥ずかしさで机に突っ伏した。
「……俺のトレンディ俳優の歴史が、完全に黒歴史に塗り替えられたわ……」
蹴翔も頭を抱えて机にガクッと崩れ落ちる。クラス中から本気で茶化されている、2組の新しいカップル。お互いの本音のワードが別人と奇跡的に被ってしまったせいで、これ以上ないほど不器用で、これ以上ないほど甘酸っぱい「嫉妬と自爆の大爆発」を引き起こしてしまった。完全に墓穴を掘った二人の嘘つきコンビの、本当の、本物のカレカノへの道のりは、お互いへの強烈な勘違い(疑惑)を抱えたまま、いよいよ本格的に幕を開けようとしていた。
コメント
1件
うわああああこの第8話もうダメだ〜〜〜!!!😭💕💕💕 「おから始まる八文字の男子」「ほから始まる七文字の女子」の条件、まさかの別人と被ってるの!?!?しかも小野木健太郎と堀内千尋って別のリアルカップルまで存在してたんかーい!!!🤣🔥 星蘭も蹴翔も完璧なバカップル演技かました後にこれだから、嫉妬と自爆が重なって胸がギュってなるよ…!二人ともトレンディ俳優の歴史が黒歴史になってるの笑うけど、じわじわくる甘酸っぱさがエモすぎる😭🎀 次回が待ちきれない…!!!バカップルから本当のカップルになる日は来るの!?!?!?✨