テラーノベル
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次の日の朝は最悪な目覚めだった。
見ていた夢に驚いて飛び起きた背中は汗びっしょり。でもそんなこと気にする余裕もなくて、真っ赤になった顔を隠すように頭を抱えた。
「何で今思い出すんだよ…」
夢に見たのは、忘れていたと思ってたあの夜の記憶。
酔いに任せて奥底に追いやってた記憶が、夢と一緒に引っ張り出されてきた。
どう考えたって、思い出さない方がマシだった記憶。
ますます佐久間くんに合わせる顔がなくてため息を吐くけど、時間は待ってはくれなかった。
色々思い悩んだところで朝はやってくるし、仕事も待ってくれない。
今日はメンバー揃っての取材と打ち合わせだ。嫌でも佐久間くんと会うことになる。
行かないとか、そんな無責任な選択肢はない。ましてや佐久間くんがいらない責任を感じてしまうかもしれないことは出来ない。
今日はマネージャーの送迎がある。ひとまずその時間までにシャワーを浴びて身支度をした。
現場に着くまでに気持ちを落ち着けなくちゃって、思えば思うほど頭の中がぐちゃぐちゃになる。そうこうしてる内に現場に到着してしまった。
覚悟は決めたつもりだけど、自信はない。
大きく深呼吸をしてから楽屋の扉を開ける。
「おはようございます」
楽屋に一歩入ると、あちこちから「おはよ」「おはよー」という声が聞こえてきた。
その中には当たり前だけど、佐久間くんもいる。
不意に目が合った佐久間くんは一瞬戸惑った顔をしてから、いつも通りの笑顔で「おはよ、蓮!」と挨拶をしてくれた。
「おはよう、佐久間くん」
何とか堪えて笑顔を作って挨拶を返す。
普段ならそのまま話しかけるところだけど、ぐっと耐えて佐久間くんから一番遠い椅子を引いて腰掛けた。
俺からはなるべく近寄らないようにしないと。
佐久間くんも俺の行動に『あれ?』って顔をしたけれど、特に気にする事もなく隣の阿部ちゃんとの雑談に戻っていった。
これでいいんだ。この距離感を当たり前にしなくちゃ。
そう自分に言い聞かせながら、佐久間くんの方を努めて見ないように手元にあった取材用のアンケートに目を通した。
内容はこれまでも聞かれたことがあるようなことばかり。
テーブルに置かれてたペンで回答を書き込んでいく。
「でさー、その時…」
「え、マジかぁ」
集中してるつもりなのに、佐久間くんと阿部ちゃんの会話が耳に入ってくる。特に佐久間くんの声は良く通るから。
なんて、そんなの言い訳だ。
大好きな人の声が耳に入らないわけがない。
それでも何とか振り切ろうと軽く頭を振ったその時、不意に脳裏に声が甦る。
『れん…蓮っ ね、もっと…ひゃ、あっ』
『だめ、も…イッちゃ…っ あ、アッ…ぁんっ』
酷く鮮明に聞こえたその声に、思わず勢い良く立ち上がった。
背後で椅子が倒れた音がしてはっと我に返る。
佐久間くんもびっくりしてこっちを見てるのが分かって後悔が襲ってきた。
「どうした、めめ。具合悪いのか?」
「う、うん…少し調子悪いかも…」
「そっか、無理すんなよ。少し休むか?」
ふっかさんの呼びかけに便乗して大きく頷く。心配そうに返してくれて罪悪感が過ぎるけど、俺にも余裕がなかった。
「いや、大丈夫。何か冷たいものが欲しいから、買ってくるね」
「おぉ、分かった。気を付けて行けよ」
「うん、ありがとう…」
何とか笑顔で取り繕って、携帯だけポケットに捩じ込んだ。みんなの気遣わしげな視線を振り切るように出入り口に向かう。
視界の端に見えた佐久間くんがじっと俺を見てる気がしたけど、確認するのが怖くて逃げるように外に出た。
何処へともなく足を進めながら強く唇を噛む。
絶対表に出すな。絶対に覚られるな。
何もなかったんだ。俺と佐久間くんの間には、何も。
佐久間くんに迷惑だけは掛けたくない。
そう思うのに、頭の中では断片的に思い出された記憶が何度も何度も再生される。
長い間焦がれ続けた人に触れてしまった記憶は、そう簡単に消えてくれそうもなかった。
コメント
1件
ああ、もう…蓮くんの気持ちが痛いほど伝わってきました。夢で思い出しちゃうあの夜の記憶、忘れたくても忘れられないもどかしさ。楽屋で佐久間くんの声が耳に入ってくるたびに平常心を保とうとする姿に胸が締め付けられました。逃げるように外に出たラスト、記憶が何度も再生される描写が切なくて…。距離を置こうとすればするほど、想いが溢れてしまう蓮くんの心情が繊細に描かれていて、続きが気になります。
雫
860
うさみみ
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