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PM 01:48
どうにも眠れずに目が覚めた。
夜に考え事なんてしているからだろうか。
今日は外に月は出ていない。
という事はラトやラムリは見張り台で星でも眺めているのだろうか。
ミヤジやベリアン、フルーレなど夜中でも作業に没頭する執事達はちゃんと寝れているのだろうか。
「…皆には迷惑かけちゃうかもしれないけど、夜の森でも散策しようかな。」
フルーレがくれた比較的動きやすい服装に着替え、机に置き手紙を残し部屋を出る。すると、そこには第一の壁が立っていた。
「…?あら、主様?こんな時間に起きていらっしゃるという事は…小腹が空いてしまいましたか?」
目の前にはユーハンが立っている。
「…?ううん、気にしないで。夜風でも浴びようかな〜って思ってたところだから。」
「そうでございましたか。それでは、行き先までご一緒致します。夜の屋敷は暗くて危ないですから。」
「ううん、大丈夫だよ。ユーハンの睡眠時間を削ってまでだなんて申し訳ないから。おやすみなさい。」
「左様でございますか。それでは風邪を引かないように注意してくださいね?おやすみなさい。」
何とかユーハンを説得し、その後は他の執事にバレないようにと慎重に動きながら屋敷の外へ出た。
*
*
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夜の森は動植物の音がよく聞こえる。まるで別世界へ訪れたような気分だ。
森の奥深くへ進むにつれて、私の公式神が先程の悩みを全て掻き消してくれる。そのお陰で幾分か身も心も軽く感じられた。
前へ進む事に夢中になっていると、背後から何かが舞い降りる音がした。
「やぁ、悪魔執事の主。あの日から調子はどうだい?」
「…?何、セラフィム。人間が絶望を感じている姿を見て、自分の欲でも満たしに来たの?」
ゆいは知能天使が近距離にいるというのにも関わらず、気にせず前へと進んだ。
「そんな事はいってないさ。ただ、あの日君が 『悪魔執事達を犠牲にする位なら、私が全ての責任を払う。』 だなんて格好つけた言ってたから、その後変化した生活はどうなったのかな〜って様子を聞きに来ただけさ。」
セラフィムはにこにこと笑いながら、ゆいの後ろを追いかける。
「あぁ…、皆がこんなこと言ってたね。” こんな形で主様の事を忘れるだなんて嫌だ ” って阿鼻叫喚しながら…ね。でも今は2人目の”主様”として生活できてるから。」
ゆいは俯きながらから笑いした。
セラフィムはそれを面白がるように、更に話を深掘りするように質問した。
「へぇ…。あの日悪魔執事達の中では、天使との戦いで事故に巻き込まれ”故人”と重ねられ、それからまた数百年が経ち、新たな主様がまた登場しました!みたいな感じ?」
セラフィムは何か新しい知識を得た快感を楽しむように話しかけ続ける。それは何か企んでそうな天使らしい笑みではあるが、今のゆいには何も刺さらない。
「恐らくね。でも、”数百年なんて経ってない”のに、あんな発言を聞いたら私の頭が誤作動を起こしそう。」
再びから笑いをしながら歩き疲れて足を止めたゆい。そこで、セラフィムはゆいの手を取り顔合わせになるように此方を向かせた。
「そりゃそうさ。だって故人になったのも君。そして、二人目の悪魔執事の主を名乗るのも君なんだから。───────……そこでね、悪魔執事の主。君に素敵な招待状があるんだ。君を私達の”古の塔”へ案内したい。」
少しだけ心がざわざわと黒いもやもやに覆われた様な感覚に襲われた。
「…其処って確か、知能天使達が…」
「うん、そうだよ。言わば私達の住処の様な所だ。生憎私達には、悪魔執事の主の様な場をまとめ役が存在しない。…だから、我々”知能天使の主”になって欲しいんだ。」
「え?…何?」
