テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
柘榴とAI

441
#没入感フィクション
柘榴とAI

391
柘榴とAI

298
「なるほど……そんな症状が。であれば、もうやる事は決まっているな。リアルでの“肉体トレーニング”だ」
「リ、リアルでの……やっぱり、そうですよね」
「あぁ、肉体は鍛えておいて損は無い。一つも無い、良い事だらけだ。そしてVRでの感覚の乖離というのは、きっちりアバターの能力まで持って行けと言う訳ではない。君人身の身体能力向上、そして肉体への不満が軽減されれば――」
「ちがぁぁぁぁう!」
リアルで集まったというのに、4cardからアドバイスを貰っていたのだが。
そんな私達に対して、sevenが思いっ切りツッコミを入れて来た。
思わず二人揃ってポカンとしてしまったのだが、彼女は。
「そういうのは、空いた時間に話す事なの! 今回はその症状に滅茶苦茶悩んでますって集まった訳じゃないでしょ!? 本日の目的は、シロちゃんをより可愛くする事! 今後控えている“本番デート”の前に、魅力を200%引き出す事なの! おじさん、そういう所分かってない! 筋トレのアドバイスなら通話でも出来るでしょう!?」
「た、確かに……すまない、ボディガードとして雇われた事を忘れる所だった」
などと、おかしな事を言い始め。
彼女の発言に押し黙ってしまう4card。
な、なんですかソレは……。
いや確かに、彼女がコーディネートしてくれるという話は聞いていたけど。
魅力を上限以上に引き出すって、なんだ。
そもそも私には、引き出せるほどの底力が無いのですが。
とか何とか思って、ハハハ……と乾いた笑い声を洩らしてしまったが。
「まずはぁ~……美容室に行きます!」
「ファッ!?」
此方の腕に抱き付きながら、とんでもない爆弾発言をしてくるではないか。
美容室、ソレは陽の者が通うお洒落な空間。
髪の毛を切ってくれるその人と、強制的に長時間お話する機会が訪れるという、悪夢のような拷問部屋。
お兄ちゃんの所へ来てから、何度か連れて行かれたが……あまりにも話しかけられる為、ハイとしか答えない人形になる技術を習得した程。
もっと言うのなら、あの拷問が怖くてセルフカットを覚えた程だ。
そんな事ばっかりやっていたから、洒落っ気の一つも無いと言うのが現実なんだけど。
「そんな緊張しなくて大丈夫だって~、私の行きつけの所だし。それにずっと近くに居るよー? ついでに、ゴリマッチョのおじさんも近くに居る」
「もちろんだ、警戒を緩めるつもりはない。任せろ、何があっても絶対に俺が守ってやる」
二人して凄い事言っているけど、本当に大丈夫?
という事で、本日のオフ会が本格的にスタートするのであった。
◆
「シロちゃん、こっちも着てみよ!? ね!? 絶対似合うから!」
「こ、こんな可愛いの、私には似合いませんよ……アウランドさんも、そう思いますよね?」
「いや? シロにはとても合っていると思うが。俺みたいな歳の男から言われても嬉しくないかもしれないが、可愛らしいと思うぞ? どれもとても良く似合っている」
その後はもう、何と言うか怒涛の勢いだった。
美容室に入れば、ほぼsevenに任せっきりだし。
「それこそ“シロちゃん”みたいにしちゃって良い!? 全体的に長さを調整して、サッパリさせる感じ! 元々が良いんだから、もっと顔見せなきゃ~!」
なんて、キャッキャと騒ぐ彼女と。
私の正面にある鏡から見える位置に、腕を組んで待機している4card。
これに対し、美容師の方は少々緊張気味だったけども。
しかし世間話的な事が発生する事も無く、sevenとお喋りしている内に随分と髪型もスッキリした。
そしてそのまま、今度は服だー! と言い始めた彼女に連れて来られた場所で……完全に、着せ替え人形になっているという。
あっちもこっちも服を持ってくる彼女に対し、4cardも“良し”を出している状態。
こ、これはどうなのだろう……。
私としては、完全に服に着せられている気がしてならないのだが。
