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ごきげんよう、シャーリィ=アーキハクトです。初回の調査は見事に失敗しました。いや、ダンジョンに巣食う魔物の種類が分かっただけでも充分な成果と言えるのでしょうか。
さて、ダンジョンに巣食う魔物はアンデッド種であることが判明しましたので、早速準備に掛かります。アンデッド種に有効なのは聖水などの神聖なもの。そして銀の武器です。聖水などは教会なので簡単に手に入ります。ならば武器ですね。
そうと決まれば早速ドルマンさんに相談します。専用の作業小屋も完成して、日々銃火器の開発研究に取り組んでいますが、やはりドワーフらしく剣などにも精通しています。
「なるほどな、アンデッド種か。そりゃ大変だったな」
「晩御飯が食べられませんでした。あの見た目は初見だとキツいですね」
アスカは怖くなったのか夜ベッドに潜り込んできましたからね。愛しすぎて自分を自制するのが大変でしたよ。お陰さまで今日は寝不足です。
「だろうな、グロい見た目してる奴等だ。それで、奴等に通じる武器がほしいんだな?」
「銃を使えれば簡単なのですが」
基本的には石造りで狭いダンジョンでは銃は不利になります。爆発物なんて論外ですね。
「銃は生憎だがダンジョン攻略に向かねぇな。嬢ちゃんが欲しいのは銀の武器だろ?」
「その通りです。既に必要な銀は『ターラン商会』から購入していますよ」
「ああ、さっき届いたよ。武器を造るに困らねぇ量は確保できてる。嬢ちゃんは剣だな?」
「はい、それとアスカのために短剣、ルイのために槍の穂先も銀製のものが欲しいです」
「予備も必要になるだろう?」
「もちろん」
「そうだな、今は機関銃の開発を優先したいから……後回しになるぞ。一週間貰えるならちゃんと納得のいくものを作れるが?」
「急いでいるわけではないので、ご安心を。ただ銀の弾丸も生産してくれませんか?万が一ダンジョンから出てきても対応できるようにしたいんです」
「安心しな、それなら昨晩のうちにマクベスの奴が発注してくれたよ。優先して用意するつもりだ」
「マクベスさんが。それなら安心ですね」
情報は共有していましたから、直ぐに動いてくれたみたいですね。
「じゃ、しばらく忙しくなるから他の用事を持ってくるんじゃないぞ?」
「はい、よろしくお願いします」
武器については目処が付きました。次の調査は一週間後であると周知させて、別の案件に取りかかるため私は農園の薬草園にやってきました。
「これはお嬢様、ご視察ですかな?」
ロウが出迎えてくれました。
「そんな感じです。ものは準備できていますか?」
「もちろんでございます。既に用意してあとは馬車に積み込むだけでございます」
エルダス・ファミリーとの戦いで延期にはなっていましたが、明日はアルカディア帝国と二回目の密貿易を行うため船を出す予定です。
積み荷は彼方が大量に必要だと話していた薬草。ロウ達の頑張りで前回の数倍の量を用意することが出来ました。もちろん、労いと追加のボーナスは気前良く振る舞いましたよ。
「それはなにより、ロウ達の頑張りのお陰です」
「勿体無いお言葉」
しかし、本来自生しかせず栽培など不可能と呼ばれている薬草を簡単に、そして大量に栽培できる『大樹』の影響力は恐ろしいものがありますね。貴重な薬草が山ほど手に入るのですから。
「引き続き生産を継続してください。人材も更に増やすつもりなので、采配はロウにお任せしますよ」
「ご期待に添えます様、粉骨砕身する次第ですじゃ」
次に私はベルを護衛として港湾エリアに向かいます。そこでは翌日の出向に備えて水夫達が慌ただしく行き交っていました。
「急ぎなよ!明日までに間に合わなかったら、置いていくからね!」
それを陣頭指揮するエレノアさんを見付けたので声をかけることにしました。
「エレノアさん」
「ん、シャーリィちゃんか。どうしたんだい?視察ってやつかい?」
「そんなところです。明日には出港ですね」
「ああ、また三ヶ月くらい開けてしまうからね。シャーリィちゃんを頼むよ?ベルモンド」
「任せとけ。お前も下手を打つなよ、エレノア」
「はっ、言われるまでもないね」
二人は意外と仲が良いんですよね。良いことです。
「シャーリィちゃん、今回は前回と違って持っていく量が半端じゃない。上手くやるつもりだけど、彼方の大きな勢力と取引することになるかもしれない。その時は、まだ先の話だけどシャーリィちゃんにも来て貰うことになるかもね」
「エレノアさんはうちの幹部ですよ?」
「格って奴があるのさ。あっちの大きな組織のボスと直接取引をすることになったら、此方もボスを出さなきゃ話にならないからね」
「そんなものですか?」
「そんなもんさ、お嬢。お嬢も『ターラン商会』、『海狼の牙』、『オータムリゾート』のボスと仲良くしてるだろ?」
「なるほど、ボス同士の交流も組織の利益になりますからね。分かりました。その時は私もご一緒しますよ」
「まあ、まだ先の話さ。何せ取引は今回で二回目だ。あっちの末端構成員からちょっと重役に繋ぎが出来るかどうかって所だね。量もあるし、売り上げには期待しときな」
「馬車に満載されてる量だからな、彼方も怪しむんじゃないか?」
「その辺りは上手くやるよ。偶然群生地を見付けて根こそぎ持ってきたとでも言うさ。育ててるなんて言えるわけがない」
「それに、我が帝国は薬草医療に精通している方が少ないので価値も低いんです。それで信用してくれれば良いのですが」
帝国では薬草を使った医療はほとんど発達していません。何故ならば、効果がある薬草は魔力の満ちた場所でしか育たないのだとか。そんな場所は広大な帝国でも僅かにしか存在しません。
つまり、勝手に自生して勝手に増え続ける『大樹』周辺が異常なだけなんですよね。
「対価としてお金はもちろん、なにか珍しいものがあったら仕入れてきてください。魔石とかも大歓迎です」
「あっちは魔石が腐る程あるみたいだからね。金を出すより魔石で支払おうとするだろうねぇ」
「魔石だけだと困りますけどね。その辺りはエレノアさんの裁量にお任せします。利益が挙がるならなんでも構いませんから」
「おうよ、期待しといておくれ。シャーリィちゃんも私が留守の間無茶しちゃダメだよ。身の回りには気を付けて。また撃たれたなんて聞きたくはないからね?」
「はい」
「もうそんなヘマはしねぇさ。何があってもお嬢は俺が護る。安心しろ」
ベルが自信を持って断言します。心強いですね。
「エレノアさんも気を付けて。最悪の場合は荷を捨ててくださいね。利益よりエレノアさん達の無事が優先ですから」
「ありがとね。ちゃんと帰ってくるよ。お土産をたくさん抱えてね」
そうやって笑みを浮かべるエレノアさんを見て、私も自然と笑みを浮かべるのでした。
うん、良かった。ちゃんと笑顔になってる。地味に成長した部分ですよ。ふふん。
翌日、シャーリィはエレノア達海賊衆を見送った。今度の交易の結果が、後に彼女の運命に深く結び付くとは知るよしもなかった。