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テラーノベルの小説コンテスト 第4回テノコン 2025年1月10日〜3月31日まで
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「……もっと強く、さっちゃんの気持ちの分だけぎゅっとして」

「うん」


痛い、凄く痛いよ……。でも、今はその痛みが嬉しいし心地いい。

それだけ、わたしのことを大切に想ってくれてるってことだから……。


「…………ん」

「おはよう、アリアちゃん」


……んん、さっちゃんの声が聞こえる?

……ああ、そうか、お泊り会したんだった。

さっちゃんの人形抱っこが気持ち良すぎて、いつの間にか眠ったみたい。おはようってことは、朝?


「おはよう、さっちゃ……!?」


さっちゃんはもう起きていた。ベットの横で立っていた。それは問題ない。

でも裸だった。

何で裸!? 服は! 服はどうしたの!?


「ああ、ゴメンね。汗を拭いてたから……。今、服着るね」

「……汗? 寝汗がひどかったとか?」

「違うよ。ちょっとランニングしてきただけだよ」「ほえ?」


時計を見ると4時半だった。

んん? ランニング「してきた」? これから行くんじゃなくて?


「私のランニング習慣だよ。毎日、朝と夜に50km。昨日も朝に会ったよね」

「うん、そうだね……」


そうだ、さっちゃんも毎日走ってたんだった。

あれ? じゃあ今日の朝はわたしには付き合ってくれないのかな?

正直、さっちゃんがいないと5kmも走る自信がない。昨日の朝も1kmで帰ろうと思ったくらいだし。


「安心して、アリアちゃんのノルマにも毎日付き合うから。今日も頑張ろうね」

「うん……。さっちゃんは大丈夫なの? 自分とわたしのノルマ両方やって……」

「5kmくらいだったら問題ないよ。走る距離を伸ばそうと思ってたから丁度いいかな」

「そうなんだ……」


50kmから増えるんだ……。

獣人さんの体力って凄い……いや、さっちゃんがすごいのかな?

4時半で終了ってことは、もっと早くに起きてたってことだよね。さっちゃんの本気ランニングがどの程度のスピードかしらないけど、こんなに朝早くから50kmは相当すごいと思う。


「……わたしも準備するね」

「ゆっくりでいいからね。昨日の疲れもあると思うから」

「うん」


自分も疲れてるはずなのに、わたしの心配をしてくれる。

……頑張ろう。この気持ちに答えるんだ!


「お母さん、おはよー」

「はい、おはよー」


お母さんも早いよね。

……さっちゃんもお母さんも、朝早くからすごいな。

ひょっとして、他のみんなも朝早くから頑張ってるのかな?


「……ねー、お母さん」

「なに」

「他の人達も朝早いの?」

「人それぞれよ。お母さんより早い人もいれば、遅い人もいる。みんなそれぞれぞれの生活があるんだから、違っていて当たり前でしょ」

「そっか……」


人それぞれ、か……。


「少なくても、あんたとさっちゃんの様な子供は普通は寝てる時間ね」

「そっか……」


わたし達って普通じゃないんだ……。

でも、そうだよね。わたしだって一昨日までは普通に寝てた。

昨日の朝のランニング中も、わたし達みたいな子供は1人もみなかった。


「あんたは就職先とか将来の夢が決まってるんだから、普通の子供より頑張りなさいよ。じゃないと、さっちゃんが不幸になるわよ」

「うん」

「わかってるなら早く準備して行きなさい。さっちゃんが待ってるんでしょ?」

「わかったよ、すぐに準備して行くよ」


そうだよね。普通の子供は危険な民兵組織に就職が決まってたりしない。

わたしとさっちゃんが特別なんだ。

普通の努力じゃダメ。今まで努力してこなかったんだから、もっともっと努力しないと……。


「……よし! 準備できた!! 今日も頑張るよ!!!」

「「地道に」頑張ろうね、アリアちゃん」

「うん……」


またテンションを上げ過ぎてしまった。

わたしって、さっちゃんがいなかったら何も出来ないんじゃないかな……。


「は、は、は、は、は……」


さっちゃんの先導で2km程走った。

前と同じく、わたしが走りやすい道を選んでくれてる。なるべく起伏がなくて道の整備された所ばっかりだ。同じ風景を何回か見たからグルグル回ってるのかな?

