『殺す。』
高い天井。金の装飾。豪華な食事。きらきらと輝く宮殿の中に彼は居た。其処では、肌の色も服装も様々な人々が 歌い踊り、今その時を思い思いに楽しんでいる。宮殿の中は騒々しく、誰1人として彼の存在に気が付かない。ただ1人を除いては。まるで蛇のように彼の背後に近づいてゆく影がひとつ。彼は、後ろから近づく者の気配を感じとることができなかった。彼の頭の中は困惑と驚愕でいっぱいであった。彼はどうするべきかもわからず、ただ唖然と目の前の光景を眺めていた。途端、視界が消える。彼が状況を理解する間もなく柱の影に押し倒され、喉元に冷たいモノが当てられた。人々から死角になるその場所で、彼に激しい殺意が向けられる。彼の刹那の思考。ナイフの柄を掴み、彼らは対峙する。殺意は交錯し、彼らは睨み合ったまま、石像のように動かない。其処だけ気温が下がったかのように思われる。まるで煌びやかな空間にそぐわぬ深く冷たい空気の中、彼らはただ静かな殺意を向けあっていた。
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