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#ファンタジー
厨房へ向かう高浪と赤沼。慌ただしい水谷に熱湯の運搬を任せるのは荷が重いという理由もあるが、赤沼と2人きりになり話し合いたい事が高浪にはあった。バケツを持ち歩きながら口を開く。
「水谷さんに言うと確実に慌ててややこしくなるだろうから今まで言わなかったんだけどさ、このゲームについて私の推測があるんだけど」
「黒幕や、その真意についてですか?」
「うん。私が思うに、黒幕は想定外の事態に襲われてる。この船が揺れてからイヤホンから音声は流れてきてないし」
厨房に着きバケツに熱湯を溜めていく。高浪の言う通り、何の音声も流れてこないのはこれが初。船の揺れも関係していると見て取れる。
「警察や自衛隊が助けに来た……そんなことも考えられますね」
「可能性としてはあるけど、プールに居る間は人の気配を全く感じなかった。足音すら聞こえてなかったし望み薄かな」
救助隊がやって来ているのであれば人の声や移動の音で騒がしいはず。外の様子も確認できないため、憶測でものを語るしかない。
「……やっぱり、船の揺れを気にしてるんですか」
「そうだね。あれが私達にとって良い方向に動くきっかけであればいいんだけど」
「心当たりがあるんですか?」
「少しね。今はでも言う気はないかな」
「ケチらないでください」
「後で話してあげるからさ、今はバケツリレーに集中しよう」
何を言っても無駄だと判断した赤沼は黙ってバケツを運び始めた。6人が揃っていればこのバケツリレーも楽になるが、3人でも時間がかかるだけで不可能という訳ではない。時間制限があった場合人数の減少は致命的にはなるものの、そんなアナウンスは今の所聞こえていない。
「どう思います、水谷さん」
「どうって……何がですか?」
バケツをプール近くの通路まで運んできた赤沼は、高浪の思惑について軽い相談を始めた。彼は高浪と共に死にたいと願ってはいるが、隠し事については気に入っていない様子。
「竹之内さんが亡くなってから、高浪さんは比較的口数も少なく冷静でした。だけどこのゲームが始まってからはそんなことが無かったかのようにふざけている」
「振り切れただけだったりしないんですか」
「船の揺れ、あったじゃないですか。あれが……恩人の死という絶望よりも大きい、高浪さんにとっての希望である可能性だと僕は考えます」
それだけを言って、赤沼は背を向けて去る。高浪からバケツを受け取り運んでくると再び水谷との会話が。
「怪しまれない程度の時間で話しましょう。竹之内さんは死の直前、“俺の野望”と言っていました。そして高浪さんには“後は頼む”と。高浪さんと竹之内さんの間には何か共通の目標があったと見て取れます」
「目標って……誘拐のことじゃ?」
「いえ、竹之内さんの“野望”なんですよ。高浪さんはそれをサポートしていたとも言ってました。彼ら2人の過去については僕達も聞きましたよね。でも竹之内さんの一家心中の理由と、犯罪者が集うマンションの経営を持病を抱えながら、無理にでも続けていた理由……この2つが、明かされていないんです」
高浪:誘拐──自身の欲求及び頭痛の解消。
赤沼:放火──周りに見てもらいたいが為の放火。
水谷:紙幣偽造──精巧な偽札を作る達成感。
八木:薬物販売──裏社会で生き抜くための金。
南:テロ等準備罪───自身を英雄に仕立て上げる算段。
他の参加者には犯した罪と繋がる明確な目的、思想が存在する。しかし竹之内はそれを明らかにしないまま死んでいった。どうにも引っかかった赤沼はゲームの攻略よりも高浪と竹之内が隠している“何か”に気持ちが傾いていく。これが最後のゲームなのだとしたら、高浪のみが標的にされていない事もやはり不自然だと感じる。様々な疑いと空のバケツを持ちながら高浪の方に熱湯を受け取りに行った。
「あと4往復くらいで氷は溶けそうです」
「悟くんが一番歩いてるよね? 疲れさせちゃってごめんね」
「このくらいは大丈夫ですよ。さ、バケツを」
8割を熱湯で埋められたバケツ2つを受け取ろうとしたその時だった。ゆっくりと高浪の顔が赤沼に近づく。目を合わせたままで赤沼も離れようとはしなかった。
「私は、君の期待してる通りの人間ではないかもしれないけど。君の想像を超える人間ではあると思ってるよ」
