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#不倫
#離婚
接見室を後にした私の耳には、遠ざかる透さんの絶叫がこびりついていた。
けれど、それは心地よい風の音にしか聞こえなかった。
数日後
実家のリビングで私は父から一枚の書類を見せられた。
「美咲、これがヤツの『本当の負債』の全容だ」
それは、透さんが裏金を工面するために手を出していた、闇金業者からの借用書の写しだった。
会社から横領し、顧客リストを売ってもなお
彼の膨れ上がった虚栄心を満たすには足りなかったらしい。
「……これ、利息だけでとんでもない額になってるわね」
「ああ。しかもタチの悪いことに、ヤツは借入時の緊急連絡先に、実家……つまり私の連絡先を勝手に書いていたようだ」
父の目は、これまでに見たことがないほど冷徹だった。
地主として多くの人間を見てきた父にとって
身内に寄生し、その名前を汚そうとする行為は万死に値する。
その頃、警察の留置場にいる透さんの元には、会社側の弁護士が訪れていた。
「佐藤さん。君が売り渡した顧客リストのせいで、我が社は数億円規模の損失を被る可能性があります」
「懲戒解雇は当然として、会社としても君に対して全額の損害賠償請求訴訟を提起します。逃げ得は許しません」
「数……数億!? そんなの、一生かかっても払えるわけないだろ!」
「払えないなら、服役後も一生をかけて、あなたの全財産を差し押さえ続けるだけです」
「……ああ、そうそう。あなたが頼りにしていた実家のご両親ですが、あちらの団地も正式に競売にかけられることが決まりました」
透さんは、ガタガタと歯を鳴らして震えた。
自分一人が贅沢をするために積み上げてきた「嘘」が
ついに自分だけでなく、自分の親の人生までも完全に破壊したのだ。
さらに、追い打ちをかけるように留置場に差し入れられたのは、一通の「内容証明」。
送り主は、あのリカだった。
『精神的苦痛に対する慰謝料、および、御曹司だと偽って私に支払わせたデート代の返還を求めます。払わない場合は民事でも徹底的に争います。……二度と私の前に汚い顔を見せないで』
「あ、ああ……あぁぁぁ!!」
透さんは狭い独房の中で、頭を抱えてのたうち回った。
見栄を張るために手に入れた高級車も、時計も、女も、地位も。
すべてが自分を切り刻む刃となって襲いかかってくる。
私は、父と一緒に静かなカフェにいた。
「美咲、これでようやく一段落だな」
「ええ。でもお父さん、私、決めたの。透さんが残したこの『負債の結末』、最後までこの目で見届けるわ。彼が、彼が言っていた『月5万』の重さを、本当の意味で知るまで」
私はスマホの画面をタップし、透さんの実家の土地を
父の会社が「競売」で買い叩くための指示を確認した。
透さんの帰る場所は、もうこの世界のどこにもない。
あるのは、冷たいコンクリートの壁と、永遠に終わらない借金返済の通知だけ。