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朝焼けは薄く窓を染め、静けさが重く積もる。大人も子供も、起きがけはもう夢も見ない。
乾いた喉に、わずかに残った水を口移しする音だけが聞こえた。
珠莉は空になったペットボトルを強く握りしめている。
母親が優しく髪を撫でたが、その手も、心なしか震えていた。
「今日の朝ごはんは、これだけだよ」
看護師の松坂が、半分に分けたクラッカーを人数分に配る。
一口分にも満たない量に、避難者たちは無言で顔を伏せた。
「……もう、水もあとポット一杯分しかない」
警備員の古賀がぼそっと呟く。
「何か考えないと、今夜には全員干からびる」
風間大翔の母は、虚ろな目で遠くを見ている。
恵子さん(老婆)は「大丈夫よ、私はそんなに食わなくても」と微笑んでみせたが、
その頬はげっそりと痩けていた。
不安、焦燥、言い争い
グループの中心では、また言い争いが始まっていた。
「こんなに我慢して、外に出る準備してたのに、何でまだ動かないんだ!」 「行っても、ゾンビがいる! 子供や老人はどうするんだよ!」
声がぶつかり合う。その合間にも、誰かがため息をつき、誰かが涙をこらえる。
食糧袋をじっと見つめる珠莉の “おなかの音” だけが、妙にはっきりと鳴り響いた。
決断
リーダーの村田が、疲れ切った声で決意を告げる。
「今日じゅうに動くぞ。このままじゃ、餓死が先だ。 ……最悪、誰かが犠牲になっても、外に出て物資を探そう」
その言葉に、部屋の空気が一気に冷たくなる。
「生きるためだ。もう、迷う時間はない」
一人ひとりが小さな準備を始める。 わずかな水を分け合い、最後のパンを分ける。 子供たちは、ただ静かに不安そうに、大人たちの動きを見ていた。
窓の外では、変わらずゾンビたちの影が揺れている――
だが、誰もがもう、動き出すしかないと知っていた。