ちょうどセラフィムの声に重なるように、屋敷の佇む方向から天使の警報が鳴り響く。すると、セラフィムとゆいの周りを固める様に天使達が舞い降りてきた。
「…おやおや、折角悪魔執事の主と大事なお話をしているのに邪魔が入りそうだ。
…さて、どうしようか?」
セラフィムはゆいの手を両手で包み込むように握りしめる。人間では無いのに、ゆいには彼の手の冷たさに何処か温もりがあるように感じた。
「…ッ!居たぞ!!」
聞き覚えのある声。
セラフィムへの応答を忘れる程、この声をどれだけ愛おしく思い続けただろうか。
「…悪魔執事の主。質問を無視するとは何事かな?」
握られた手が突如強ばってきた。
会いたくない、と思っているのだろうか?いや、そんな筈がない。こんな知能天使如きと比べたら数百倍も、数千倍も愛おしく思っている存在だ。
「…”どうしようか?”も何も答える必要が無い。私は悪魔執事の主、貴方達とは関係を持つ気は無い。」
「なんだ、…悪魔執事と比べたら貧弱な人間が俺達に歯向かうとでも言うのか?」
声のする方に目を向ける。
「…なんで、ケルビム…まで。私達と貴方達の間である関係は”敵”。ただそれだけであって、それ以上もそれ以下も存在しない。」
私の言葉に多少のイラつきを覚えたのか、セラフィムは更に力を強めた。
「主様…!!」
「おい知能天使共、主様の手を離せ!!」
数名の執事達が武器を構えて知能天使に刃を向け、そして他数名の執事達は天使狩りに奮闘する姿は、まるで…───。
「おい知能天使!その小汚ねぇ手で主様に触れんな!!」
何名かの執事が知能天使とゆいを引き離す為に此方に武器を構え迫ってくる。しかしその攻撃を軽やかに交わす知能天使に一撃を加えようとするも、ふと私と目が合う度申し訳なさそうな顔をして、知能天使に攻撃される執事を近距離で見るのはすごく胸が苦しかった。
「…何だかあの日を思い出すねぇ、悪魔執事の主。彼等はもう覚えていないだろうけど、こうして大事な人を人質に取られて、攻撃しようにも上手くいかない惨めな悪魔執事の顔は、見ていて精々するよ。」
「…もうやめて。」
「もうやめて、だって?それなら大人しく悪魔執事の主が此方へ来れば済む話じゃないか。君が此方へ来たら、彼等は助かる。それに、天使達の襲撃も無くなるんだよ。」
セラフィムは “やっと手に入れたソレ” を横抱きし、 地面から軽やかに離れた。
「…はぁ、私達も時間が無いんだ。だから、ここら辺で失礼するよ。」
「嫌!!嫌!!!行きたくない!!!」
ゆいはセラフィムの胸ぐらを掴み、ぐらぐらと揺らす。だがその直後、何かがぶつかる衝撃でセラフィムはゆいを手放した。
「…────────と、当たりました!」
「流石ですね、フルーレ。フルーレの弓の技術は、兄として見ていて誇らしいです。」
フルーレの打った矢が見事命中したセラフィムは、仲間のケルビムに助けられつつバランスを保つ。
「…しょうがない、では今日はこの辺りで引くとしよう。また迎えに来るよ、悪魔執事の主。」
そう言い切ると、知能天使らは遠い所へ消えてしまった。
「ふぅ…、大丈夫か?主様。」
「ありがとう…ハナマル。えっと、重い…よね。ごめんね。すぐ下りるから。」
間一髪のところをハナマルに助けられた主。だがしかし、ハナマルは1ミリたりとも下ろす気が無いようだ。
「…主様、夜の森は危険だぜ?こういう所は男に任されてくれよ。それに、主様は下ろしたら何処行くか分からないから、寝室につくまで抱っこしててやるよ。」
ハナマルはあの日までと同じく凛々しい表情でこちらを見つめてくる。また、横抱きされているせいで、普段より顔が近い為恥ずかしくなってくる。
「あれ?主様、照れてるのか?可愛いところあるねぇ〜。やっぱあの知能天使よりも、ハナマル様にされる方がドキドキするのか?」
「…そんな事言ってない。」
図星と言われても可笑しくない程顔が暑くなっている自分に嫌気がさして、ハナマルの首筋に顔を埋めた。