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因(ちな)みにこの間、悪魔達と善悪、トシ子婆ちゃん(見た目はギャル)、コユキは一切慌てる素振りを見せていない。
特にコユキはいつも以上にどっしり、そしてデップリした風情で泰然自若(たいぜんじじゃく)、本場所前の稽古総見を見守る協会幹部の如き落ち着きを見せていたのである。
茶糖部屋、部屋付きのコユキ親方は言うのであった。
「よっしゃっ! バアルちゃんによる命イズムの講習はこんなもんで良いんでないかい? 各々(おのおの)如何(いかが)かな?」
うん、もう理事長の貫禄である。
だと言うのに空気を読まない事で定評(?)のある、クリエイティブな世界に身を置いて、拘(こだわ)りという名のワルアガキを美徳の一種だと勘違いしているのかもしれない結城昭が声を上げたのであった。
「えっと、私少し引っ掛かってる事があるんですよね…… 先程バアルさんが仰った言葉なんですけどね…… えっとぉ、無機物の中を命が激しく流動中、でしたっけ? エネルギーが流れ続けているとか言っていたと思うんですけどね? ねえ、ハッピーグッドイーブル、いいえ、善悪さん! 有機物ならまだしも無機物でも生命力が流れ続けているんでしょう? 気になりませんか? その『流れ』…… 止めたらどうなるんですかねぇ? ね! 気になりませんか? 善悪さん!」
不意に問い掛けられた善悪は自身が感じたままを口にするのであった。
「結城氏、君も大概ドSなのでござるなぁ…… 命とは流れ続ける物でござるよー! 大地自然の営みと同じく流れて行く物なのでござるけど…… 無理やり止めるとか、それって殺人と同じでござるし、自分で止めるとかも同様に人殺しなのではござらぬか? 僕の命だから、アタシの命だから、俺の命をどうしようが俺の勝手だろう? とか、馬鹿が言うのが現在の風潮でござろ? 自殺も暴走の果ての単独事故死も無謀な試みが失敗しての悲劇的な死も、犯人は自分自身なのでござるよ? 自殺なんかだと思い詰める原因になった人物を責めるとか責任を追及したりする声が大きいけどね、殺したのは死んだ本人なのは確かでござろ? いじめやパワハラで追い詰められたからってなにも死ぬ事無いのでござるよ…… 自殺するって事は原因になっている人間一人を殺しちゃうのと同じ行為でござるよ? 逃げたり誰かに相談したり、なんなら家の中に引き篭もったり、家出したりするのも緊急避難には良いのかもだけど、出来れば自分が何故死のうとまで思ってしまったのか、その理由を誰かに話す事が大事なのでござるよ! 出来る限り冷静に聞いてくれる第三者、教師や上司、友人や家族や同僚じゃなくてなるべく遠い立場の人間に話す事が問題解決に繋がると某は思うのでござるよ? どちらの味方でも無い人間が見れば、傷付いている側か傷付けている相手か、どちらが改善するべきかが良く見えるでござろ? 時には医療なんかの手を借りたりね? 人間関係においては加害者の人格ばかりが悪いって風潮でござるが、案外、双方にカウンセリングとか必要なのでは無かろうか? 親に産み育てて貰って、他の動植物の命を頂いて食事を摂り、木材や有機素材で作られた部屋に住み、着ている服も自然繊維か有機繊維…… 勝手に殺せる自分の命なんて錯覚でござるよ、はあぁ~、他者から譲り受けた命をお借りしているのが生きている、って事なのでござるよ! 生き切る責任があるのでござるっ! どんなに惨めでも苦しくても、逃げ出そうが隠れ潜もうが飢えようが痛かろうが、大声で他人に助けてくれぇ! って叫んででも生きていなければ駄目なのでござるよ! その為に色んなNPOとか教会とかお寺があるのでござるっ! んだから、当寺の中で無機物とは言え命を持つ物を実験みたいに扱うのは拙者はゴメン被るのでござるよ! 恐らく皆も同じ気持ちなのでござろ? 結城氏、慎むのでござる!」
気恥ずかしいのか首を竦(すく)めて俯く結城昭であったが、次に発せられたアスタロトの声を聞くと顔を上げるのであった。
「ふむ…… 無機物の魔力を止める、か…… それは試してみた事が無かったな! 我も興味があるぞ! どうだバアル?」
バアルもアスタロト同様に興味深そうに答えたのである。
「そうだね、どうなるんだろうね? 魔力を抜けば只の無機物になるけど、流れを止めた事は無いね…… 妾は実験に賛成だけどなぁ」
善悪はハッキリとした不快感を浮かべて二人に言う。
「おい、おまいらちゃんと話聞いてたのでござるか? こ・こ・は お寺なの! 命を粗末にとか一番やっちゃいけない場所なのでござる! 馬っ鹿だなぁ、本当に馬っ鹿!」