……同じ風景が続いているので、ちょっと精神的に疲れてきたかも……。

もうすぐUターンだよね……、せっかくここまできたんだし、少し違う風景が見たいな……。


「は、は、は、さっちゃん」

「なに?」

「は、は、は、寄り道、しない?」

「寄り道? あ、休みたいってこと? じゃあ、近くに公園があるから……、そこに行こうか」

「は、は、は、うん」


ちょっと意図が伝わらなかったけど、まあいいや。休めるなら休みたい。わたしに5km休憩なしはかなりキツイ。


「ここを曲がって……あそこだね……」

「は、は、は、え? は、は、は、あそこ?」


さっちゃんが「あそこ」と行った場所は公園に見えなかった。 ちょっと木が多いだけの空き地に見える。遊具が何もなくて申し訳程度にベンチがあるだけだ。

公園と言われれば公園だけど、空き地と言われたらただの空き地だ。


「ここに来るのは久しぶりだな……。ベンチがあるから座って休もう。マッサージしてあげるよ」

「はぁー、はぁー、はぁー、ありがとうー……」


ベンチに座ってマッサージに甘える。

……すごい所だね、ここ。ちょっと離れた場所にこんな所があったなんて知らなかった。

朝の空気と木の香りですごく癒される。深い森の中にいるみたいだ。


「すぅー、はぁーーー、すごくいい場所だねー。空気が清々しくて気持ちいいよ」

「……アリアちゃんが喜んでくれて良かったよ」


……ん? さっちゃんの表情がちょっと暗いような気がするよ?

こんなに気持ちいい場所なのに、気になることでもあるのかな?


「どうしたの? 疲れたならさっちゃんも座ろう」

「ん、大丈夫だよ。マッサージを続けさせて、お願い」

「う、うん……」


さっちゃんがひたすらマッサージしてくれる。

気持ちいいんだけど、なんだかモヤモヤする。

……こんなに木があって広い所なら、獣人さん達は喜ぶと思うけどね。

あ、ここってもしかして、獣人の子供たちが遊ぶ公園? だからわたしは知らなくて、さっちゃんは知ってたんだ。


「ここって、獣人さんの公園なの?」

「……そうだね」

「さっちゃんも、昔はここで遊んでたとか?」

「……うん」


空気が重い! 聞いちゃいけないことだった!?

ちょっとマッサージが痛くなったし……。


「よ、よし! 休憩終わり! 再開だよ!! 早く帰ろう!!」

「うん」


ランニングに戻ってからは何時ものさっちゃんだった。わたしを気にかけてくれて励ましてくれる。

体力の問題もあるけど、わたしがずっと無言だったのでちょっと気まずい。


「これで5km終了だよ。お疲れ様」

「はぁー、はぁー、はぁー、ありがとうー……」


部屋に戻ってまた身体を拭いてもらう。

すごく優しく、丁寧に拭いてくれる。時々マッサージが入るのでさらに気持ちよっかった。


「公園も気持ちよかったけど、こうして拭いてくれる方がすっごく気持ちいいよ。ありがとー」

「うん……」


しまった! 公園は禁句だった! またちょっと暗くなっちゃったよ! 笑顔だけど雰囲気が暗い!


「の、ノルマ続けよう! 頑張るよ!」

「……ありがとう、アリアちゃん。頑張ろうね」

「うん!」


腕立て腹筋スクワット……、さっちゃんがマッサージをしてくれたおかげで問題なくクリアできた。

……問題なのはさっちゃんの気分だよ。

公園の話題を出してからずっと暗い。きっと、公園に嫌な思い出があるんだね。

……はぁーーー、寄り道しようなんて言わなきゃよかった……。

さっちゃんなら、わたしが疲れたと言えば自分にとって嫌な場所でもそこで休ませようとするよね。

……とにかく、元気になってもらおう!


