テラーノベル
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誰かの嘆きが、薄暗いフロアの片隅で途切れる。蝋燭の灯りの下、疲れ切った肩と肩とが寄り添うように座っている。
だが、静寂はすぐに破られた。
「……なぜ外に出たんだよ……!」
大きな声が響いた。
若い男――加藤が立ち上がり、獰猛なほどの怒りと泣き顔を晒す。
「外に出なければ、みんな死なずに済んだんだ。大翔くんも、あの人たちも……!」
その声に、空気がピリつく。
風間大翔の母親は、その場にうずくまったまま、小さく首を振る。
「違う……違う……私は、ただ、あの子を……」
言葉は涙にとけて、口元で消える。
「外なんかに出なきゃ、良かったんだ!」
加藤がさらに声を荒げると、宥めようとした松坂が間に割って入る。
「もうやめて! 誰もみんな、死なせたくてやったんじゃない!」
だが加藤は松坂を突き飛ばし、涙をこぼしながら叫んだ。
「結局、正義感ぶって選択を間違えたんだろ……ほんとなら、全員生きてたかもしれないのに!」
その場にいた全員が息を呑む。
珠莉はぎゅっと掌を握りしめ、羽流は唇を噛む。
傷付いた人と、責める人。自分を責める母親。誰もが震えていた。
「もしあの時、誰も外に出てなかったら……俺のお兄ちゃんも、生きてた……!」
床に座り込む中年の女が嗚咽をこらえ、すすり泣く。
宙に傷跡のような沈黙が漂う。
誰も、もう何も言えない。
村田が目を閉じて低く呟いた。
「後悔だけして、前には進めない。……けど、その気持ちは、わかるよ」
誰のせいでもなく、誰のせいにもしたい夜だった。
蝋燭は静かに揺れ、長い夜はただ沈んでいった。
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