「引き続き期待してても良いってことですか」
「……いいんじゃない?」
バケツを渡した高浪は優しい笑みを返すだけ。赤沼が疑いを向けてきている事も全てお見通しといった様子で、それも赤沼にとって魅力的に見えた。
その後もバケツリレーを続け、15分が経過するとプールの氷はほとんどが溶けてなくなっていた。相変わらずイヤホンからの音声は何も無いが、底に隠されていたものが表れる。
「これは……自動販売機?」
底に寝かされている状態の自動販売機が見えた。水が入ってこないよう取り出し口にはアクリル板が取り付けられている。バッテリーで動き、災害時でも飲料を提供できるタイプのものだった。一番乗りで近付いた高浪はその自販機の異常性に気が付いた。商品のラベルは存在しておらず、押せるボタンは中央の1つのみ。そして。
「小銭を入れる穴が塞がってる……ってことは万札を入れろってことか」
通常の自販機は一万円札を受け入れない。面倒なお釣りの補充や、盗難のリスクを抱えているからだ。しかし今の状況であれば話は別。このゲームのために改造された一万円札対応自動販売機だ。
「水谷さん、本物の万札は見つかった?」
「は、はい。水を抜いている時ついでに探してたらあったので……」
「水谷さんの偽札って確か自販機も黙せるんだったよね? 今回はどうかな」
「私の偽札をこんなに集めたんです、やっぱり見分けられるように作ってあるんじゃないでしょうか」
続いて水谷と赤沼も自販機のそばに立った。偽物ではない正真正銘本物の一万円札が自販機に吸い込まれていく。そして中央のボタンを押した事で取り出し口のアクリル板が外れた。
「あ……何か入ってますね」
取り出し口に手を突っ込んだ水谷が見つけたものは小さな鍵だった。
「うーんこれでゲームクリアってことかな?」
「どんな所に使う鍵かは分かりませんが、恐らくは」
辺りを見回した赤沼。先程自分達が使っていたレストランと繋がっている通路とは反対側にある、船首の方へと繋がる扉で視線が止まる。
「あそこですかね」
「やっぱり本来は時間制限ありのゲームだったのかな、仕組み自体は単純だし、バケツリレー結構時間かかるものだったし」
ウェットスーツから元々の白い服に着替えた3人は扉の前で改めて考えた。呆気なく最後のゲームが終わり、この先に待っているのは何なのか。ロシアンルーレットのゲーム終了直後には『全てのゲームをクリアした後に脱出への出口を開く』と聞かされていた。
「ほ、本当にこれで終わりなんでしょうか……」
「この先って操舵室だよね? 多分プールに来た時からはこの船は動いてないと思うけど、この先に誰か居たりして」
「え、黒幕ってことですか!? 襲われるんじゃ……」
「1人が相手だったら私に任せてよ。いっぱい居たら……とりあえず頑張って」
驚愕の表情を浮かべたまま動かなくなる水谷を横目に、高浪は勢いよく扉を開けた。もちろん臨戦体勢ではあったが目に映ったのは。
「……誰あれ」
細長い通路の奥、操舵室の扉を塞ぐようにもたれかかる初老の男性。俯いており表情は見えないが、足元には血の水溜まりができていたため死亡しているのは明らか。彼の服装はゲーム参加者とは違い私服で、黒いパーカーと茶色のズボン。
「ふぇ……し、死んでるんですか?」
「私が確かめるよ」
1人駆け寄った高浪は脈を確認すると首を横に振る。腹部に鋭利なナイフが突き刺さっており、死因は出血多量。そして彼の右手にはピストルが握られていた。
「血痕は他にはないし、操舵室から出てきて扉を閉めた後に力尽きたって感じか。ピストルは警察でも使われてる小型のものだね。南さんのロシアンルーレットの時はリボルバーだったけど、違うタイプ」
血塗れの衣服を躊躇なくまさぐる彼女に、赤沼と水谷は呆れながらも事を任せていた。間もなくズボンのポケットからスマートフォンを発見。真っ先に確認したのはその電話番号。
「あー……やっぱり私の推測通りになってるかもね」
妖しく笑う高浪。画面に表示された個人情報。男の名は羽田 十兵衛。そしてスマートフォンの電話番号は“サトル”のメモ帳に記されていた5つのうちの1つだった。
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