などと、思っていれば。
「おぉ~我ながら、本日のベストマッチはコレかなぁ……ねぇおじさん! どうどう!? すんごく可愛くない!?」
「お、凄いな。どれも良かったが、ソレが一番魅力も引き立っている様に思える。とても良く似合っているぞ、シックス」
「おいコラおっさん、名前」
「……すまない。シロ、良く似合っている」
試着室から出て来た私に対して、二人が絶賛してくれたのは。
普段着ている物と比べると、ちょっと可愛い物を選び過ぎじゃ……と思ってしまう様な服装ではあるのだが。
優しい雰囲気のフリルが付いたブラウスに、デニム生地のスカート。
普段だったら履かないような綺麗で格好良いロングブーツを合わせ、ロングカーディガンという。
本当にコレ、私が着ても良い物なんでしょうか? なんて、思わず聞きたくなってしまう代物だったのだが。
色合いとか、雰囲気みたいな物も含めて。
なんというか……一番、気に入ったかも。
「ほ、本当ですか? おかしくない、ですか?」
恥ずかしくなってしまい、前髪で顔を隠そうとしたのだ。
生憎と散髪して来たばかりで、これといった防御力は発揮してくれなかったが。
「超可愛い、好き。というか6番目の中身がコレですって見せたら、プレイヤーの皆性癖狂っちゃうよ」
「ナナ……お前は、褒めるにしてももう少し言葉を選べ。だが、そうだな。お世辞抜きにとても良いと思うぞ? 最初見た時より、ずっと大人っぽくなった印象だ」
二人にそう言ってもらえて、余計に恥ずかしくなってしまったが。
でも、そっか。
そもそも私、今日は服を買いに来た訳だし。
「そ、それなら……コレに、しようかなって。あ、ありがとうございます。えっと、買ってきますね?」
思い切り照れながらも、もう一度試着室へと戻ろうとしたのだが。
私の腕をガシッと掴んで来るseven。
そして。
「大丈夫、そのまま着て次行こっか」
「…………へ?」
「お持ち帰り用の服も準備するから、今日はソレでオフ会しよっか」
「……ファ?」
なんか、物凄い事言いだしたけど。
ついでに言うと、今まで気が付かなかったけど。
何故か4cardの周りに、購入済みらしき箱やら袋やらが並んでいるんですが。
「大人の財力、舐めるなよぉ? シロちゃんがせっかくオフで付き合ってくれてるのに、手ぶらで帰す訳ないでしょ?」
も、もしかして……今まで試着した服、ほとんど既に購入してるんじゃ――
「えと……お金、払いますから……」
「いらないから、身体で返そっか。可愛い子には可愛い服を着せよ、コレ絶対」
「ひぃぃ!」
やけに黒い笑みを浮かべるsevenは、スッと取り出したクレジットカードを光らせるのであった。
ついでに言うと、本日買った物は全て4cardが運んでくれた。
更には、手が空いた隙に飲み物とか用意してくれる。
こういうのも、ボディガードの仕事だと言って。
そ、そうなの? もはや執事とか秘書みたいになっているけど。
でもやっぱり大人って、私達みたいな学生とは全然違うんだ。
もはや一度も財布を出す事が出来ず、次々と別の場所へと足を運ぶ事になってしまった。
大人と一緒にお出掛け、コワイ。
◆
「ガルルルルッ……」
「唸るな、シスコン。この会社じゃ土日出勤なんていつもの事でしょ?」
パソコンのモニターを睨みながら、必死で仕事をこなしていると。
ものっ凄く呆れ顔の早乙女さんが、そんな事を言いつつ此方に缶コーヒーを差し出して来た。
「そっちじゃないんです、そっちじゃないんですよ」
「あー……うん、なんて言うか、ゴメン。前回の一件があったからこそ、私の方も色々言ったけど。やっぱり、不味かった?」
以前のイベント直前、octopus8がやらかしてくれたソレ。
ぶっちゃけこの件に関しては、彼女本人の評価を見直す。
というのが会社側の出来る事の全て、と言って良かったのだが。
これに関しては、思いっきりsevenの本業に迷惑を掛けてしまったので。
こちら側からも何か出来れば……というのが、本音ではある。
しかしながら、会社というモノはそんなに義理人情だけでどうにか出来るモノではなく。
