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「ひょっとして……これから社長の所へ出向かれるんですか?」


日頃は作業服で出社することが多い屋久蓑やくみの大葉たいようが、今朝は珍しくスーツで来たのはきっとそういうことなのだ。


恐らく岳斗がくとの心が、屋久蓑やくみの大葉たいようを見てソワソワと落ち着かないのは日頃と服装が異なっているからに違いない。


何ならさっきからの挙動不審ぶりでちょっぴり乱れていしまっているネクタイを〝直して差し上げたい〟だなんて欲求までふつふつと湧き上がってきて(何を考えてるんだ、僕は!)と慌てた岳斗は、出来ればいつも通り、作業服に着替えて欲しいとすら思ってしまう。


このところの屋久蓑やくみの大葉たいようは、少しずつではあるが感情表現も豊かになってきて、ちょっと前までの【寄らば斬る!】みたいなバリアが消失していた。

こんなことでは、『屋久蓑やくみの部長素敵♥』だなんて血迷う女性社員が続出しそうで良くないなと考えて――。


(そ、そう! 羽理うりちゃんにライバルが増えてしまうからね!)

と自分に言い聞かせた岳斗である。


(とにかく! とか思わせないで欲しいんですよ、二人には!)


早いところ社長と話をつけて、社内中に「付け入る隙なんてない!」と知らしめてもらわねば、正直落ち着かないのだ。



「な、何でそれをっ」


だが、当の本人は、分かりやすくスーツなんて着込んできているくせに、岳斗がそう問い掛けてきたことが不思議で堪らないらしい。


勢い込んだ様子でガタッと音を立てて立ち上がった。


「何でって……。大葉たいようさんと土井社長は血縁でしょう? 以前社長が『に見合い話を勧めてる』って、嬉し気に電話で話しながら歩いておられるのをお見掛けしたことがあるんですよ、僕。……社長がおっしゃってた〝たいちゃん〟って、大葉たいようさんのことですよね?」


土井社長と屋久蓑やくみの部長の関係は、社内で周知されている情報ではないが、別に箝口令かんこうれいが敷かれているわけでもない。


大葉たいようさんは社長のおいっ子でしょう?」


数年前たまたまそのことを知った岳斗は、だからと言って本人らが大っぴらに語らないならと、敢えて他言はせずにいたのだ。


(まぁ何かの時、切り札に出来るかな?とか腹黒いことを思ったからなんですけど)


だが今の岳斗には、屋久蓑やくみの大葉たいようおとしいれる気も、強請ゆする気もさらさらない。


(昨夜力になります、って宣言した気持ちに嘘はないですしね)


愛する者のために感情もあらわに、自分を威嚇いかくしてきた屋久蓑やくみの大葉たいようは、整った顔立ちもあいまって物凄くカッコ良く見えたのだ。


あの姿を見た瞬間、岳斗は雷に打たれたみたいに感情がたかぶって――。


この男のために尽力したい!と、心酔してしまったのだ。


その想いの本質が何なのか、自分でもよく分かっていないし、そもそも分かってはいけない気がしている岳斗だけれど、とりあえずは屋久蓑やくみの大葉たいようの良き理解者、良き補佐役くらいにはなりたいと考えている。


「あ、ああ。その通りだ。……って、やっぱり知ってたんだな、俺と社長のこと」


「はい。数年前……まだ貴方が課長をなさっていた頃にたまたま知る機会があったので」


でも誰にも他言はしていませんよ、と付け加えると、屋久蓑やくみの大葉たいようがコクッとうなずいた。


「それは……俺も分かってる」


一言でも誰かに漏らせば、もっと広まっていたっておかしくない話なのだから当然だ。


「何より倍相ばいしょう課長が可愛がっている羽理も知らないみたいだしな」


そこが一番の決め手なのだと言わんばかりの口振りで柔らかく微笑んだ屋久蓑やくみの大葉たいようを見て、チクリと胸の奥が痛んだ気のした岳斗だったけれど、そこには敢えて気付かないふりをした。



***



「あ、そう言えば羽理うりで思い出したんだがな」


倍相ばいしょう岳斗がくとはまだ何か言いたげだったけれど、これ以上突っ込んでアレコレ聞かれると何となく面倒な気がして、大葉たいようは半ば無理矢理話題を変えた。


「前に羽理が営業課の領収だけ雨衣あまい課長が取りまとめて持ってくるようキミが指示を出してるのが腑に落ちないって首をひねってたんだがな。――何か事情があるのか?」


土恵つちけい商事では泊りがけなどの出張費のように色々な経費が一気にかさむ場合を除いて、日々の業務で生じた交際費や会議費などと言った細々こまごまとしたものは、上司の承認が降りた時点で使った本人が直接財務経理課へ持って来るのが通常の流れになっているはずだ。


羽理からその話を聞いたとき、大葉たいようは特筆すべき理由に思い当たれなくて……『俺にもよく分からんな。倍相ばいしょう課長に聞いてみるのが一番じゃないか?』と答えたのだが。


まさか羽理に懐いていた営業のワンコ系後輩・五代ごだい懇乃介こんのすけを羽理に会わせないための策略だった……とかじゃねぇよな?とふと思ってしまった。


「ああ、その件でしたら申し訳ありません。僕の私情が多分に混ざってました。――えっと……、大葉たいようさんは営業課の五代ごだい懇乃介こんのすけくんをご存知ですか?」


「ああ、羽理によく懐いてる後輩だろう?」


「ええ。ご存知の通り、僕は荒木さんのことが大好きから、その彼からの私的なアプローチを妨害するため、雨衣あまい課長に頼んで職権乱用を少々……。ですが五代ごだいくんの荒木あらきさんへの執着ぶりは雨衣課長もちょっと目に余るところがあったみたいで……割とすんなり協力してくださいました」


確かにアスマモルドラッグでたまたま出会った時、五代ごだいは羽理に対してかなり押しが強かったし、財務経理課へ来るたび羽理にアレコレ言い寄っていた可能性は十分にあるな?……と思った大葉たいようだったのだけれど。

財務経理課を取りまとめる総務部長の立場としては、「はいそうですか」と私的な目論見もくろみでのイレギュラーな動きを見逃すわけにはいかない。

あのっ、とりあえず服着ませんか!?〜私と部長のはずかしいヒミツ〜

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