テラーノベル
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砕けた鏡の破片が床に散らばる中、
“ないこ”と“闇ないこ”は、互いを見つめ合っていた。
闇ないこ:「お前は、知らねぇんだよ……全部、壊れていく恐怖を」
ないこ:(……知ってる。俺は、お前だ)
闇ないこ:「だったらなんで、“戻ろう”なんて思えるんだよ!!」
その叫びと同時に、闇ないこの掌から黒い靄が吹き出し、
部屋の空気をねじ曲げるように広がっていく。
ないこ:(……これが、“俺の中の闇”)
けれど、ないこはもう怯えなかった。
ギターをしっかりと構え、目を逸らさず、指を動かす。
ポロン――…
静かな、でも芯のある音。
ないこ(心の声):(声が出ないなら、代わりに音で叫べばいい)
その旋律が響くたび、闇ないこの靄が、少しずつ薄れていった。
闇ないこ:「やめろ……そんな音、聞きたくねぇ……!」
ないこ:(……俺は、逃げるために歌ってたんじゃない。
生きるために、叫んでたんだ)
ギターの音が加速する。
途切れ途切れでも、ないこの“音”は確かに部屋を満たしていく。
ないこ(心の声):(初兎の言葉も、いふの声も、悠佑の音も、りうらの手も、いむの温度も……全部、俺をここに戻した)
ないこの手が震える。
喉に力が入る――わずかに。
ないこ(心の声):(届いてくれ……!)
口を開いた。
その瞬間。
「――まっててくれて、ありがとう」
かすれた声だった。
けれど、間違いなく“ないこ”の声だった。
闇ないこ:「……!?」
その声に、闇ないこの表情がぐちゃぐちゃに歪む。
闇ないこ:「やっと……やっと、喋ってくれたな……」
涙がぽろりと落ちた。
ないこ:(……ごめん。お前を無視してたの、ずっと)
闇ないこ:「遅ぇよ……でも……」
ないこと闇ないこの距離が、近づく。
ないこは静かにギターを置き、
ゆっくりと腕を伸ばして――
ないこ:(“俺”を、迎えに来た)
闇ないこの身体が、微かに光を放ち始める。
闇ないこ:「……混ざるのか? 本当に……?」
ないこ:(もう、分けなくていい)
光と闇が、重なっていく。
ないこ:(俺の“声”は――)
闇ないこ:「――俺の“心”だ」
融合の瞬間、部屋中がまばゆい光に包まれた。
*
――どこかの深層。
累:「ようやく、核心に触れたね」
冬心:「……これで、次に進める」
累と冬心が立っていた鏡の前に、
ひとつの“黒い欠片”が残されていた。
冬心:「けど、まだ終わりじゃない。
“あれ”が、目を覚ました」
累:「――だね。じゃあ、そろそろ“準備”しないと」
ふたりが歩き出すその先に、
禍々しい闇が、静かにうごめいていた。
次回:「第三十話:それでも世界は、待ってくれない」
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