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「いやー、無かったわ」


玄関を開けるなり、幾ヶ瀬がため息をついた。


「なにが?」


有夏が呆れたように首を傾げるのも、まっとうな反応といえるだろう。


幾ヶ瀬はスーパー帰りであるらしく、両肩と手にエコバッグを提げている。


「今日セールだからさ。買いだめに行ったんだけど、無かったわ」


「だから、なにが?」


いい加減イライラする返事であるが、幾ヶ瀬は尚も「アレだよ、アレ」なんて言っている。


「分からん、分からん!」と怒鳴る有夏。

「アレって何だよ? どこのオバチャンだよ」


「ハロウィン仕様の袋菓子、半額になってんじゃないかと思ったんだけど、普通に2割引きだった」


「……何だよ、それ」


ああ、俺はもう半額でないとお得感を味わえない体になってしまった……なんてブツブツ言いながら、幾ヶ瀬はテーブルにバッグをおいて腕をさすり始める。


で、何買ったんだよと有夏が袋を漁る光景はいつものものだ。

大好物のカントリーマァムの大袋を見付けると、早速取り出した。


袋を破こうとする手を、幾ヶ瀬が止める。


「駄目だよ、有夏。ほっといたらお菓子ばっかり食べるんだから。今日は俺がアップルパイ焼くって言ったろ」


「ちょっとだけ! 1袋だけ!」


「いけません!」


駄々をこねる有夏の手から袋を取り上げ、幾ヶ瀬はキッチンで購入した品物の仕分け、収納作業を始めた。


「先着200名様限定・キャベツ1玉98円! 買えてラッキー」


ご機嫌な様子で鼻歌なんて歌っている。


時間は朝の11時少し前。

2連休の初日午前を、幾ヶ瀬は朝寝と買い物に充てた。


休日は定期的にあるものの、連続で休みを貰えるのは珍しい。

ハロウィンの激務の代わりということで、今月は通常の休みのほかに2連休が2回もあるのだ。


「だからと言ってあの店長は許すまじ。どうせ12月のクリスマスシーズンでこき使うからって、機嫌とってやがんだ──ねぇ、有夏ぁ。おひる何食べたいー?」


前半は低い声で呪いを吐き、後半は猫なで声でキッチンから顔を出す。


「べつになんでもいい」


「何でもいいが一番困る……」


ぼやきながらも幾ヶ瀬、急ぎ足で部屋に入ってきた。

言葉のわりに顔が険しい。


ゲーム機を手に床に転がる有夏をまたいで、テレビの電源プラグを抜いた。

わざと大仰な身振りでコンセントを掲げるのは、だらしのない有夏の注意を引くためか。


「有夏、俺が買い物行ってる間にテレビ見てたの?」


「ちがうよ? 遊戯王のDVD見てただけ。こっちにも戦略ってものがあんだよ」


ゲームの攻略のためらしいが、幾ヶ瀬にはそんなことはどうでも良いようで。


「いや、テレビでもDVDでもいいんだけどね。見終わったらちゃんとコンセント抜いてっていつも言ってるでしょ」


「えー、めんどいー」


液晶から視線を逸らさず、有夏が口を尖らせる。


「面倒臭くないよ。コンセント抜くだけでしょ。待機電力ってのを知らないの?」


「また始まっ……」


「何?」


「や、べつに……」


一瞬の沈黙。

気を取り直したように、幾ヶ瀬は続けた。


「テレビつけてなくても、コンセントに繋いでるだけで電力を喰うんだよ? ついてないテレビにお金払うって損でしょ」


そんなたいして変わんねぇよという小声を聞き咎めたのだろう。

幾ヶ瀬が有夏の手からゲーム機を奪った。


「ちょー、いくせ?」


「いい? 考えてよ。有夏が好きなビスコだって1円足りなきゃ買えないんだよ? 1円を笑う者は1円に泣くんだよ?」


「でた、名言」


有夏っ、と怒鳴られて彼は肩を竦めた。


「ちょー、いくせ、ゲーム返せって。分かったから」


「本当に分かってるの?」


「うぇーい」


「っとに……だらしないんだから」


ゲーム機を返してやりながら、幾ヶ瀬はまだ不満気だ。


しかしせっかくの貴重な休みを小言に費やすのは馬鹿らしいと思い直したのだろう。

ごはんつくるね、とキッチンへ戻っていった。


「ちっ。また出張とかで、3日ほど出てかねぇかな」


その後ろ姿に向かって有夏が小声で毒づく。


「なに?」と幾ヶ瀬がタイミングよく振り向いたものだから、焦った様子でゲーム画面を伏せた。


「な、んでもねぇけど?」


「そぉ? お昼何にしよっかな。そうだ、鮭と野菜をバターでソテーしよ。いい?」


コクコク頷く有夏。


再びゲームを始めるも、バターの良い香りにキッチンへとにじり寄るのはいつもの構図か。


フライパンの中ではタマネギ、ニンジン、ピーマン、シメジと共にソテーされた大振りの鮭の切り身がこんがりと美味しそうな焼き色を付けている。


それをひっくり返しながら、幾ヶ瀬は休日を噛み締めている様子。


「同じ料理でも有夏に食べさせるんだと思ったら作り甲斐もあるよね」


「は?」


側にいる有夏は返事に窮した様子だが、幾ヶ瀬は辛かった先月の心情を語り始めた。


「15連勤だよ。もう疲れてさ。くたびれて。とにかく有夏のこと考えてキッチンの仕事をやり過ごしてたんだよ」


「はぁ?」


「ここ2週間はさ、例の中世ヨーロッパの男娼館の妄想が止まらなくて……」


「それは……有夏のこと考えてるわけでもねぇだろうが」


性懲りもなくまたアレかよと有夏は顔をしかめてみせる。

レストランの客も、そんな妄想と共に作られた料理を口にするとは気の毒な……。


だが、有夏の複雑な表情を気にする風もなく、幾ヶ瀬は続けた。


「ま、色々あって関係が深まってさ。いよいよイクセさんがアリカを身請けすることになって……身請けっていうのかな、イタリアでも?」


「知らんわ」


「まぁいいか。でね、アリカを身請けしようって展開になるんだけど、アリカが断るんだよ。いらないって言って。なかなか理由を言わないんだけど、まぁまぁ色々あってからようやく聞き出せたら……これが切ないんだよ、有夏」


「だから知らねぇわ。てか、『色々あって』多いな!」

【BL】隣りの2人がイチャついている!

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