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#前世
shima7a
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第99話 「秋への一歩」
2025年8月。
夏の敗戦から二週間。
柳城高校野球部は、新チームとして再始動した。
三年生が引退し、グラウンドには新しい空気が流れていた。
新主将に選ばれたのは、二年生の中村翔太。
捕手。
誰よりも声が大きく、仲間からの信頼も厚かった。
福間監督は部員を前に話す。
「今日から新しい柳城です。」
「前のチームと比べる必要はありません。」
「皆さんが新しい歴史をつくるのです。」
部員たちは力強く返事をした。
その日の午後。
福間監督は啓介部長を職員室へ呼んだ。
机の上には、一冊の古いノートが置かれていた。
「これは…?」
啓介が手に取る。
表紙には、
『指導記録』
と書かれていた。
ページをめくる。
二十年以上前の日付。
初めて甲子園へ出場した年。
敗れた試合。
優勝した試合。
一試合ごとに、福間監督が感じたこと、反省、選手への思いがびっしりと書かれていた。
啓介は思わず見入る。
「こんなに…。」
福間監督は静かに言う。
「勝った日ほど、たくさん書いています。」
「負けた日は悔しさを書きます。」
「でも、一番多いのは…。」
少し間を置く。
「選手の成長です。」
啓介はノートを閉じた。
「先生。」
「はい。」
「これを読んでもいいですか。」
福間監督は微笑む。
「そのために渡します。」
「ただし。」
「全部を真似してはいけません。」
啓介は首をかしげる。
「あなたには、あなたの野球があります。」
「私の野球ではありません。」
その言葉は、啓介の胸に深く刻まれた。
数日後。
秋季大会地区予選。
新チーム最初の公式戦。
相手は新宮学院高校。
試合は序盤から柳城が主導権を握る。
4対1。
八回。
相手が追い上げる。
4対3。
なおも一死一・二塁。
啓介はベンチからグラウンドを見つめる。
福間監督は動かない。
主将・中村が内野手を集める。
円陣。
短い会話。
守備位置へ戻る。
次の打者。
セカンドゴロ。
4-6-3。
ダブルプレー。
ゲームセット。
柳城高校。
4対3。
新チーム初勝利。
試合後。
部員たちは笑顔だった。
その様子を見ながら、啓介は福間監督に言う。
「先生。」
「今日、何も言わなくてよかったんですね。」
福間監督は頷く。
「今日、チームを勝たせたのは主将です。」
「それでいいのです。」
夕焼けに染まるグラウンド。
啓介は古い指導記録を胸に抱えながら歩いていた。
そのノートには。
柳城高校の歴史だけではない。
一人の指導者が歩んできた時間が詰まっていた。
そして。
啓介自身の新しい一ページも、静かに始まろうとしていた。
第99話 終
コメント
1件
ああ〜、読み終わったああああ😭💕 第99話、めっちゃ沁みました…!夏の敗戦から新チームが動き出すこの感じ、青春そのものすぎて胸熱すぎる。特に福間監督の古い指導ノートのエピソード、めちゃくちゃグッときました。勝った日に一番書くのが「選手の成長」って、もうそれだけで監督の愛情が伝わってきて泣ける…。「あなたの野球」って言葉も、教えすぎず見守る姿勢がかっこよすぎる。新チーム初勝利、久々に爽やかな読後感だったよ、ゆめかは大満足です🌸✨