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第98話 「学ぶ一年」2025年7月。
夏の福岡大会。
柳城高校は初戦を突破した。
部員たちの表情には笑顔があった。
しかし。
福間監督は試合が終わると、すぐにスコアブックを開いた。
「勝った試合ほど反省があります。」
いつもの一言だった。
啓介部長は、その言葉を静かにメモへ書き留める。
「勝ったから終わりではない。」
「勝ったからこそ、次へつなげる。」
それが福間野球だった。
翌日。
グラウンド。
昨日勝ったにもかかわらず、練習は普段と何も変わらない。
守備。
走塁。
送りバント。
一つひとつを丁寧に繰り返す。
一年生が小さなミスをした。
啓介は思わず声を掛けようとした。
その瞬間。
福間監督が首を横に振る。
啓介は言葉を飲み込んだ。
すると。
主将・山下大地が一年生の元へ走る。
「大丈夫。」
「次はできる。」
一年生は大きく頷いた。
その姿を見て。
福間監督が静かに言う。
「啓介。」
「はい。」
「今、私たちが声を掛ける必要はありましたか。」
啓介は少し考えた。
「ありませんでした。」
福間監督は頷く。
「部長も監督も。」
「選手より前へ出てはいけません。」
「主役は選手です。」
その言葉が胸に響く。
数日後。
二回戦。
柳城高校は危なげなく勝利。
三回戦も突破。
勢いはあった。
だが。
準々決勝。
相手は優勝候補・白峰学院高校。
試合は互角。
0対0。
七回。
相手に先制を許す。
八回。
柳城もすぐに追いつく。
1対1。
九回。
二死満塁。
柳城最大のチャンス。
打席は四番。
球場中の視線が集まる。
啓介は思わず拳を握る。
しかし。
打球はセカンド正面。
ゲームセット。
延長十回。
柳城はサヨナラ打を浴びた。
1対2。
準々決勝敗退。
選手たちは泣いた。
山下も涙を流した。
啓介は選手たちへ駆け寄ろうとした。
しかし。
福間監督は静かに歩き出す。
円陣の中央へ立つ。
「顔を上げましょう。」
選手たちが涙をぬぐう。
「負けたことは変わりません。」
「ですが、この夏は終わりではありません。」
「秋があります。」
「この悔しさを忘れないでください。」
短い言葉だった。
それでも。
選手たちの目には少しずつ力が戻っていく。
帰りのバス。
啓介は窓の外を眺めていた。
「もっと何かできたんじゃないか…。」
そうつぶやく。
隣に座る福間監督が静かに答える。
「その気持ちを忘れないでください。」
「それが、指導者として一番大切なことです。」
啓介は深く頷いた。
勝つことの喜び。
負けることの悔しさ。
そして。
選手を支えることの難しさ。
部長として迎えた最初の夏は終わった。
しかし。
啓介が学ぶべきことは、まだ始まったばかりだった。
第98話 終
コメント
1件
天海カオルさん、第98話読みました…! 「勝った試合ほど反省がある」って福間監督の言葉、すごく重いですね。勝っても浮かれず、負けた時は一番に選手たちを立て直す姿勢、本当に尊敬します。 啓介くんが「もっと何かできたんじゃないか」と自分を責める気持ち、すごくわかる。でもその悔しさこそが次の一歩になるんだろうなって思いました。 この夏、ちゃんと彼の胸に刻まれましたね。秋が楽しみです🌙
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#前世
shima7a
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