ごきげんよう、シャーリィ=アーキハクトです。予定どおり荷物の入ったバックを背負って私達はダンジョン調査を開始します。
「お嬢様、ご無事で」
「マクベスさん、万が一の時はちゃんと入り口を爆破してくださいね」
「その様なことにならぬよう祈っております」
万が一手に負えない場合は私達に構わず入り口を爆破して封鎖することをマクベスさんに指示しています。その時は私達も生きてはいない筈なので。
「慎重に行くぞ、勇み足は無しだ。日にちをかけて少しずつ奥を目指していく。勝手な行動も無しだ。わかったな?」
「分かっています、ベル」
「ベルさんの指示に従うさ」
「……頑張る」
ベルから最後の注意を受けて、私、アスカ、ベル、ルイの四人でダンジョン内部へと潜り込みました。
「明るい…?」
ダンジョン内部は床も壁も天井も石造りなのですが、日の光が届かないのに僅かな灯りが存在します。
「大抵のダンジョンにはヒカリゴケが群生しててな、それに壁なんかに使われてる石も発光するらしい。だからそこまで暗くはないのさ」
「何か理由があるのか?」
「さぁな、古代人の知恵じゃないか?それでも昼間みたいにとはいかねぇからな、松明やランプは必須だ」
ベルの言う通り私達は携行タイプのランプを腰に取り付けて灯りとしています。何だか冒険しているみたいでワクワクしますね。
「取り敢えず奥に進むぞ」
「内部構造を把握したいところですね」
移動しながらも定期的に壁に札を張り付けていきます。目印の代わりです。迷子になったら大変ですからね。
「どんな感じなんだ?」
「場所に因るとしか言えねぇな。まるで迷路みたいに複雑な場所もあったし、奥までひたすらまっすぐの一本道だった場所もあった」
「ダンジョンによって内部構造が異なる、ですか。それだと他のダンジョンは参考になりませんね」
「ああ、中に居る魔物の種類も違うからな。ただ一つ言えるのは、何処もバカみたいな数の魔物が住み着いてるってことだ」
「種類まで分からねぇか」
「ああ。今はまだ真っ直ぐだが……振り回せるほどの広さはないな。ルイ」
「分かってるよ、長さ半分にした」
ルイ愛用の槍は柄の長さを自由に変えられて、今は短く手槍と呼ぶに相応しい長さしかありません。
「ベルは大丈夫なのですか?」
「ナイフを持参してるし、もしもの時は大剣を盾の代わりにするさ」
それは豪快……おや?
「……シャーリィ、広い」
アスカも気づきましたか。ある程度歩くといきなり視界が広がりました。これは、大部屋に出たのかな?
「広いなぁ、天井も高くなってるぞ?」
「ダンジョン内部は何でもありですね」
「深く考えても答えは出ないさ」
「では、先ずはこの広間を調査しましょうか」
広い空間の隅にはガラクタのようなものがたくさん放置されていました。古代の遺物でしょうか?
「迂闊に歩き回るなよ、大抵罠が仕掛けられてる筈だ」
「罠とかもあるのかよ」
「……シャーリィ」
「どうしました?アスカ」
「……不思議な匂いがする。教会のお墓みたいな」
「お墓みたいな匂い……?」
確かに教会近くには共同墓地がありますが…。
「アスカ、それは確かなのか?」
「……ん」
ベルの質問にアスカは頷いて答えます。
「面倒だな」
「なんだよベルさん、話が見えないぜ?」
「墓みたいな匂い、それは埋葬なんかに使う香料の匂いじゃねぇかと思ってな」
「ああ、あの匂いか」
「待ってください。ではここは。それに、あれは…」
嫌な予感がしますね。それに、部屋の隅に置かれているガラクタは、良く見れば棺桶のようにも見えます。
「参ったな、このダンジョンは多分墓地なんだろう」
「マジかよ、気味が悪いな」
「悪いことばかりじゃねぇさ。墓地なら埋蔵品に期待出来るからな。儲けもある」
確かに、古代では死者の埋葬に貴金属や高価な装飾品を使っていたのだとか。
「死んだ奴の持ち物を漁れってか?」
「なんだルイ、嫌なのか?」
「んなわけあるか」
そう、死体漁りなんて暗黒街じゃ日常茶飯事ですからね。私だって調べるために死体を漁ったことは何度もあります。盗掘に抵抗なんかありません。
「なら良いが、ここが墓地なら今日はここで引き上げるぞ」
「もうですか?まだ一時間くらいしか経っていませんよ?」
文字通り始まったばかりです。
「いや、引き上げた方がいい。こう言うダンジョンに住み着いてる魔物は厄介でな。簡単に言えば……」
「……シャーリィ!」
アスカが声をあげた瞬間、近くの壁沿いに並べられた棺桶がガタガタと揺れ始めました。
「おいおい!なんだよ!?」
「生きてる奴の匂いを嗅ぎ付けやがったな!広間の入り口に移動するぞ!そしてそのままダンジョンから出る!」
ベルが大剣を抜きながら指示を出します。ルイも槍を構えて私も剣を抜きアスカもナイフを抜きます。
ガタァンッっと大きな音がして棺桶の一つの蓋がずり落ちます。そしてそこから何かが這い出して……えっ!?なんですかあれは!?
「なんだよあれは!?」
「グールって奴だよ!アンデットの一種だ!」
それは身体のあちこちが腐敗して崩れつつある死体でした。それがゆっくりと棺桶から出てきます。凄い臭いですっ!
ガタガタガタと他の棺桶も動き始めました!これ全部がグール!?
「オーケー、状況はちゃんと理解できたな?」
「ええ、今日は晩御飯食べられないかもしれません」
「意外と平気そうだな?お嬢」
私達はそれぞれ得物を構えながらゆっくりと後退していきます。最初に這い出してきたグールが腐った肉体を引きずりながらゆっくりと近付いてきます。
「……臭いっ」
「アスカには辛いだろうな!俺だって臭くて吐きそうなのによ!」
私は吐き気なんてありませんね。地下室でオモチャ相手に遊んでいるから感性がネジ曲がったのかもしれませんね。後悔はありませんが。
「なあベルさん、引き上げてどうするんだ?」
「また出直すさ。このダンジョンの魔物がアンデッドだと分かっただけでも収穫としては十分だ。銀の武器や聖水を用意すればそこまで難しい相手じゃない。逆に言えば銀の武器や聖水が無きゃアンデッドを倒せないからな」
「ではベルの判断を尊重します。アスカも苦しそうなので……逃げますよ!」
「おうよ!」
「走れ走れ走れぇ!立ち止まるな!」
ア”ア”ア”ア”ア”ア”ア”ア”ッッッ!!!!!!!!!!!!!
私達が走り出した瞬間グール達はおぞましい雄叫びをあげながら走り出しました。幸い足は遅いらしく、ある程度距離を離すと諦めて広間へと戻って行くのが見えました。
「お嬢、始めてのダンジョン。感想は?」
走りながらベルが聞いてきたので。
「とても刺激的です、次が楽しみですね」
シャーリィは満面の笑みを浮かべて答えるのだった。
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!