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操舵室へと繋がる通路の扉の前で、黒野はスマートフォンの画面を見つめながら数字を入力していく。5つの数字を入れる必要があり蛎灰谷、久保田、平の3つの数字は既に得た。新田の数字はうなじに隠されているためギロチンを使ってしまえば死に直結しかねない。山岡の数字は黒幕が持ち去った。
「総当たり、なんですよね」
背後から新田の声がかかる。数字を入れる箇所の背景には色がある。左から灰、青、紫、緑、ピンクだ。
「いや。今のところ『96??4』だ。当てずっぽうならば相当時間がかかるが……これは語呂合わせだな」
黒野は空いている箇所に『5』と『6』を入れた。すると扉の鍵が開く音が2人の耳に入る。
「96564……くろごろし。この先に待っているのは俺を標的とした最後のゲームなのかもしれないな」
「え……だ、大丈夫なんですか!?」
「そう慌てるな。あの時の船の揺れ……その直後に山岡の数字が持ち去られた。黒幕にとって何か不都合な事態が発生したんだろう。時間稼ぎせざるを得ない不測の事態がな」
ある種の確信、及び灰色のプレートの部屋で手に入れたアサルトライフルを持っていた黒野は臆する事なく扉を開けた。細長い通路の奥、操舵室の扉を塞ぐようにしてもたれかかる男性の死体が見えた。上下共に白衣で、医者の様相だった。
「あれは……誰だ?」
「死んでいるん、ですかね」
黒野の背中から頭だけを出し見つめる新田にも死んでいる事は明らかに分かるほどの出血量。胴体に4発の弾丸が撃ち込まれ、操舵室からこの通路へと出てすぐに倒れたと見て取れる。警戒しながらも近づいていく黒野は周囲に罠の有無を目視で確認すると、ゆっくりと捜査を始めた。
「こいつが黒幕かどうか……これで分かるはずだ」
白衣のポケットに手を突っ込みスマートフォンを発見すると個人情報を見漁る。やはり、妖しく笑う。
「ハッ……やはりか。この男の名前は“茶山 幸太郎”。住んでいるマンションの管理人は“竹之内 義黄”だ。そしてその竹之内との連絡履歴も」
「……誰もいないね」
羽田の死体を移動させ、操舵室に入った高浪達だったが人の気配はない。監視カメラの映像を映し出すモニターが壁に取り付けられており通路や各ゲームの舞台となった部屋を確認できる。薬物中毒となっている八木の様子も見えた。症状が落ち着いたのか慣れてきたのか、暴れはせず床に寝転び震えている。
「八木さんを早く病院に連れていかないといけません。早く外に出ましょう」
「水谷さんってどうしてそこまで八木さんを助けようとしてるの? こんな短時間で好きになったわけじゃないでしょ」
「うぇっ……と、その……恋愛的な意味ではなくてですね」
もじもじと両手の指を擦り合わせていたが、しっかりと高浪と見つめ合って話し始める。一方赤沼は黙って部屋を物色。
「わっ、私は“お金が好きな人”を好きになるんです。だって…………」
「だって?」
「私の偽った紙幣は既に日本中にばら撒かれているんです。偽物なのに……それを欲しがる人ですよ? それってすっごく、滑稽じゃないですか」
眉は下がりつつも柔らかい笑顔を浮かべた水谷。彼女の思想は高浪にも引けを取らない。
「大好きなんですよ……偽物を手に入れて、喜んで。私の手の上で踊ってる感じがして。そんな人を間近で観察したいんです。だから八木さんには生き残ってもらわないと……あぁ、ヨダレが」
八木以外の参加者は金に興味を持っていなかった。その八木も死亡はしていないが、2人目の脱落者となってしまった事で水谷の本性は今まで表に出てこなかった。集められた人間はやはり異常者なのだと高浪は口角を上げる。
「いいじゃん。いい考えしてる。これからは私と協力してみない? 子供を取り戻すために偽札大量に用意する親とか……見たいよね?」
「み、見たい! 見たいです! やりましょうやりましょう!」
すっかり意気投合した2人を横目に、赤沼は部屋の端に設置されていたテーブルに注目する。2リットルのペットボトルに入った緑茶は残り半分ほどになっていた。隣にある透明のコップの中にも飲みかけの状態で残っている。そして丁寧な字が連なっているノート。開かれた状態で、ゲームの脱落・クリア状況が記されていた。
55
#ファンタジー
「やはり、最後のゲームについての記述がない」
