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――あれから。
僕と小出さんはカンタッキーフライドチキンを後にした。
外に出た時にはすっかり夜になっていて、ぐるりのあちこちでLEDライトによる綺羅びやかな装飾が目に入ってきた。
その景色を小出さんと共有できたことが、僕にとってこれ以上ない喜びだった。
そして今、僕達は電車で移動中。僕は念のため、再度、ダウンジャケットの内ポケットを確認した。小出さんに気付かれないようにしながら。
に、しても。
「た、食べ過ぎました……」
小出さんはあの山盛りのチキンを夢中になって食べていた。それはそれは美味しそうに。そして、嬉しそうに。
で、その小出さんは今、吊り革に掴まりながらちょっと苦しそうに空いている左手でお腹を押さえているところ。よっぽど苦しいみたい。
まあ、無理もないよね。だってあの山盛りチキンのほとんどを食べきっちゃったんだから。
食べ終わるまですっごい時間がかかったけどね。だって小出さん、口が小さいから。でも少しずつとはいえ、まさかあの量をほぼ一人で完食しちゃうだなんて。
僕? 一応食べたよ? 一本だけだけど。
「小出さん大丈夫? 席がどこか空いてくれれば座れるんだけど」
「へ、平気、で、す……。しょ、消化するのは割と早い方なので……」
消化が早いとはいってもねえ。さすがにちょっと心配になっちゃうよ。うん、電車を降りたらすぐにコンビニで胃腸薬でも買ってあげよう。
「それで園川くん? 今からどこに行こうとしてるの?」
「うーん。まだ内緒」
「内緒、なんだ……。園川くんにしては珍しいね」
「そうだね」
僕はあえて、素っ気ないというか、言葉少なに言葉を返した。
実は僕は僕で苦しいんだ。 お腹じゃなくて、胸が。そして、心が。
理由は、覚悟を決めたから。
何の覚悟かって? 言うまでもない。
僕はこれから向かう『そこ』で、小出さんに告白をする。
最初は告白するかどうか自分でも分からなかった。だけど、もう自分の気持ちに嘘は付けない。付くことができない。
『好き』という感情が、僕の心の中でどんどん膨らんでしまっているから。今にも心の風船が破裂しそうだから。
きっと、これまでの僕だったら告白を後回しにしていたと思う。ヘタレていたと思う。そう、あのクリスマスイブの時みたいに。
でも、今は違う。
小出さんから、勇気をもらうことができたから。