相手が“別に良い”と言ってくれたのなら、それ以上に何かしら対処をしろとは命じて来ないのだ。
もちろん関係者が言葉を尽くす事は出来るが、本社から“金銭的な支援”などは当然出来る筈もなく。
今回の件に関しては、分かりやすく担当の早乙女さんが“彼女の我儘”を受け入れる方針で進めたのだが……。
彼女の我儘と言えば、やはりシックスことウチの妹な訳で。
会社の不手際をウチの妹に拭わせるのか!? というもっともらしい意見も言える立場にある訳なんですけども。
当人達に関しては、本当に気にしていないと言うか。
むしろ会ってみたいと妹も言い出したくらいだし。
こうなってしまうと、もはや外野が何か言える立場では無くなる訳で。
「不味くはないです、sevenの事は別担当ながら俺も結構知っていますし。4cardに関しても、人柄や経験ともに信用しています。なんですけども……やはり、心配になるのが兄というもので」
「そっちは本当にゴメンね……私からも、6keyさんには何かお詫びできないかって考えてるんだけど……こっちは本当に直接会うタイミングとか無いし、前に言ってた“託飲み”も延び延びになっちゃってるしねぇ……」
やはり中間の位置に立つ人間というのは、こういう事に一番気を使うのが常。
本件に関しては夢月が了承したからこそ成り立ったから良いものの、もしも本人が望まないのなら絶対に断るつもりだった。
というか、会社自体が個人に任せっきりなのもどうなんだよ。
などと思ったりもするが、生憎とそこまで若い精神はしていないので、“でしょうね”くらいの感想くらいしか浮かばないけど。
「ほんっとうにゴメンねぇ……って、アンタにばっかり謝るのも違うんだけど。今度、妹さんにご飯奢って良い? それくらいしか私には出来ないしさぁ……」
「多分それこそ、夢月は断りますよ。早乙女さんにはいつもお世話になってるって、普段から言ってますから。相手のお金を使わせたりとか、俺相手でも遠慮しますからね」
「もうちょっと甘えてよぉ……高校生でしょぉ? 若い頃なんて、あっちもこっちも欲しい年代でしょうがぁぁぁ」
そんな事を言いつつ、頭を抱えながらグネングネンと動く早乙女さん。
これを横目に仕事を続けていると。
ふと、スマホが振動し始めた。
そいつを目の前に持って来て、届いたらしいメールを確認してみると。
「……おい、急にニヤけるな。こっちの方が反応に困るでしょ。何見てるの?」
覗き込んで来た早乙女さんに、今しがた届いたメールと。
そして添付されていた画像を見せてやれば。
「え、可愛い! あれ? 妹さんって、もっと自信なさそうな感じじゃなかったっけ!?」
思いっ切り、スマホを覗き込んでおられた。
『コレ、本当に変じゃない? 二人は似合ってるって言ってくれてるんだけど、おかしくない?』
そんなメッセージと共に、妹が少々恥ずかしそうに笑いながらピースしている写真が。
ついでに言うと妹にくっ付いているsevenの姿と、撮影を担当しているらしいムキムキの4cardがチラッと鏡に映っているが。
「はぁ……これだけ可愛い妹が居れば、シスコンになるのも納得ですわ」
「でしょう?」
などと適当な会話をしつつ、妹には『似合ってる』とちゃんと言葉にしてやるのであった。
アイツの自信の無さは、本人だけじゃ覆らないだろうから。
こうして、普段から周りが言葉にしてやらないと。
とかなんとか、それっぽい事を思っていた訳だが。
おい待て、こんなに可愛くなってしまったら、ナンパとか大丈夫か?
くそっ、こうしちゃいられない。
4cardの担当に連絡して、ウチの妹を死守しろと伝えてもらわなくては。
コメント
1件
うわっ、めっちゃ可愛い……! 美容室でイメチェンして、服も可愛いの選んでもらって、しかも写真まで送ってくる妹ちゃん、もう完全に“ヒロイン”じゃないですか! sevenさんの「身体で返そっか」も4cardさんが荷物持ちしてるのも、3人の距離感がぎゅっと詰まっててほっこりしました。兄がニヤけるのも分かりますよ、この微笑ましさ(笑)。次はナンパ対策が本格化しそうで、それもまた楽しみです🤭