水谷を標的としたゲームの結末は書かれていない。直前の竹之内の鍵探しゲームまではきちんと脱落者の名や生死の状況が残されているというのに。
「……水谷さんの言う通り、とりあえず外に出ましょう。甲板へと直接出られる扉もありますし」
甲板への扉からは血痕が続いていた。羽田もこの扉を死の間際に通っていたと分かる。
「ここが操舵室か」
茶山の死体を移動させ、操舵室に入った黒野達だったが人の気配はない。監視カメラの映像を映し出すモニターが壁に取り付けられており通路や各ゲームの舞台となった部屋を確認できる。意識を失っている蛎灰谷、平、久保田の様子も見えた。
「汚いですね……それに暗い」
窓から見える海の景色は薄暗い。この船よりも大きい物体が左に存在しているようで、日が遮られていた。部屋の中も散らかっている。古びた船を取り急ぎ改造したようで、床の傷はもちろん埃も大量で臭いがきつい。部屋の端にあるテーブルには雑多に食料品が積まれていた。
「ここから俺達を見ていたらしいが……甲板からここに戻ってきた痕跡があるな。大方、この先で重症を負い必死に戻ってきたんだろう」
「重症なんて、いったい何が」
「俺の期待通りの事態……俺達への“救助”が来ているのかもしれないな。行くぞ」
尚も警戒を続けアサルトライフルを“左手”で構えながら甲板へと続く扉に向かった。頼りになる彼の背後から新田は離れずに着いていく。
甲板に出た高浪達は陽の光を浴びながら 周囲を見回した。右方向には陸地がうっすらと見えたがかなり遠い。泳いで渡る気持ちは湧かなかった。
「緊急用の救命ボートとかないかな? あれだったら大変だけど私達で動かせるし陸地まで行ける」
救命ボートは通常、即座に脱出できるよう外に設置されている。甲板からであれば船外の様子も最後尾以外の箇所を確認できる。真っ先に動いた水谷が柵から身を乗り出して探そうとした途端。見つけた。“もうひとつ”を。
「お、お2人とも! 他の船と……ぶつかってます!」
急いで2人も駆け寄った。確かに水谷の言った通り、一回り小さいクルーズ船と衝突していた。見下ろす形で観察できる。高浪達が乗っている船とは違い旧型で古びた雰囲気。そして両方の船体には傷跡があった。小さい船の方は船首がへこみ、大きい船の側面にも衝突された跡がある。
「あの船が僕たちの方の船に突っ込んできたってことですか」
「だろうね」
高浪はどこか嬉しそうな声色で答えた。だがその余裕は直後に壊れる事となった。小さい船の、甲板へと繋がる扉がゆっくりと開き始める。現れた人影は2人。男女。
「あっ、人!? 大丈夫ですか〜!」
ゲーム参加者以外の人間と久しぶりに会えた感動で水谷は喜びながら大声と共に手を振った。しかし高浪の思考は、ほんのひとときだけ止まった。現れた男の顔を見て。
30代らしき男。冷ややかな目。身長は170cm後半。右手にはスマートフォンで左手にはアサルトライフル。多分左利き。
高浪を攫った人物は、高浪よりも人を捕らえる技術に長けている。現に“彼”は自衛官の蛎灰谷をも素早く組み伏せていた。
“ゲームを仕組んだ”のは俺達だ。
高浪達が参加させられていた今までのゲームを仕組んでいた黒幕は。“サトル”のメモ帳にあった5人の協力者のうちの1人は。高浪を誘拐した張本人は。
「……黒野 将吾」
水谷の声により黒野も顔を上げついに見つめ合った。そして黒野の思考もほんのひとときだけ止まった。見下ろしてきていた女の顔を見て。
右手に握られていた茶山のスマートフォン、そこに表示された連絡履歴には竹之内の経営するマンションの住人の名が連なっていた。
“早く帰らないとね、次のは結構挑戦的だし準備は入念にしないと”
誘拐される直前、高浪は意気込んでいた。今までとは違う計画に。
“俺の野望、この目で見れなかったことは残念だ。高浪……代わりに頼む”
竹之内が持病を抱えながらも犯罪者の集うマンションを営み、高浪に親身となって接していた理由。黒野達が参加させられていた今までのゲームを仕組んでいた黒幕は。
「……竹之内 義黄、高浪 麻白」
高浪と黒野の思考は同時に動きを再開した。黒野のアサルトライフルによる正確な発砲。高浪は咄嗟に赤沼と水谷の服を掴み引っ張った。だが遅かった。甲板に倒れ込んだ高浪の目に映ったのは、1人だけ身を乗り出していたため間に合わなかった水谷の虚ろな顔。脳天を撃ち抜かれ即死。