「さっちゃん! お風呂行こう! また気持ちよくしてあげるよ!」

「うん、ありがとう」


ランニングから帰ってきた時、お母さんからお風呂の準備が出来てると聞いたのですぐに入れるはずだ。

快適魔術をいっぱい使って元気になってもらう、わたしに出来るのはそれだけだ。


「さ、座って! 泡まみれにするから!」

「うん」


泡まみれにして魔術発動の為に肩に手を置く。

さっちゃんの泡を震わせるイメージをして……。


「ねえ、アリアちゃん」

「……え? どうしたの?」


魔術のイメージが消えちゃったよ……。


「私とアリアちゃん、同時に出来ない? アリアちゃんも泡まみれにして、お互いにくっついて魔術をつかうの。そうすれば1回で済むと思うけど……出来そう?」

「うーん、出来ると思うよ。昨日も後ろからくっついた時に振動を感じたから……」

「じゃ、こっちきて。泡まみれにしてあげる」

「うん」


さっちゃんに泡まみれにされ、後ろからくっつく。そして魔術のイメージ……うん、いつも通りにいけるね。


「じゃあ、いくよ……」

「いいよ」

「……泡洗浄」


また一瞬ビクッとしたけど、すぐに落ち着いた。


「さっちゃん、今度は大丈夫そう?」

「大丈夫、気持ちいいよ、ありがとう」


……よかった、今度は気持ちよくできたみたい。

昨日は初めての魔術で振動が強く感じたのか、我慢してたみたいだからね。


「あ、止まったね」

「うん……」


……ちょっと残念そう。もう一回やってあげようかな……。


「もう一回やろうか?」

「大丈夫だよ。この後にお湯マッサージもしてくれるんでしょ?」

「うん、任せて! 完璧にリフレッシュしてもらうから!」

「お願いね」


泡を流して二人でお風呂につかる。


「やっぱり、ちょっと狭いね……」

「アリアちゃん、こっちに背を向けて私に寄りかかって。そうすれば、少しは広く感じるんじゃない?」

「いいアイディアだよ!」


さっちゃんに寄りかかると抱きしめてくれる。

あーーー、すごく落ち着くよーーー……。

流石さっちゃん。わたしがどうすれば落ち着くかよく分かってる。でも今は、さっちゃんの気分の回復が最優先だ。

魔術をイメージして……。


「お湯マッサージ」

「ッ!!」

「あ! またビックリさせちゃった!? ゴメンね!」


……しまった。確認もカウントダウンもせずにいきなり使っちゃった。

……い、痛い。

最近は「さっちゃんに抱きしめられる=痛い」の図式が出来上がってる気がする。


「さ、さっちゃん。ちょっと、ちょーーーと、ゆるめて、ほしい、かな……」

「あ! ゴメンね!」


よかった、すぐにゆるめてくれた。この程度ならいつもの「ぎゅ」の範囲だ。最近のさっちゃんは力加減が難しいらしい。

……まあ、大体はわたしのせいな気がするけど。


「……なんか、昨日からこのやり取りばかりだね」

「そうだね……。ここ何日かで、それまでのアリアちゃんを抱きしめてきた時間を超えちゃってるね」

「ゴメンね。それだけ、迷惑や心配をかけてるってことだよね」

「心配はそうだけど、迷惑って思ったことは一度もないよ。それに、私にとってアリアちゃんがどういう存在か、改めて気づかせてくれたから逆に感謝してるよ。取り返しのつかなくなる前に、この気持ちに気づかせてくれてありがとう」

「ん? 取り返しのつかないことって、なに?」


「 私から離れること 」


「……? わたし、絶対にさっちゃんと離れないよ」

「うん、アリアちゃんのことは信じてるよ。でもね、人生って何が起こるか分かないから……。アリアちゃんが私から離れなくても、私達を離そうとする何かがあるかも知れない。私はそれを許さない、アリアちゃんは私が守る」


「ぎゅ」の力が増してちょっと痛い。それに、今の言葉……。

振り返ってさっちゃんの顔を見る。いつものさっちゃんだ。幽霊……じゃないよね? 大丈夫だよね?


「……アリアちゃん、今って魔術の氷だせる?」

「出せるけど……入れ物が」

「湯桶に出していいよ」

「うん。じゃあ、……氷」


浴槽に浮かべた湯桶に氷を出してあげた。

……のぼせたから冷やしたいのかな?

だったらお風呂から出た方がいいよね。もうお湯マッサージも止まってるし。


「さっちゃん、のぼせたんなら出ようか?」

「のぼせてないから大丈夫だよ。氷は気持ちが落ち着くから食べたいの。アリアちゃんの気持ちが、氷を通じて身体にしみわたる感じがして落ち着くんだ。ずっと食べていたいくらい、大好きだよ」

「そうなんだ……」


なんかゾワゾワするよ……。

気恥ずかしいというか、怖いというか……、なんとも言えない感覚だよ。

最近のさっちゃんは力加減も含めて表現方法がちょっと大げさになってる気がする。

……幽霊に乗っ取られた影響とか? 少し経てば落ち着くのかな?


「美味しいよ、アリアちゃんの味がする……」


うぅ~~~、だから、わたしの味ってなんなの!?

永遠のフィリアンシェヌ ~友情と愛情の物語~

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