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ライバル強そう!頑張れ!
席順を決める時、すぐ隣はちょっとあからさま過ぎるか? と気後れして、ひとつ席を空けてセッティングしてしまったことが仇になってしまった。
口の中の椎茸臭を、やっとの思いでビールと共に胃のなかへ流し込みつつ、晴永は心の中で一人ギリギリと歯噛みする。
日下も木嶋同様瑠璃香の同期だ。どうあったって、上司の自分より瑠璃香との距離が近い。
「あー、そういえば唐揚げと交換してくれとかやってたね」
ポンッと手を叩きながら木嶋が言えば、
「そうそう! 色も形も綺麗だったからさぁ、つい食いたくなっちまって」
グイッとビールジョッキを煽りながら日下がニヤリとする。そんな日下に木嶋が詰め寄った。
「で? どうだったの?」
「甘くて……すげぇ美味かった! 毎日でも食いたい卵焼きだったわ。小笹、最高!」
酔っ払っているのか、はたまた酒の力を借りてわざと酔ったふりをしているだけか。瑠璃香の頭をグシャリと掻き混ぜるように撫でる日下の大きな手に、晴永は思わず空になったグラスを倒した。
その音にすぐさま瑠璃香が気付いて手を出そうとしたのだが、間に日下がいて巧みに邪魔をする。
「もぉ、日下くん、邪魔っ。――新沼課長、飲み物とかこぼれてないですか?」
せっかく瑠璃香が気にしてくれたというのに、晴永が答えるより先、まるで瑠璃香との会話を邪魔したいみたいに日下が晴永の方を向いてにこやかに問いかける。
「飲み終えたあとだから大丈夫ですよね?」
(クソッ! 飲む前に倒せばよかった!)
などと心の中で毒づきながらも「ああ、大丈夫だ」と答えた晴永へ、日下が勝ち誇ったようにニヤリと笑った――ように見えた。
(絶対わざとだ!)
その表情に、そう確信した晴永である。
「日下は甘い卵焼きが好きなのね? よぉーし、今度私も甘い卵焼き作ってくるから何か美味しそうなおかずと交換してよ!」
大丈夫と答えたから、それ以上晴永の方へ気を配る必要はないと判断されたんだろう。
木嶋が先ほどの話を引き継ぐみたいに卵焼きの話題へ戻した。
その言葉を聞いた晴永は(もしかして木嶋、日下のことを……?)と思う。
思ったのだが……。
「えー、俺は小笹の卵焼きが食いたいんだってー」
鈍いのかわざとなのか。まるで木嶋からの好意に気付いていなさそうに日下が酷い返しをする。
その一瞬、木嶋が悲しそうな顔をしたのを晴永は見逃さなかった。
心の中で、思わず(頑張れ、木嶋!)と応援してしまったのは、〝ライバルを掻っ攫ってくれ〟という思惑からばかりではない。一生懸命秋波を送っているのに気付いてもらえない木嶋のことを、瑠璃香への〝好き〟が伝わらない自分と重ねてしまったのだ。
「だって木嶋、料理あんまり得意じゃねぇーじゃん」
「それでも日下のためにやってみようって言ってるのにー」
「やだよ。俺を実験台にするな」
「ひどーい! 人でなし!」
木嶋のゆるゆるパンチが日下の肩を打つ。ポンという音に〝♥〟の幻が見える。
存外強靭なメンタルで攻め続ける木嶋に感心していたら、
「私の卵焼きはもう日下にはあげないので悦子からもらってくださーい♪」
ふふふっと瑠璃香が笑う声がして、晴永は心の中で『よし!』とガッツポーズをした。
そうして思う。
(今の感じ。……もしかして小笹も木嶋の気持ちに気付いてるのか?)
と。
「ええーっ」
瑠璃香からの塩対応に、日下のわざとらしい抗議の声が上がったが、晴永のほうはそれどころではない。
(小笹! お前、自分への好意には滅茶苦茶鈍いくせに、なんで他人のにはそんなに敏感なんだ!)
もしかしたら木嶋から相談を受けているのかも知れないけれど、それにしたって少しは自分を取り巻く環境にも目を向けて欲しいと希わずにはいられない。
表向きは素知らぬ顔で器に取り分けられた鍋の具材を無心に口へ運びながら、瑠璃香たちの会話へ全集中の晴永としては、瑠璃香攻略のことしか頭にない。
日下の様子を見ていて思うが、うかうかしていたら瑠璃香のことを掻っ攫われる気がしてしまった。
(あいつには少々強引な手を打たんとダメかも知れん!)